第87話:倫理崩壊の真実――哀しきキメラと、慈愛の分離方程式
### 第87話:倫理崩壊の真実――哀しきキメラと、慈愛の分離方程式
第九銀河の暗礁宙域。瘴気の雲に覆われた『魔獣星・キメラ・ノア』。
この星の地表は、おぞましい光景に満ちていた。人間と魔物のパーツが複雑に絡み合った「合成獣」たちが、あてどなく荒野を徘徊しているのだ。
その中心にある石造りの研究所で、一人のうら若き少女が、血と泥にまみれた手で錬金術の陣を描いていた。
彼女こそ、異世界から召喚された天才魔獣使いにして錬金術師、**シズル**。
「ごめんね……っ、痛いよね。でも、こうするしか、あなたが生き残る方法はないの……!」
シズルの瞳からは、大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちていた。
彼女の腕の中には、瘴気に体を溶かされかけている小さな人間の子供と、同じく死にかけの星狼が横たわっている。
#### 1. 倫理崩壊の裏側:ただ、生きてほしかった
(私が……私が弱かったから。私の魔法じゃ、この宇宙のバグからみんなを守りきれなかった……っ)
シズルの精神は、すでに限界を通り越して擦り切れていた。
外宇宙の瘴気は、魔物にはある程度の耐性があっても、脆弱な人間の肉体はすぐに「泥」へと変換してしまう。彼女が愛した民たちが次々と溶けていく地獄の中で、天才である彼女は、最悪の「解決策」に辿り着いてしまった。
――人間と魔物を融合(キメラ化)させれば、瘴気耐性を獲得して生き延びられる。
それは、生命の倫理を完全に踏みにじる禁忌。
合成された者は、人の姿も、魔物の誇りも失い、ただの醜い化物へと成り果てる。
それでも。
「泥になって消えるより、ずっといい……! 生きてさえいれば、いつか……いつか私が、元の姿に戻す方法を見つけるから……ッ!」
狂気ではない。それは、あまりにも純粋で、悲痛すぎる「愛」と「責任感」の末路だった。
彼女は自らの魂と倫理をすり潰しながら、今日まで数千の民をキメラへと作り変え、ただひたすらに「命」を繋ぎ止めてきたのだ。
#### 2. 白銀の強襲と、慈愛の分離
シズルが震える手で、子供と星狼を融合させる錬成陣を発動しようとした、その瞬間。
――**ピシャァァァァァァァッ!!!!**
研究所の天井が、眩い白銀の光と共に吹き飛んだ。
空に浮かぶのは、超弩級魔導戦艦『アストラル・クルーザー・マキナ』。そこから、琥珀色の瞳の少年が、フワリと重力を無視して舞い降りてきた。
「なっ……!? 侵入者!? いけない、この星の瘴気に触れたら、あなたも泥に……!」
シズルが初対面のリオンの心配をして叫ぶが、リオンの周囲には、強力な浄化のフィールドが展開されていた。
「もう大丈夫だよ、シズルさん」
リオンは、シズルの腕の中にいる子供と星狼、そして周囲を取り囲むように集まってきた数千のキメラたちを見渡した。
異形の化物たち。通常なら悲鳴を上げて逃げ出すか、剣を抜くおぞましい姿。
だが、リオンの瞳から溢れ出したのは、底なしの【慈愛】だった。
「みんな、痛かったね。無理やりくっつけられて、ずっと泣いてたんだね。……もう、離れていいよ」
リオンが両手を広げると、カイトの端末から「現代錬金術の常識を粉砕する数式」が光の帯となって空間に展開された。
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> ※リオンの【神羅万象の絆】(愛)を触媒とし、不可逆であるはずのキメラの融合力 F を解きほぐし、元の魂と肉体へ「個別に」再構築する究極の分離方程式。
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「――【慈愛の解印】!!」
黄金の光が、星全体を包み込む。
キメラたちが光に包まれた瞬間、醜い肉体の結合が解け、ぽろぽろと「元の人間」と「元の魔物」の姿へと分かれていく。
しかも、リオンの魔力によって瘴気の毒素は完全に浄化され、彼らは健康な状態のまま、穏やかな寝息を立ててその場に崩れ落ちた。
「あ……ぁ……」
シズルの目の前で、融合しかけていた子供と星狼もまた、元の元気な姿を取り戻した。
彼女が数百年かけて、魂を削って追い求めていた「奇跡」が、目の前の少年によってたった数秒で成し遂げられてしまったのだ。
#### 3. 弟子入り志願と、牧場の夢
「……なんで。私があんなに、あんなに苦しんで……泥だらけになって……。あなたは、一瞬で……」
シズルが、その場にへたり込み、ボロボロと涙をこぼす。
「シズルさんが、みんなの命を諦めないで『生かして』くれてたからだよ」
リオンは、泣き崩れるシズルに優しく手を差し伸べた。
「俺の『箱庭』においでよ。そこなら、瘴気なんてない。人間も、魔物も、無理にくっつかなくたって、みんな一緒に楽しく暮らせる牧場があるんだ。……シズルさん、俺と一緒に、魔物たちのお世話、してくれない?」
その言葉は、シズルの胸の奥底に突き刺さった。
彼女が本当にやりたかったこと。それは、おぞましい合成獣を作ることではない。ただ、魔物と人が笑顔で触れ合える、平和な日々を作りたかったのだ。
「……はいっ。……私、やります。あなたの箱庭で……魔物たちの、お世話をさせてください……ッ!」
シズルは、リオンの手を両手で握り締め、額を地面に擦りつけるように平伏した。
「リオン様……いえ、**お師匠様!** 私を、あなたの弟子にしてください!!」
「えっ、弟子? うん、いいよ! 一緒に美味しい牛乳搾ろうね!」
#### 4. 神の狂喜乱舞と、第二の使徒爆誕
「……おい。うちの主が、ついに弟子(同業者)まで取りやがったぞ」
上空の戦艦から見ていたシンが、呆れたように犬耳を掻く。
「軍配の振るい甲斐があるというものだ。これで内政(牧場経営)も安泰だな」とジンが笑う。
メテオとリヴァイの力によって、シズルと民、そして魔物たちは、そのまま安全な【無限の箱庭】へと物理的にお引っ越しを完了した。
青空広がる箱庭の牧場エリアで、シズルが「……嘘、本当に泥がない。魔物たちが……普通に走ってる……」と感動に打ち震えていると、お約束の光が天空から突き刺さった。
『……シズルよ、そして民たちよ』
**ズザァァァァァッ!!**
もはや伝統芸能の域に達した、輪廻神クロノアの**「超光速・スライディング土下座(四回目)」**が芝生に炸裂した。
『本当に、本当に申し訳ありませんでしたぁぁッ!! 乙女の倫理観を崩壊させるほどのブラック環境を放置したこと、神として切腹モノの罪!!』
シズルが驚いて言葉を失っていると、その隣から、過保護神アルトワールが、かつてないほどの『神気』を爆発させて飛び出してきた。
『カッカッカッ!! クロノアよ、もはやお前の土下座など誰も見てはおらん!!』
アルトワールは、シズルの肩をガシッと掴み、涙と鼻水を流しながら激しく揺さぶった。
『聞いたぞシズル!! お前、私の愛するリオンを「お師匠様」と呼んだな!? つまりリオンの『一番弟子』!! ということは、私から見れば「孫」のようなもの!! 素晴らしい、歴史的快挙だ!!』
「ま、孫……? 弟子……?」
シズルが目を白黒させる中、アルトワールの過保護システムが、過去最大級のバグを引き起こした。
『よし! リオンの愛弟子であるお前を、この過保護神アルトワールの**【第二の使徒】**に任命してやろう!! そして、これからの牧場ライフを満喫するための、至高のギフトを授ける!!』
> **【第二の使徒シズルへの付与:|神域の全自動・極上ふれあい牧場&無限魔物フード《アルティメット・モフモフ・ファーム》】**
> **効果:** どんな凶暴な魔物であっても、シズルが撫でるだけで「最高に人懐っこい犬」のような性格にリセットされる神のテイム補佐スキル。さらに、牧場のサイロからは、魔物の健康状態を完璧に保ち、毛並みをシルクのように輝かせる「宇宙一美味しい魔物用フード」が無限に湧き出す。糞尿の処理も神の力で全自動浄化(無臭化)されるため、労働ストレスはゼロ。
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「なっ……なんですか、この神みたいな能力は!? これなら、どんな魔物でも安全に育て放題じゃないですか……ッ!」
元・天才魔獣使いのシズルが、錬金術の常識を覆すギフトに震え上がる。
『これで、リオンがお前と共に牧場で遊ぶ時も、絶対に怪我をしないというわけだ! 孫よ、我が使徒リオンの最高のサポート役として励むがよい!』
「はいっ、神様! お師匠様のために、私、宇宙一の牧場を作ってみせます!」
すっかり洗脳……いや、感銘を受けたシズルが、目をキラキラさせて敬礼した。
「……セバス。アルトワール様は、自分の都合で神の使徒をバーゲンセールし始めましたわよ」
「左様にございますな、お嬢様。ですが、箱庭の牛乳や卵の品質がさらに向上するとなれば、我々のお茶会にとっても吉報でございます」
ルミナスとセバスが、優雅に紅茶を傾けながらそのカオスを見守る。
こうして、外宇宙における危険な「S寄りのAランク」事案は、リオンの規格外の慈愛と、神々の土下座&過保護ギフトによって、すべて『箱庭の賑やかなスローライフ』へと見事に吸収された。
第二の使徒(弟子)まで手に入れたリオンの箱庭は、もはや一つの星系の生態系を凌駕する楽園へと成長し、次なる未知の銀河へと、白銀の戦艦の帆を進めるのであった。




