第77話:機星の救難信号(SOS)と、神すら呆れるSSS(トリプルエス)の命名式
### 第77話:機星の救難信号(SOS)と、神すら呆れるSSSの命名式
冷たい銀色の装甲で覆われた大地。かつて超機械文明が栄華を誇ったであろう『機巧の死星』の地表を、リオンたち探検隊は進んでいた。
ルミエル(世界樹の神鹿)の放つ浄化フィールドが、周囲の瘴気を清浄な空気へと変換し、彼らの歩む道だけが、死の星に咲く一輪の花のように輝いている。
「……マスター、応答願イマス」
リオンの腕に巻かれた通信端末から、上空で待機する機神竜メテオの電子音声が響いた。
「どうしたの、メテオ?」
『本艦ノ防壁ニ弾カレタ瘴気ノ波長ノ中カラ、極メテ微弱ナ【特定暗号通信】ヲ分離・抽出シマシタ。コレハ、コノ星ノ防衛システム……イエ、生存者カラノ救難信号(SOS)デス』
メテオの音声と共に、リオンの目の前に青白いホログラムが展開された。
そこに映し出されたのは、ここから数キロ離れた「すり鉢状の巨大なクレーター(かつての魔導炉跡)」。
そして、その中心で、瘴気に汚染された無数の機械獣(スクラップの群れ)に包囲され、たった一匹で孤軍奮闘する**「巨大な機械の獅子」**の姿だった。
#### 1. 驚愕の観測データ:SS級の孤高なる守護獣
「おいおい……嘘だろ」
ホログラムを見たシンが、信じられないものを見たように目を剥いた。
「あの機械のライオンが放ってる魔力、画面越しでも肌がヒリヒリするぞ。……エゼルガルドの生態系に当てはめたら、間違いなく天災指定の『SS級』魔物だ」
「シンの言う通りだ」
カイトが白衣のポケットから演算端末を取り出し、猛烈な勢いでキーを叩く。
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> ※プラズマ密度と機動性の積分値。エゼルガルドの軍勢一万を単騎で殲滅できる出力。
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「あれは**『機星の獅子王』**。……おそらく、この星の文明が滅びる直前、星のコアを守るために造り出された最終防衛兵器だ。奴は数千年間、たった一匹でこのクレーターの底を瘴気から守り抜いてきたんだ!」
「数千年も、一人ぼっちで……?」
リオンの琥珀色の瞳が、悲痛に揺れた。
ホログラムに映る獅子の体はボロボロだった。黄金の装甲はひび割れ、たてがみのプラズマは消えかかり、右の前脚は欠損して引きずっている。それでもなお、敵に牙を剥くその姿は、痛々しいほどに気高かった。
「……行くよ! ジンさん、シン君、道を切り拓いて!」
「御意。……全軍、疾風の陣! 救難対象の救出に向かう!」
ジンが軍配を振り下ろし、探検隊は超絶的な速度でクレーターへと駆け出した。
#### 2. 救出ミッション:星を護る者への加勢
クレーターの底に到着した一行の目に飛び込んできたのは、絶望的な数の暴力だった。
アリのように群がる漆黒の機械蜘蛛たち。獅子王は最後の力を振り絞り、口からプラズマの咆哮を放つが、数の暴力の前に押し潰されようとしていた。
「させないっ! 【死地を穿つ慧眼】、起動!」
シンが跳躍し、敵の群れの「関節の脆弱性」を瞬時に見抜き、双剣で次々とダルマに変えていく。
「アイリス! 右翼の制圧を頼む!」
「ええ! 【神樹の王冠】、魔力解放! ――『大地の根絶』!!」
エルフの王女アイリスが杖を振るうと、金属の大地を突き破って巨大な世界樹の根が出現し、機械蜘蛛の群れを次々と圧殺していく。
ジンとカイトの的確な戦術支援により、獅子王を包囲していた数万の群れは、わずか三分で完全なスクラップへと変わった。
「……グルルルルッ……」
敵が消え去った後も、傷ついた獅子王は警戒を解かなかった。
未知の侵入者であるリオンたちに対し、欠けた牙を剥き出しにし、今にも倒れそうな体を必死に支えて威嚇している。
「大丈夫だよ。俺たちは、君のSOSを聞いて来たんだ」
リオンは武器を持たず、両手を広げてゆっくりと近づいていった。
「マスター、危険デス! 対象ノ警戒レベルハ最高値……!」とメテオが通信で警告するが、リオンの歩みは止まらない。
「グルァッ!!」
獅子王が威嚇の咆哮を上げ、プラズマの爪を振り上げる。だが、リオンは逃げるどころか、その爪を真っ向から両手で受け止め、冷たい金属の巨体に優しく抱きついた。
「……痛かったね。……よく、一人で頑張ったね。君が守りたかったこの場所は、もう大丈夫だから」
リオンの圧倒的な【神羅万象の絆】の慈愛が、ひび割れた装甲の奥、獅子王の電子頭脳(心)へと流れ込んでいく。
「……ピィ……ガガ……」
獅子王の赤いカメラアイが、激しく明滅し、やがて穏やかな黄金色へと変わった。振り上げていた爪が力なく下ろされ、巨体がリオンの胸に崩れ落ちる。
『ピコンッ!』
『機星の獅子王(SS級)とのテイムが完了しました!』
#### 3. 命名の儀式:論理崩壊のSSS
「よし! これで君も俺の家族だ。えっとね、君のたてがみ、星の爆発みたいに綺麗だから……」
リオンが、獅子王の頭を撫でながら、無邪気に名前を口にした。
「君の名前は、**『ノヴァ』**だよ!」
――その瞬間だった。
『ピコンッ! ピピピピピピピーーーーッ!!!』
リオンの脳内で、システム音がエラーを起こしたようにけたたましく鳴り響いた。
カイトの持っていた演算端末のスクリーンが「OVERLOAD(計算不能)」の文字で埋め尽くされ、破裂音と共に煙を吹く。
「な、なんだ!? リオン君の【名付け】の魔力が、獅子のコアで暴走している!?」
「違う、暴走じゃない! 限界突破だ!」
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> ※カイトの脳内演算。リオンの底なしの慈愛と、SS級の素体が【名付け】によって化学反応を起こし、エネルギー値が無限大へと発散した。
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クレーター全体を包み込むほどの強烈な黄金の光が炸裂した。
光の中で、ボロボロだったノヴァの装甲が剥がれ落ち、新たに神輝鋼を凌駕する「純白の神域合金」へと再構築されていく。
欠損していた右脚は完全に再生し、たてがみのプラズマは、超新星爆発を思わせる七色の光の帯へと進化した。
『ピコンッ!』
『名付けによる超常進化を確認しました。』
『|機星の獅子王は、**【超新星の神機獅】(SSS級)**へとランクアップしました!』
「エス……エス、エス……ッ!?」
シンが腰を抜かしてへたり込んだ。
「SS級の上の『SSS』だと!? おい、俺たちのいた世界じゃ、魔王ですらSS級が限界だったんだぞ!」
『グルルルゥゥ……!』
新しく生まれ変わったノヴァが、誇り高く、かつ甘えるようにリオンの頬をペロリと舐めた。その一舐めで、周囲の金属の瓦礫がプラズマの余波で消し飛ぶという恐ろしいオマケ付きだ。
#### 4. 監視室の神々:呆然とツッコミの嵐
一方、その光景を神界の中央監視室のモニターで見ていた二柱の神は、完全に言葉を失っていた。
『…………アイゼル。……私の見間違いでなければ、今、システムのランク上限が、リオンの「名付け」という物理攻撃(?)でぶち破られなかったか?』
アルトワール神が、持っていたポップコーンを床にバラバラと落としながら、震える指でモニターを指差す。
『ええ。見間違いではありませんわ。……SSS級。星を創り、星を壊すに等しい神格クラスの魔物です。それが今、「名前を貰って喜ぶ大型犬」になり下がりました』
冥界神アイゼルが、こめかみを強く揉みほぐしながら深く、深いため息をつく。
『いやいやいやいや! おかしいであろう!? SS級の魔物をテイムするだけでも歴史的偉業なのに、ちょっと頭を撫でて「ノヴァだよ!」と言っただけで、なんで神(我々)に匹敵するステータスに進化するのだ!? 宇宙のバランスというものがあるだろうが!!』
『……貴方がリオンに付与した、常時発動型の【神羅万象の絆】の慈愛バフが、素体のスペックと掛け合わされてバグを起こしたのでしょう。……すべて貴方の過保護のせいですわよ、アルトワール』
『なっ……!? わ、私のせい!? いや、だがしかし!』
アルトワールは一瞬たじろいだが、すぐにパンッと手を叩き、誇らしげに胸を張った。
『カッカッカッ! さすがは私の使徒! 宇宙の深淵を旅するならば、最低でもSSS級のペットが一匹はいないと、転んで怪我をした時に危ないからな! これで安心安全の宇宙旅行が確約されたというものだ!』
『……もう、貴方たち主従には何も言う気が起きませんわ』
アイゼルは完全に白旗を揚げ、呆れ果ててモニターから視線を外した。
かくして、機巧の死星で孤独な戦いを続けていた獅子王は、テイマーの無邪気な一言によって宇宙のバランスを崩壊させる最強のペット『ノヴァ』として生まれ変わった。
神すらも呆れ果てるインフレ(過保護)を背負い、リオンたちの惑星探査は、さらなる未知の驚きへと突き進んでいく。




