第73話:閑話・深淵の胎動、漂流する厄災
### 第73話:閑話・深淵の胎動、漂流する厄災
リオンたちが【無限の箱庭】で究極の宇宙食を収穫し、乙女たちが優雅な前夜祭に興じていた、その同じ刻。
彼らが目指す「青空の向こう側」――**外宇宙の深淵**は、地上の誰もが想像し得ない、狂気と混沌が支配する地獄の様相を呈していた。
#### 1. 荒れ狂う虚無:概念の墓場
そこには、美しい星々も、静寂な真空も存在しない。
あるのは、世界の理から弾き出され、行き場を失ったデータが腐敗して生まれた、ドロドロとした**「漆黒の瘴気の海」**だ。
**ゴォォォォォォォォ……ッ!!!**
真空であるはずのその空間には、音の代わりに、数千年の怨嗟が渦巻く「概念の嵐」が吹き荒れている。
触れた端から存在を「無」に還す絶対零度の暴風、時空をデタラメに切り裂く次元の断層。ここでは物理法則などという生易しいルールは通用しない。
ここは、世界が正常に機能するために切り捨てた不具合の、巨大なゴミ捨て場であった。
#### 2. 最初の災厄:シルエットの顕現
その混沌の海の中心。
周囲の瘴気をさらに濃密に、禍々しく凝縮させた「特異点」があった。
そこから、ゆっくりと、何かが這い出てくる。
――**「シルエットの描写」**――
それは、星の光を吸い込むほどに真っ黒な、**巨大な「蜘蛛」**のようにも見えた。
だが、その背には、アラクネのアトスのような美しい妖精の姿はなく、代わりに、何百もの**「苦悶に歪む人間の顔」**が、肉塊となって蠢き、融合していた。
八本の脚は、鋭利な刃ではなく、無数の**「折れ曲がった魔導銃の銃身」**や**「錆びついた戦艦の装甲」**が、瘴気の糸で無理やり繋ぎ合わされたもの。
そして、その巨大な胴体の中心には、不気味に明滅する**「壊れた魔導炉」**が、周囲の虚無を喰らいながら、脈動していた。
#### 3. 深淵の捕食者:その名は……
『……ア……アア……オォ……オォォォン……(誰か……我を……直せ……)』
それは、かつて別の世界で「最強」と呼ばれ、瘴気に汚染されて宇宙へ投棄された、機械と生物の融合体——**忘却の捕食者**。
奴は、外宇宙へ進出してくるあらゆる「秩序」を感知し、その肉(装甲)と魂(魔力)を喰らい、己の「不完全な体」を補完しようとする、終わりのない生存本能のバグであった。
アトスの次元糸すら噛み切り、ゲイルが鍛えたアダマンタイト装甲を錆びつかせる、深淵の最初の門番。
**ゴドォォォォォォン……ッ!!!**
忘却の捕食者は、はるか彼方、大気圏を突破してこちらへ向かってくる、眩いばかりの「白銀の光」を感知した。
『……光……。……新しい……パーツ……。……我の……ものだ……!!』
数百の顔が一斉に裂け、音なき咆哮を上げる。
奴は瘴気の海を蹴立て、世界の理を置き去りにする速度で、白銀の戦艦へと向かって、黒い影を爆発させた。
神の過保護も、理系の極致も、テイマーの慈愛も。
すべてを「ガラクタ」として喰らい尽くす、深淵の理不尽。
リオンたちの【銀河航海編】は、出航の瞬間から、この「世界のゴミ捨て場」が放つ、最悪の歓迎を受けることとなる。




