第75.5話:閑話・IFルート【破壊の選択】――読者が拒絶した、冷たい宇宙の真実
### 第75.5話:閑話・IFルート【破壊の選択】――読者が拒絶した、冷たい宇宙の真実
※これは、運命の分岐点において、もしも少年が「別の決断」を下していたらという、可能性の物語である。
#### 1. 分岐点:護るための「拒絶」
「リオン君、不味い! 奴の装甲はアダマンタイトすら侵食する『概念の錆』だ! 触れられれば、この船のシステムごと同化されて喰われるぞ!」
カイトの悲痛な叫びが、艦橋に響き渡った。
スクリーンに映る、無数の苦悶の顔を貼り付けた蜘蛛型の怪物――『忘却の捕食者』。
その奥底から微かに聞こえる「直して」という悲鳴を、リオンの【深淵の対話者】は確かに拾っていた。
しかし、同時に彼が背負っているのは「家族の命」だ。ジンが、カイトが、ルミナスや子供たちが、そして愛する魔物たちが、今まさに未曾有の危機に瀕している。
「…………」
リオンは艦長席で、ギュッと唇を噛み締めた。
自分の「慈愛」が、もし通じなかったら? もし、この判断ミスで大切な家族を宇宙の塵にしてしまったら?
わずか一瞬の迷い。それが、彼から「テイマーとしての無謀な狂気」を奪い去った。
「……カイトさん。主砲のエネルギーを、『浄化』に全振りして」
「リオン君……!」
「みんなを、危険な目には遭わせられない。――撃てっ!!」
リオンが振り下ろした手と共に、白銀の戦艦から極大の破壊の閃光が放たれた。
#### 2. 喪失:虚無に消えたSOS
**カッ……!!!**
宇宙空間が、音のない白光に包まれる。
「救済の再構築」ではなく、純粋な「存在の抹消」を目的としたカイトの数式とリオンの魔力は、ジャンク・イーターの狂ったコアを的確に貫いた。
『……ア……ァ…………』
怪物に縫い付けられていた無数の顔が、最後にただ一度だけ「安堵」にも「絶望」にも似た悲しげな表情を浮かべ――次の一瞬、ガラスが砕けるように宇宙空間へと散り散りになり、虚無の海へと溶けて消えた。
警報音が鳴り止み、アストラル・アルカに静寂が戻る。
船は無傷だった。誰一人として欠けることなく、最初の脅威を退けた。
だが、艦橋の空気は、どこまでも重く、冷たかった。
「……終わった、か」
ジンが剣から手を離し、重い息を吐く。
シンもアイリスも、言葉を発することができない。
リオンは、自分の震える両手を見つめていた。
(俺は……あの子の声を、見捨てた)
ただ部品を求めて泣いていた壊れた命を、自らの手で「ゴミ」として処分した。
それは、この残酷な宇宙においては「正しく、当然の防衛行動」である。誰もリオンを責める者はいない。
だが、彼の心の中にあった「万物を慈しむ」というテイマーとしての絶対的な光に、決して修復できない暗いひびが入った瞬間だった。
#### 3. 神々の慟哭:優しすぎた世界の終わり
神界の中央監視室。
そこには、いつものようなふざけた歓声も、ポップコーンもなかった。
『…………ああ。ああ……なんということだ』
過保護神アルトワールは、机に突っ伏し、神の威厳などかなぐり捨てて、子供のように声を出して泣いていた。
それは、感動の涙ではない。喪失と悲哀の涙だった。
『私のリオンが……あんなにも無邪気で、万物を愛していた私の使徒が……「現実」という名の残酷な選択を、自らに強いてしまった……! 手を伸ばせば届いたかもしれない奇跡を、自ら切り捨ててしまった……ッ!!』
アルトワールの涙が、神界の床を濡らす。彼が最も守りたかった「リオンの心」が、たった今、宇宙の深淵の冷たさに触れて傷ついてしまったのだ。
『……嘆くな、アルトワール。これが、私たちが管理を放棄した「外宇宙の真実」ですわ』
冥界神アイゼルが、力なくモニターを見つめながら呟く。彼女の瞳にも、深い悲壮感が漂っていた。
『リオンの選択は正しかった。船を守り、家族を守るための、指導者としての正解。……しかし、私たちは知っているはずです。あの少年は、「正しさ」ではなく「優しさ(奇跡)」で世界を紡いできたからこそ、勇者なのだと』
アイゼルは、静かに目を閉じた。
『星を救う代償に、己の心を削る。……それは、かつてモルグスが辿り、狂い果てた道と同じ。このまま進めば、いずれリオンの慈愛は枯れ果て、ただの「冷徹な宇宙の殲滅者」へと成り果ててしまうでしょう』
神々は無力だった。
物理的な怪我は防げても、少年が自らの意志で選んだ「成長という名の喪失」を、神の力で帳消しにすることはできないのだから。
#### 4. 求められなかった未来
アストラル・アルカは、ただ静かに、暗く冷たい星の海を前進していく。
船内に笑顔はない。
ルミナスのお茶会も、子供たちの無邪気な笑い声も、今はどこか空虚に響く。
リオンのステータス画面に登録されたのは、新しい仲間の名前ではなく、無機質な『撃破ログ』だけだった。
――これは、残酷な現実に屈した、一つの妥当な結末。
理性的で、論理的で、そしてひどくつまらない「凶」の未来。
しかし、世界(物語)は知っている。
**読者が求めたのは、こんな冷たい未来ではない。**
彼らが愛したのは、どれほどのバグや絶望を前にしても、「慈愛」という無謀な狂気で物理法則をねじ伏せ、最後には全員を笑わせてしまう少年の姿なのだ。
だからこそ、この「破壊の未来」は、大いなる意志(ページをめくる手)によって、静かに破り捨てられる。
星の海は再び巻き戻り、少年が迷いなく「救済」の手を伸ばした、あの光り輝く『真実の歴史(正史)』へと帰還していく。
さらば、悲しきIFの世界。
僕たちは、誰も泣かない、あの「過保護で騒がしい宇宙」へと戻ろう。




