第88話:万象の円卓ふたたび――テイマー師弟の暴走と、Aランク救出リスト
### 第88話:万象の円卓ふたたび――テイマー師弟の暴走と、Aランク救出リスト
狂気の魔獣使いシズルを「第二の使徒(愛弟子)」として箱庭に迎え入れ、彼女の錬金術の被害者だったキメラたちを無事に元の姿へと戻したアストラル・クルーザー・マキナ。
急を要する『Sランク(即死・星系崩壊クラス)』の緊急事態をすべて解決した一行は、艦内の作戦室(円卓会議場)にて、次なる航路を定めるための大規模な作戦会議を開いていた。
「……というわけで、宇宙のシステム崩壊という最悪のシナリオは回避された。だが、まだ休むわけにはいかないぞ」
軍師ジンが、円卓の中央に全宇宙の星図をホログラムで投影する。
「ああ。クロノア様から提供されたデータによると、即時崩壊とまではいかないが、放置すれば確実にバグに呑まれる『Aランク』の転生者たちが、まだ多数点在しているからな」
丞相カイトが眼鏡を押し上げ、数式を叩き込む。
その円卓の特等席には、艦長であるリオンと、すっかり「お師匠様ラブ」な助手モードになったシズルが、目をキラキラさせて身を乗り出していた。
「ジンさん! カイトさん! 次の迷子たちはどんな人たちなの? 魔物もいっぱいいる!?」
「お師匠様! 私、どんな魔物でもお世話する準備できてます! アルトワール様からいただいた『無限魔物フード』の在庫もバッチリです!」
テイマーとしての魂に火が点いている師弟コンビの圧に、ジンとカイトは少しだけ顔を引きつらせた。
「……まあ待て、二人とも。今回は対象が多い。まずは情報を整理するぞ」
#### 1. Aランク転生者(救済対象)リスト
カイトが端末を操作し、ホログラムに三つの赤い光点をピックアップして箇条書き(リスト)を展開した。
* **【対象1:カラクリ武闘家・ゲンショウ(地球出身)】**
* **状況:** 第五銀河・機巧廃棄星。己の肉体をサイボーグ化し、たった一人で孤児院の防壁を守り続けている武闘家。
* **脅威度Aの理由:** 瘴気による汚染はないが、連日の戦闘でパーツの摩耗が限界。あと数ヶ月で完全な機能停止(過労死)に陥る。
* **【対象2:星屑の豪商・マルコ(異世界出身)】**
* **状況:** 第八銀河・商業コロニー。莫大な財力で星を丸ごと買い取り、強力な傭兵団と魔導障壁で瘴気を防いでいる元・商人。
* **脅威度Aの理由:** 経済が完全に破綻。障壁を維持するため、自分の「寿命(魂)」を担保にして悪魔と契約し、魔力を前借りし続けている魂の多重債務者。
* **【対象3:絶唱の歌姫・カノン(地球出身)】**
* **状況:** 第二銀河・水晶の海。彼女の歌声(音波魔術)だけが、瘴気の進行を物理的に押し留めている星。
* **脅威度Aの理由:** 数十年に及ぶ連続防衛ライブにより、声帯と生命力が限界。彼女が歌うのをやめた瞬間、星は泥に沈む。
「……どれもこれも、ブラック企業も青ざめるレベルのワンオペ防衛戦だな」
獣人のシンが犬耳をペタンと伏せてため息をつく。
「ええ。物理的な破壊よりも、責任感で自らの命をすり減らしている方ばかりですわね……」
エルフのアイリスも同情に目を伏せた。
「よし! 武道家のおじいちゃんには箱庭の温泉を! 商人さんには無限に湧き出る黄金のリンゴを! 歌姫ちゃんには、ハクト君の部屋でカラオケパーティーをプレゼントしよう!」
リオンが、すでに「救出後のスローライフ計画」を完璧に立案し、力強くガッツポーズをした。
#### 2. SS〜Aランク魔物(テイム対象)リスト
「リオンの言う通り、彼らの救済は最優先だ。……だが、航路を決めるにあたり、もう一つ『無視できない要素』がある」
ジンがニヤリと笑い、ホログラムの表示を切り替える。
そこに映し出されたのは、転生者たちの星の周囲を徘徊する、強大にして未知の宇宙魔物たちのシルエットだった。
「お師匠様! 見てください、この魔物たちのデータ! 私の錬金術師の血と、テイマーの魂が騒ぎます!!」
シズルがバンッ!と円卓を叩き、鼻息を荒くした。
* **【SSランク:星殻の巨亀】**
* **特徴:** カラクリ武闘家の星の近くを回遊する、小惑星サイズの巨大亀。背中の甲羅に、すでに滅びた別の星の「美しい自然(森と湖)」を丸ごと乗せて宇宙を泳いでいる。
* **師弟の反応:** 「背中でピクニックできるじゃん! 絶対お友達になる!(リオン)」「あの甲羅の土壌、最高の薬草が育つはずです!(シズル)」
* **【Sランク:凍星の不死鳥】**
* **特徴:** 絶唱の歌姫の星を狙う、絶対零度の氷炎を纏う水晶の鳥。瘴気を凍らせて飛び回る、美しくも危険な宇宙の特異点。
* **師弟の反応:** 「キラキラしててすっごく綺麗! 冷たくて気持ちよさそう!(リオン)」「羽を一枚ブラッシングでいただく権利は私にください!(シズル)」
* **【Aランク:流体水銀の機巧粘体】**
* **特徴:** 豪商の星を取り囲む、金属の体を持ちながら液体のようにも振る舞うスライムの大群。群体で一つの超高度な電子頭脳を形成している。
* **師弟の反応:** 「シズク(リオンのスライム)の新しいお友達だね!(リオン)」「金属スライムの配合……これは新種の誕生の予感がします!(シズル)」
#### 3. 喧々諤々(けんけんがくがく)のルート選定
リストが出揃った瞬間、作戦室はかつてないほどの熱気に包まれた。
「ジン! 戦術的観点から言えば、まずは豪商の星(対象2)へ向かい、あの金属スライム(Aランク)を確保するべきだ! あれをメテオのシステムに組み込めば、船の演算能力は今の三倍になる!」
カイトが、理系の欲望を隠そうともせずにテーブルを叩く。
「却下だ、カイト! 命の危険度で言えば、武闘家(対象1)の過労死が一番危ない。何より、あの巨亀(SSランク)を味方につければ、今後の救出作戦で『移動可能な前線基地』として使えるぞ!」
ジンが軍配を振り下ろし、戦術的優位性を主張する。
「お二人とも待ってください! 歌姫様(対象3)の喉のケアは一刻を争いますわ! ルミエルの浄化の風と、私の淹れる蜂蜜紅茶をすぐにでも届けるべきです!」
「ルミナスお嬢様の仰る通りです。それに、あの不死鳥(Sランク)の氷炎があれば、お嬢様の夏のデザート作りが捗りますぞ」
ルミナスとセバスが、優雅ながらも譲らない姿勢を見せる。
大人たちが喧々諤々の議論を交わす中。
リオンとシズルの師弟コンビは、顔を見合わせてニカッと笑った。
「ジンさん、カイトさん! そんなの、迷う必要ないよ!」
「そうです! お師匠様の船と、私たちの愛があれば、全部いっぺんに解決できます!」
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> ※リオンの「全部助ける」というワガママを、カイトが即座に最適化方程式に落とし込んだ結果。
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「……はぁ。お前たちのその無軌道なテイム欲には敵わん。カイト、三つの星系を一筆書きで回る超空間跳躍の軌道計算を頼む」
「すでに完了している。機関室のゲイル、出力$120%$でスタンバイだ!」
「おうよ! エンジンは絶好調だぜ!!」
#### 4. 次なる航海へ
目標は定まった。
武闘家、豪商、歌姫というAランク転生者たちの救済と、巨亀、不死鳥、金属スライムというロマン溢れる宇宙魔物たちのテイム。
「よーし! それじゃあ、全速前進! 宇宙のお友達救出ツアー、第二弾の出発だぁ!」
リオンの元気な号令と共に、シズルが満面の笑みでコンソールを叩く。
『リョウカイ、マスター。第一目標、機巧廃棄星……ワープ、開始シマス』
メテオの無機質ながらも頼もしい音声が響き渡る。
白銀の超弩級戦艦『アストラル・クルーザー・マキナ』は、神話級の魔物たちと新たな家族の笑い声を乗せ、漆黒の宇宙のキャンバスに、眩い希望の光跡を引いて駆け出していった。




