第71話:宇宙(そら)への円卓会議――神界式・超絶過保護スペースプログラム
### 第71話:宇宙への円卓会議――神界式・超絶過保護スペースプログラム
世界の境界線を引き直し、エゼルガルド大陸に真の平和をもたらした超弩級魔導戦艦『アストラル・アルカ』。
その艦内に設けられた白亜の作戦室(円卓会議場)では、未知なる「外宇宙」への殴り込みに向けた、かつてなく真剣で、かつてなくカオスな会議が始まろうとしていた。
「……さて。現状の我々の星は、修復された『世界の殻』によって守られている。だが、殻の外側には依然としてシステム・エラーの根源である『瘴気の惑星群』が蠢いている状態だ」
軍師ジンが展開したホログラムには、漆黒の宇宙空間に浮かぶ、禍々しい紫色の星々が映し出されていた。
カイトが白衣のポケットに手を突っ込み、眼鏡を鋭く光らせる。
「大気圏を突破し、絶対真空と宇宙放射線、そして超高濃度の瘴気が渦巻く外宇宙へ進出する。……そのためには、このアストラル・アルカを『次元航行型・恒星間魔導戦艦』へと劇的にアップデートする必要がある」
#### 1. 神々の(当たり前すぎる)同席
『その通りですわ。外宇宙の瘴気は、モルグスを狂わせたものとは比較にならないほど濃密。生半可な装備では、船ごと深淵の泥に変換されてしまいます』
「……ええ。ですから、物理的なシールドだけでなく、概念的な——って、**なんで普通に座ってるんですか!?**」
ジンがホログラムから視線を外すと、円卓の上座(リオンの隣)に、漆黒のドレスを着た冥界神アイゼルと、宇宙飛行士のヘルメットのようなものを被った過保護神アルトワールが、当たり前のように着席していた。しかも、アルトワールの手にはポップコーンがある。
『カッカッカッ! リオンが宇宙へ行くというのに、このおじさんが同席しないわけがなかろう! ほれ、アイリスもサラも、宇宙食(フリーズドライの苺)を食うか?』
「あ、ありがとうございます……って、神様、すっかりうちの身内ポジションですね」
サラが乾いた笑いを浮かべながら苺を受け取る。
『アルトワール、貴方のそのふざけた被り物は今すぐ脱ぎなさい。威厳がマイナスですわよ』
アイゼルが冷たく言い放ち、円卓の面々に向き直った。
『……私が直接解説しましょう。外宇宙には、世界の理から弾き出された「深淵のモノ(アウター・エンティティ)」と呼ばれる規格外の魔物たちが漂っています。彼らは星の瘴気を喰らい、増殖する害悪。……リオン、貴方の「テイム」が通用するかは未知数ですわ』
「未知数ってことは、お友達になれる可能性もあるってことだね!」
リオンの琥珀色の瞳が、星空のようにキラキラと輝く。アイゼルは「……この子の前向きさには、神でも勝てませんわね」と深く息を吐いた。
#### 2. 理系と船大工の暴走:宇宙特化改修案
「では、装備の具体案に移ろう」
カイトがホログラムを切り替え、アストラル・アルカの改装図面を投影した。
「第一に『推進力』。真空では空気抵抗がないが、スラスターの反作用だけでは星間航行に何百年もかかる。そこで、四神の魔力とハクヤの絶対零度を応用した『超光速魔導ワープ機関』を搭載する」
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> ※マナ出力 \Psi_{\text{mana}} と真空の瘴気密度 \rho_{\text{void}} の干渉を利用し、空間そのものを折りたたんで光速 c を超える方程式。
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「第二に『生命維持装置』。船大工ゲイル、いけるか?」
「おうよ! 神輝鋼を百層に重ね打ちして、外殻を完全な『閉鎖魔法空間』にする! ルミエルの浄化の風と、シズクの水循環システムを直結させりゃ、宇宙の果てでも露天風呂に入れる船にしてやるぜ!」
ゲイルが鼻息を荒くしてハンマーを振り上げる。
「第三に『武装』だ」とジンが口を挟む。「外宇宙の敵が星のサイズなら、こちらの火力も底上げが必要だ。黄龍コハクの『虚無』の力を主砲の弾頭にコーティングし、着弾箇所の瘴気だけを『無』に還す対星間兵器……いけるか、リオン君?」
「うん! コハクも『悪いお星さまを綺麗にするの、手伝う!』って言ってるよ!」
リオンの膝の上で、黄金の子竜コハクがキュルッと鳴いて同意した。
#### 3. 過保護神の斜め上すぎる対策
『ふむふむ、技術的な対策は素晴らしい! ……だが、致命的に欠けているものがあるな!』
アルトワールが、ヘルメット(ただのコスプレ)を脱ぎ捨てて立ち上がった。
『宇宙空間とは、すなわち無重力! ジンよ、カイトよ! 万が一重力制御システムがダウンした際、私のリオンが空中にふわりと浮き上がり、**「わわっ、お茶がこぼれちゃった!」**と悲しい思いをしたらどうするのだ!? 宇宙酔いで気分が悪くなったらどう責任を取る!!』
「いや、そんなことより命の心配を……」とカイトがツッコミを入れる間もなく、アルトワールの指先から黄金の光が放たれた。
> **【|神域の慣性中和・宇宙編】**
> **効果:** アストラル・アルカ艦内、およびリオンの周囲10メートルにおいて、いかなるG(重力加速度)の変化、急発進、急停止、無重力状態も完全に無効化する。たとえ船が光速でスピンしても、リオンのティーカップの紅茶は一滴たりとも波立たない。さらに「宇宙酔い」を物理的に弾き返す完全三半規管プロテクト付き。
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「……計算不能だ。慣性の法則を神の権限で消し去りやがった」
カイトが頭を抱え、ジンが乾いた笑いを漏らす。
『さらに! 宇宙は暗くて景色が変わらんから退屈であろう! リオンのステータス画面に、全宇宙の星雲を「極彩色のイルミネーション」として認識する【星天の観覧車】のフィルターも追加しておいたぞ! これで宇宙旅行は最高に楽しいピクニックとなる!』
「わぁい! 神様ありがとう! これで宇宙でも安心してケーキが食べられるね!」
リオンが無邪気に神様とハイタッチを交わす。
「……セバス。どうやら私たちのお茶会は、次元の壁を越えても普段通り開催できそうですわね」
ルミナスが優雅に扇子を広げ、安堵(と少しの諦観)の息をついた。
「左様にございますな、お嬢様。最高の宇宙産ダージリンをご用意できるよう、茶葉の選定を進めておきます」
#### 4. 出航の刻
神の解説(という名の過保護の押し売り)と、理系の極致とも言える超技術の融合により、アストラル・アルカの「宇宙戦艦化」のロードマップは完璧に組み上がった。
「よし! 目標は外宇宙の瘴気惑星群の浄化、そして……まだ見ぬ『宇宙の魔物』たちとのテイムだね!」
リオンが円卓の中心に立ち、力強く宣言する。
「ああ。俺たちの世界を脅かすバグの根源を、物理と慈愛で完全に『再定義』してやろう」
「ええ。エゼルガルドの分まで、きっちりお返しをさせていただきますわ」
ジン、カイト、ルミナス、シン、アイリス、サラ。
世界を超えて集い、神々すらも巻き込んだ最強の「家族」たち。
彼らの想いを乗せた白銀の巨艦は、ドックでの最終艤装を終え、ついに青空のその先——大気圏を突破し、星の海へと旅立つ準備を完了させた。
全知の図鑑の最終ページを埋めるための、誰も見たことのない神話的スペース・スローライフが、今、静かにカウントダウンを始める。




