第72話:星の海へのパントリーと、乙女たちの優雅な前夜祭
### 第72話:星の海へのパントリーと、乙女たちの優雅な前夜祭
「外宇宙」という未知の戦場へ向かうにあたり、リオンが最も重要視したのは、皮肉にも「兵器」ではなく「食料」であった。
宇宙戦艦への大改修が響く帝国の魔導工廠。その地下に広がるリオンの【無限の箱庭】では、宇宙の果てでも変わらぬ団らんを守るための、空前絶後の「食料調達作戦」が繰り広げられていた。
#### 1. 究極の備蓄:宇宙用食材の収穫
「レオ、シズク! その黄金カボチャは宇宙用だから、カイトさんの『真空乾燥魔法』に耐えられるくらい魔力を込めて育ててね!」
「わーい! リオン兄ちゃん、お肉もたくさん持っていく?」
リオンの号令の下、箱庭の住人たちが一斉に動き出す。
今回の旅は、何年続くか分からない銀河の旅だ。リオンのこだわりは「保存食でも最高に美味しいこと」である。
* **【星海牛】の仕込み:** 箱庭で育った極上の牛たちに、コハク(黄龍)の聖なる魔力を浴びせ、「宇宙の無重力下でも肉質が硬くならない」特殊な熟成を施す。
* **【浄化の苺】の大量生産:** アイリス(エルフ)の助言により、ビタミンと精神安定成分を極限まで高めた苺。真空パックしても香りが失われないよう、シズク(スライム)が「生きた保存容器」として一粒ずつ包み込む。
そこへ、当然のように過保護神アルトワールが降臨する。
『カッカッカッ! リオンよ! 宇宙食といえば、この「神域の電子レンジ」も持っていくがよい! どんなカチコチの冷凍食品も、一瞬で「お母さんの作りたての味」に戻す、神の時空操作機能付きだ!!』
「神様、それレンジっていうか、時間を巻き戻してるだけじゃない?」
リオンのツッコミを置き去りに、神の過保護によって「百年経っても湯気が立つシチュー」などの反則級備蓄品が次々とアストラル・アルカの倉庫に運び込まれていった。
#### 2. 造船風景:『アストラル・アルカ』最終艤装
地上では、船大工ゲイルと丞相カイトによる、狂気的なまでの大改修が進んでいた。
元は深海探査用だった『ノーチラス・アルカ』の銀色の船体は、今や宇宙の暗黒を撥ね退ける白銀の装甲**『|神輝鋼・多層ラミネート《アダマンタイト・シェル》』**へと生まれ変わっている。
「ゲイル! 船尾のスラスター、四神の魔力循環率をあと$0.003%$上げてくれ。真空中で出力がブレたら、空間の歪みに呑まれるぞ!」
「分かってらぁ! カイトの旦那! こちとらアラクネのアトス嬢ちゃんから貰った『次元の糸』を、エンジンブロックに直接縫い込んでんだ。星を飛び越えるどころか、運命すら引き裂いて進む船にしてやるぜ!!」
ゲイルの【海神の船匠】が閃光を放ち、船体に「宇宙用」の巨大な魔導翼を接合していく。
リオンが見守る中、深海で得た知恵と、天空で得た素材、そして理系転生者の知識が、一本の白銀の矢となって完成していく様は壮大の一言であった。
#### 3. 乙女たちの休息:新星・女子会
男たちが油と魔力にまみれて造船に明け暮れる中、艦内の後部に新設された「展望サロン・サクラ」では、優雅なティータイムが開かれていた。
参加者はルミナス、サラ、そして新加入のアイリス。
「……はぁ。やっと一息つけましたわ。あの方たちの『宇宙戦艦』への情熱、恐ろしいほどですわね。カイト様など、昨晩は数式を唱えながら寝ていらっしゃいましたのよ?」
ルミナスが呆れ顔で最高級の紅茶を啜る。サラが激しく同意した。
「分かります! ジンさんも『銀河の兵站を完璧にする』って言って、倉庫の配置をミリ単位でリオン君に指示してましたし。……でも、リオン君が楽しそうだから、結局みんな付き合っちゃうんですよね」
「……私、こんなに穏やかな時間を過ごせるなんて、まだ夢みたい」
アイリスが、リオンの箱庭で採れた苺のタルトを頬張りながら、目を細める。
「エゼルガルドでは毎日、誰を殺すか、どう生き延びるかだけでしたから。……ルミナスさん、この『美容液』、本当に一晩で肌が綺麗になるの?」
「ええ、アイリス様。アルトワール様がリオン様のために用意した『神の化粧水』ですわ。宇宙の放射線からもお肌を守ってくれますのよ。……さあ、あの方たちがまた無茶な大冒険に私たちを連れ出す前に、しっかりとお手入れをしておきましょう」
かつて孤独だったエルフの王女と、空の管理人、そして気高き辺境伯。
立場の違う三人の転生者(と一人の令嬢)は、「リオンという嵐の目」に巻き込まれた被害者であり受益者として、かつてないほど濃密な友情を築いていた。
「……ねえ、アイリスちゃん。宇宙に行ったら、星の形をしたドレスとか流行るかな?」
「素敵ですわね、サラ様。その時はカイト様に『発光する生地』でも計算させましょうか」
そんな乙女たちの会話を、セバスが静かに、そして完璧なタイミングでお代わりの紅茶を注ぎながら見守る。
#### 4. 出航前夜:星の海を見上げて
造船の喧騒が収まり、静まり返った夜の工廠。
リオンは完成した『超弩級魔導戦艦・アルカ』の艦首に座り、まだ見ぬ宇宙を見上げていた。
隣には、シンが静かに腰を下ろす。
「……リオン。俺は、二十年もあの汚い土の上で這いつくばってきた。……でもよ、こんな綺麗な船に乗って、星の海へ行くなんて。……生きてて、良かったって、ちょっと思っちまったよ」
「うん。……シン君。宇宙は広いから、もっともっと面白いことがたくさんあるよ。俺たちの図鑑、宇宙の魔物でいっぱいにしようね!」
「……ああ。お前のその無鉄砲な『慈愛』、今度は宇宙中に叩き込んでやれよ」
シンは少し照れくさそうに笑い、犬の尻尾を小さく振った。
食料は満載。船は最強。仲間は無敵。
そして何より、神様の過保護が銀河全域をカバーしている。
翌朝、アストラル・アルカは全エンジンを点火。
白銀の巨躯が、重力という鎖を軽々と断ち切り、青い空を突き抜けて「永遠の夜」が支配する星の海へと、その雄大な翼を広げた。
**【第三部・銀河航海編】。**
**史上最も騒がしく、最も快適な「宇宙のスローライフ」が、今ここに開演する。**




