第67話:閑話・神の監視室(モニタールーム)と、準備されすぎた『過保護パッチ』
### 第67話:閑話・神の監視室と、準備されすぎた『過保護パッチ』
リオンの【無限の箱庭】で、四神をはじめとするテイムモンスターたちが「主のための裏・攻略ルート」を熱く語り合っていたその頃。
遥か高み、雲海を突き抜けた先にある神界の『中央監視室』では、世界で最も権威あるはずの一柱の神が、巨大なモニターにすがりついて号泣していた。
『うぉぉぉぉん! 素晴らしい! なんて健気な獣たちなのだ! 私の愛するリオンを想うあまり、自らが泥をかぶる裏方作業まで計画するとは……! おじさんは、おじさんは感動のあまり神格が上がりそうだぞ!!』
テイム神であり、異世界一の過保護神アルトワールは、神々の織物でできた最高級のハンカチをすでに三枚も涙と鼻水でグショグショにしていた。
彼は全知全能(一部機能制限中)である。魔物たちの極秘の【念話領域】など、彼にとっては筒抜けであった。
愛する使徒リオンの周りに、これほどまでに主を想う家族が集まったこと。それは神として無上の喜びであった。
……しかし、アルトワールは涙を拭い、急に真顔(イケオジの深刻な顔)になった。
『……待てよ? 獣たちの作戦は完璧だ。だが、もし万が一……億が一! 奴らの作戦が失敗し、獣たちが傷つくようなことがあれば、心優しい我がリオンはどうなる?』
アルトワールの脳内に、最悪のシミュレーションが展開される。
——傷ついたハクヤや四神を抱きしめ、「ごめんね、俺が弱いから……」と大粒の涙をこぼすリオンの姿。
『いかぁぁぁぁぁぁん!! そんな光景、私の宇宙が許さぁぁぁぁん!!!』
バンッ! と神界のデスクを叩き割る勢いで立ち上がったアルトワールは、猛烈な速度で「神の管理コンソール」のキーボード(のような概念魔導具)を叩き始めた。
#### 1. 対バク用バックアップ:悪夢の完全無効化
『まずは「夢紡ぎのバク」! スライムを被って脳波を遮断するというシズクの作戦は賢いが、相手は精神攻撃の専門家。もしシズクの防御をすり抜けて、リオンに「怖い夢」を見せたらどうする!? リオンが夜泣きしてしまうではないか!』
カタカタカタッ! ターン!!
アルトワールは、リオンのステータス画面の「隠しフォルダ」に、新たなギフトをそっと忍ばせた。
> **【夢境の喜劇変換】**
> **発動条件:** リオンが少しでも「怖い」「悲しい」と感じる夢の波長を受信した瞬間。
> **効果:** 夢の世界のジャンルを強制的に「ギャグコメディ」に書き換える。迫り来る恐ろしい怪物は「滑って転んでパイ投げを喰らうピエロ」に物理変化し、BGMは気の抜けた笛の音になる。
>
『カッカッカッ! これでよし! どんな悪夢も、リオンにとっては「ちょっと面白いサーカス」に早変わりだ!』
#### 2. 対アラクネ用バックアップ:次元の隙間も安心設計
『次は「次元蜘蛛アラクネ」! シルビアの墨とハクヤの絶対零度で次元を凍らせる作戦は、カイトが見たら発狂するほど芸術的だ。……だが! 凍らせた次元の道は「滑りやすい」のではないか!? 万が一リオンが足を滑らせて転び、膝でも擦りむいたらどうする!』
カタカタカタッ! ターン!!
アルトワールの指が光速で踊り、空間そのものに対するセーフティネットを構築する。
> **【絶対安全・時空の綿飴】**
> **発動条件:** リオンがバランスを崩す、または空間の断層に触れそうになった瞬間。
> **効果:** 周囲の次元の歪みが、すべて「ピンク色のふわふわの綿飴」へと性質変化する。転んでも痛くない上に、ちぎって食べるとほんのり甘い。
>
『完璧だ……! 次元断層の鋭利な刃すら、リオンのおやつに変えてやったわ! ハクヤよ、安心して道を凍らせるがよい!』
#### 3. 対黄龍用バックアップ:四神の自爆を絶対に許さないシステム
『そして最後……「虚無の黄龍」と、我らが四神の激突。……あの馬鹿者ども(四神)、リオンに心配をかけまいと【四神相克・創世の陣】の反動を自分たちの魂だけで抑え込もうとしておったな』
アルトワールの瞳から、再びホロリと涙が落ちる。
『健気すぎる! だが、お前たちがボロボロになって消滅でもしてみろ、リオンは三日三晩泣き続けるぞ! リオンの悲しみは私の悲しみ! すなわち、お前たちの自傷行為は神の掟に反する!』
アルトワールは、コンソールの上に、やたらと大きく、赤く発光する**「緊急介入ボタン(物理)」**を顕現させた。
> **【|過保護なる神の裏コード《アルトワール・パッチ・ゼロ》】**
> **発動条件:** 任意のタイミング(神がボタンを物理的に叩いた瞬間)。
> **効果:** 四神の「創世の陣」の反動ダメージを、アルトワールの神力がすべて肩代わり(無効化)する。さらに、発動時のエフェクトを「ただの超豪華な打ち上げ花火」にカモフラージュし、リオンには「四神が協力して花火大会をしてくれた」としか認識させない。
>
『フフフ……ハハハハハ! これで何も恐れることはない! 獣たちのプライドを守りつつ、リオンの心と体も完全防備! 我ながら、神の御業の極致よ!』
#### 4. 女神のツッコミと、スタンバイ完了
「……アルトワール。貴方、また私の背後で世界のバランサーを物理的に破壊するようなコードを組んでいませんこと?」
ギクリ。
アルトワールが振り返ると、監視室の入り口に、腕を組んで呆れ果てた顔の冥界神アイゼルが立っていた。
『あ、アイゼル! い、いや、これはだな! 次のクエストが少々過酷ゆえ、転ばぬ先の杖というか、保険の保険の保険というか……』
「貴方の保険は、杖の代わりに『隕石を弾き返すチタン合金製の要塞』を用意するようなものですわよ。……まあ、良いですけれど」
アイゼルは深いため息をつき、リオンたちの寝顔が映るモニターへと視線を向けた。
「エゼルガルドの瘴気を完全に塞ぐには、確かにあの三体の幻獣が必要です。彼らの行く手に、過酷な試練が待っているのは事実。……その赤い馬鹿みたいなボタン、押すタイミングは間違えないでくださいませ」
『むっ、許可してくれるのか!』
「リオンが泣く姿など、私も見たくありませんからね。……私も、あの子には随分と救われましたし」
アイゼルはふいっと顔をそらし、ツンデレの神髄を見せつけて去っていった。
『おおお……アイゼルまでデレた! これぞリオンのテイマー力の真骨頂!』
アルトワールは、デスクの上に並べられた三つの「隠しギフト起動ボタン」を前に、腕まくりをした。
『さあ、行くがよいリオン、そして健気な獣たちよ! 前門の幻獣、後門の神話! いかなるピンチが訪れようとも、このアルトワールが秒速で「コメディとスローライフ」に書き換えてくれるわ!』
神様(運営)の過保護は、ついに「隠しボスのギミック」すらもギャグに変換する準備を整えた。
テイムモンスターたちの決死の裏工作と、それを上回る神のコミカルな過保護網。
すべてがリオンただ一人のために用意された、空前絶後の「幻獣スカウトツアー」が、いよいよ真のスタートを切ろうとしていた。




