第76話:星海の残骸と、神が指し示す「かつての星」
### 第76話:星海の残骸と、神が指し示す「かつての星」
機神竜メテオと奇跡の合体を果たし、**『星海巡洋機甲』**へと進化したリオンたちの乗艦は、漆黒の外宇宙を音もなく、しかし圧倒的な速度で駆け抜けていた。
船内は、かつてないほどの静寂と快適さに包まれている。メテオの最適化によって魔力機関のノイズは完全に消え去り、アルトワール神の『慣性中和』によって、光速を超えた跳躍の最中であっても、ルミナスの淹れる紅茶の液面は鏡のように平らなままであった。
「……マスター。第十二宙域、空間干渉ゼロ。航行ハ極メテ順調デス」
「ありがとう、メテオ! すごいね、宇宙の景色が飛ぶように過ぎていくよ!」
艦橋のメインモニターには、メテオの電子頭脳がリンクしたことで、数万光年先の星雲までが鮮明な光学データとして映し出されていた。
無邪気に宇宙の景色を楽しむリオンとは対照的に、作戦室の円卓では、軍師ジンと丞相カイトがかつてなく険しい顔でホログラムを睨みつけていた。
#### 1. 宇宙の痕跡:別世界の「人類」という謎
「……リオン君、少し良いか。メテオが仲間になったことで、一つ『看過できない事実』が判明した」
カイトが円卓に投影したのは、合体前にメテオ(旧ジャンク・イーター)を構成していた「装甲」や「部品」の解析データだった。
「奴の体を構成していた残骸……あれは、魔法の産物じゃない。極めて高度な『科学技術』の結晶だ。しかも、そこには確実に『人』の顔が融合していた」
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> ※カイトが弾き出した、装甲片の放射性同位体による年代測定式。
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「この炭素年代測定と、装甲の冶金技術の解析結果から導き出される結論は一つ。……**この宇宙には、俺たちやエゼルガルドの大陸以外にも『人類』、あるいはそれに近しい知的生命体が存在し、かつて高度な宇宙文明を築いていた**ということだ」
ジンの言葉に、シンとアイリスが息を呑んだ。
「つまり、メテオを構成していたあの悲惨なスクラップたちは……他の星で瘴気と戦い、敗れ去った『別の宇宙船』や『宇宙艦隊』の成れの果てだったってことか?」
シンが、自身の犬耳をピクリと震わせて尋ねる。
「ああ。メテオ自身はバグの集合体だったが、そのパーツ一つ一つには、星を守ろうとして散っていった名もなき英雄たちの想い(データ)が染み付いている」
カイトが解析結果を締めくくると、リオンは艦長席でギュッと拳を握りしめた。
ただのゴミではない。メテオは、かつて誰かが命を懸けて戦った「証」の集合体だったのだ。
#### 2. 神の啓示:星の海路
その重い事実を前に、円卓の空座に、お馴染みのまばゆい光が降り注いだ。
過保護神アルトワールと、冥界神アイゼルである。
『……その通りですわ、ジン、カイト』
アイゼルが、静かに頷く。
『この宇宙は、システムから弾かれたバグの海。ですが、同時に「瘴気に立ち向かい、散っていった星々の墓場」でもあります。メテオの残骸は、はるか昔に滅びた超機械文明の遺物……』
『カッカッカッ! 湿っぽい話はそこまでだ!』
アルトワールが、悲壮感を吹き飛ばすように扇子をバサァッと広げた。
『リオンよ! 悲しむ必要はない。お前がメテオを「新品」に生まれ変わらせたことで、彼ら散っていった魂たちも、無事に浄化され、星の海へと還っていったのだからな!』
「本当!? 良かった……」
リオンの顔にパァッと明るい笑みが戻る。
『そして、ここからが本題だ!』
アルトワールが指を鳴らすと、アストラル・クルーザー・マキナの星図が黄金の光に包まれ、特定の一点に強烈な「ピン(目的地)」が突き立てられた。
『メテオの深層データから、次の「助けを求める声」の座標を抽出した! この宙域の先に、かつてメテオの部品たちを生み出した超巨大な星がある! 名付けて**『機巧の死星』**!』
「機巧の死星……! つまり、宇宙文明の遺跡があるってことか!」
カイトの理系の血が、激しく沸き立つ。
『そうだ! そこには、瘴気に飲み込まれたまま眠りについた、強大な「未知の魔物」——いや、かつての星の守護獣が封印されているはず。リオンよ、次なるお友達探しの舞台は、この星だ!』
#### 3. 惑星探索の幕開け:巨大な機械の輪郭
神の啓示による座標入力が完了し、メテオの電子音声がカウントダウンを開始する。
『座標固定。……超光速魔導ワープ機関、起動。空間跳躍マデ、三、二、一……』
**ピシュゥゥゥン……ッ!!!**
視界の星々が細い光の線へと引き伸ばされ、次の一瞬には、アストラル・クルーザー・マキナは全く別の宙域へと到達していた。
「……信じられない。なんだ、あの星は……」
展望デッキに立ったルミナスが、優雅な扇子を取り落としかけた。
眼前に現れたのは、木星ほどもあろうかという巨大な惑星。
だが、その表面は海でも大地でもなく、幾重にも重なる**「銀色の金属装甲」**と**「無数の廃墟となった都市のネットワーク」**で完全に覆われていた。
星の周囲には、土星の環のように「破壊された宇宙艦隊の残骸」が帯となって漂流している。
「完全に星一つを要塞化したのか。……俺たちのいた世界の常識が、文字通りゴミ屑に見える科学力だ」
ジンが圧倒されたように呟く。
『……マスター。コノ星ノ大気圏内カラ、微弱ナ【救難信号(SOS)】ヲ検知。……同ジク、超高濃度ノ瘴気反応アリ』
メテオの冷徹な報告が、艦橋に響く。
「誰かが、あの中でまだ待ってるんだね」
リオンは琥珀色の瞳を輝かせ、迷いなく命じた。
「アストラル・クルーザー・マキナ、大気圏へ突入! みんな、初めての『他の星の探検』だよ! 迷子の声の主を探しに行こう!」
#### 4. 未知の地表へ
白銀の巨艦が、分厚い瘴気の雲を切り裂き、機械の星の地表へと降下していく。
眼下に広がるのは、天を突くほどの巨大な摩天楼の残骸と、機能が停止し錆びついたままの巨大な歯車群。空は常に暗く、魔導炉の残光だけが不気味に都市を照らしている。
「大気の成分、酸素は存在するが、毒素が混じっている。……だが、ルミエルの浄化フィールド内で活動すれば問題ない」
カイトが環境データを瞬時に解析する。
「よし。ジンさん、カイトさん、シン君、アイリスちゃん! 探検隊の結成だ! ハクヤ、メテオ、船の護衛をお願い!」
『ワォォン!(任せろ、主。この星の鉄屑どもには指一本触れさせん)』
『リョウカイ。……マスター、ドウカ、オ気ヲツケテ』
リオンを先頭に、箱庭の精鋭たちが艦首のハッチから、音を立てて冷たい金属の地表へと降り立った。
そこは、人類の痕跡と、それを滅ぼした深淵の狂気が同居する、美しくも恐ろしい「死の星」。
建物の陰から、赤いカメラアイを不気味に光らせる「瘴気に汚染された機械の獣たち」の群れが、新たな獲物を求めてゆっくりと姿を現し始める。
だが、最強のテイマーとその過保護な家族たちにとって、ここは「恐怖の廃墟」ではない。新たなお宝(仲間)が眠る、最高にワクワクするテーマパークに他ならないのだ。
星の海を越えた先にある「機巧の死星」。
失われた人類の叡智が眠る星での、前代未聞の惑星探査が、今、高らかに幕を開けた。




