第66話:閑話・影の円卓会議――主の知らぬ幻獣たちの秘め事
### 第66話:閑話・影の円卓会議――主の知らぬ幻獣たちの秘め事
リオンたち人間陣営が「幻獣スカウトツアー」に向けた熱い円卓会議を終え、各自が準備のために眠りについた深夜。
【無限の箱庭】の中心にそびえる世界樹ルミエルの木陰では、もう一つの「円卓会議」が、誰にも知られることなく開かれていた。
それは、声なき声。
リオンの絶対的な愛に縛られ、同時に彼を世界で最も愛する「規格外のテイムモンスターたち」による、高度な【念話領域】での極秘軍議である。
#### 1. 念話領域の開通:主を愛しすぎる獣たち
『――皆、繋がっておるな。主と人間たちは深い眠りについた』
重厚な思念波を放ったのは、北の守護神・玄武のゲンだ。
彼の呼びかけに応じ、夜の箱庭に潜む強大な気配たちが次々とネットワークに接続してくる。
『ガァッ!(ばっちりだぜ! 次の戦い、俺様が一番槍をもらう!)』
西の白虎・ライガが闘気を昂らせる。
『ピィィッ!(ダメよライガ! 主様は「お友達になる」って言ってたでしょ! 丸焦げにしたら私たちが怒られるわ!)』
南の朱雀・カゲロウが呆れたようにたしなめる。
『……静かに。今回のターゲットは、我ら四神でも単独では手を焼く厄介な「特異個体」ばかりだ。主の無邪気な「お友達宣言」を安全に完遂するためには、我々が裏で「お膳立て」をしておかねばならん』
東の青龍・セイランが冷静に場をまとめた。
彼ら魔物たちは知っている。
リオンは「慈愛」で魔物をテイムするが、相手が神話級の幻獣となれば、まずは物理的・魔術的に「安全な状態(無力化)」に持ち込まなければ、リオン自身が危険に晒されることを。
#### 2. 対【夢紡ぎのバク】:精神領域の防衛線
『最初の標的「夢紡ぎのバク」。奴は物理攻撃が通じぬ夢の住人だ。主の無防備な精神に潜り込まれれば、いかに神の加護があろうと「永遠の悪夢」に囚われる危険がある』
ゲンの懸念に対し、ぴょんっと念話領域に飛び込んできたのは、清流粘体のシズクと、白大蛇のハクだった。
『キュィッ!(大丈夫! スライムは「脳」がないから、夢を見ないの! 私が主様の頭をすっぽり包んでおけば、夢の魔力は全部弾けるよ!)』
『シュルルゥ……(それに、私の「抜け殻」を主の枕元に置いておく。万が一夢に引きずり込まれても、浄化の霊気で「夢からの帰還ルート(アンカー)」を固定できる。主は絶対に迷子にさせない)』
『ふむ。見事な連携だ。主には「シズクの新しいマッサージだよ」とでも言って被せておけば、喜んで受け入れるだろう』
セイランが満足げに頷く。リオンの知らぬところで、対バク用の「絶対精神防御」が完成した。
#### 3. 対【次元蜘蛛アラクネ】:空間凍結と幽幻の共鳴
『次は大裂谷の「次元蜘蛛アラクネ」。奴は空間の断層に糸を張り、次元を移動して襲ってくる。シンの「慧眼」で見えたとしても、捕まえるには至らん』
ここで、静かに、しかし絶対零度のプレッシャーを伴って思念を放ったのは、凍土の神狼のハクヤだった。
『……問題ない。幽霊のシルビア、お前は「次元のズレ」を視覚化できるな?』
『キュィィ……(ええ、わかるわ。私は「世界と世界の隙間」にいたから……)』
『ならば、お前がアラクネの次元糸に「幽幻の墨」を吐きかけろ。マーキングされた空間ごと、俺の【終末の吐息】で「次元そのものを凍結」させる』
『空間そのものを凍らせるだと……!?』
ライガが驚愕する。それはもはや、物理学者のカイトが聞けば泡を吹いて倒れるレベルの、法則干渉の極致だった。
『主の足場が悪いなら、俺が空中に「見えない氷の道」を造る。主にはただ、「新しい遊び場だ」と思って楽しく歩いてもらえばいい』
ハクヤの冷徹な、しかし主への愛に満ちた重い思念に、シルビアも『キュィッ!(任せて!)』と力強く応じた。
#### 4. 最大の伏線:対【虚無の黄龍】と四神の真の力
会議が順調に進む中、ゲンが最も重いテーマを口にした。
『……最後にして最大の問題。星の中心に眠る「虚無を司る黄龍」。……あれは、我ら四神にとっての「王」であり、世界の魔力の「特異点」だ』
その言葉に、四神たちの思念がピリッと張り詰める。
『主は知らないが……我ら四神が一つ所に集まっている現状、我々の魂の奥底で**【四神相克・創世の陣】**の封印が解けかかっている』
セイランが静かに明かす。
『ピィッ!(そうよ! 私たちの魔力を完全に一つに重ねたら、一つの世界を壊して新しく創り直せるレベルの「バグ技」が発動しちゃうわ!)』
『ガァッ!(だが、黄龍を呼び起こすには、その「創世の陣」を鍵として使うしかねえ。……俺たちがフルパワーを出せば、主の「箱庭」すら耐えきれずに吹き飛ぶかもしれねえぞ)』
四神たちは、自分たちが揃ってしまったことで、リオンの手に余る「破壊と創造のシステム」が完成してしまったことを自覚していた。
『……だからこそ、隠し通すのだ』
ゲンが重々しく告げる。
『我々が創世の陣を展開し、黄龍の虚無と激突する瞬間……その衝撃を、我々自身で内側に抑え込む。主には「ちょっと派手な花火」程度に見せかけよ。そして、黄龍が弱ったところを、主の【神羅万象の絆】でテイムしていただくのだ』
『キュィィ!(賛成! 主様は、難しいことは人間たち(ジンやカイト)に任せて、ニコニコ笑って撫でてくれるのが一番だもの!)』
世界樹の神鹿ルミエルが、優しく締めくくった。
#### 5. 決意の朝へ
『では、各員抜かりなく。我らは影の矛であり盾。……すべては、我らが愛しき主、リオンの笑顔と「理想の牧場」のために』
『『『御意!!』』』
強大な魔物たちの思念が重なり合い、箱庭の夜空に目に見えない強固な「誓いの波動」が響き渡った。
翌朝。
目を覚ましたリオンは、シズク(スライム)がやたらと頭にひんやりフィットすることや、ハクヤや四神たちが「いつでも行けるぜ!」とばかりに尻尾を振っているのを見て、無邪気に笑った。
「みんな、気合十分だね! よーし、まずは夢の森に向かって出発だ!」
リオンの知らないところで組まれた、最強の「裏・攻略ルート」。
過保護な神様だけでなく、過保護な魔物たちにも完全に守り抜かれたテイマーの旅は、未知の幻獣たちを震え上がらせるための「完璧な罠」を携えて、いよいよ新たなフィールドへと踏み出していく。




