第6話閑話:テイム神アルトワールの歓喜と、過保護すぎる恩寵
閑話:テイム神アルトワールの歓喜と、過保護すぎる恩寵
雲海の上に浮かぶ荘厳な神界。
その一角にある水晶の玉座で、絆と従魔を司る神アルトワールは、空中に映し出された下界の映像を見ながら、大興奮で膝を叩いていた。
『素晴らしい! なんという狂気的な育成スピード! 素晴らしいぞ異界の魂よ!』
彼が与えた【神羅万象の絆】は、確かに規格外のスキルである。しかし、テイムした後の成長速度は、契約者の「魔物への愛情」と「育成の知識」に依存する。
リオンはどうだ。出会って間もない最弱のブルースライムに愛情たっぷりの名を与え、瞬く間に上位種『清流粘体』へと進化させた。さらに、瀕死の闇狼の幼体を完璧な手当てで救い、これまたあっという間に強力な『月影狼』へと昇華させてみせたのだ。
『たった一日で、潜在能力を引き出すとは……。これぞ私の求めていた「魔物を心から愛し、育む者」だ! この調子なら、いずれ世界を脅かす大厄災が目覚めたとしても、リオンの育てた最強の魔物軍団が余裕で蹴散らしてくれるに違いない! カッカッカッ!』
アルトワールは上機嫌で神酒を煽り、リオンの次なる行動に目を向けた。
映像の中では、リオンが自身の持つ【無限の箱庭】に、孤児院のシスターと子供たちを招き入れているところだった。
『ほう。あの亜空間に人間を入れ、牧場の管理を任せる気か。なるほど、理にかなっている。彼が外で魔物を集め、彼らが中で育てる。完璧な分業制――ん?』
そこで、アルトワールはふと重大な問題に気がついた。
『待てよ? 今はスライムと狼だからあの人間たちでも触れ合えているが……リオンの奴、遅かれ早かれ上位の竜種や、凶悪な悪魔種、下手すれば神獣クラスまでテイムして箱庭にぶち込む気だろう?』
リオンの「育成ゲーマー」としての果てしない欲望を、アルトワールは既に見抜いていた。
伝説級の魔物となれば、ただそこに存在するだけで発する「威圧」や「魔力」で、一般人など泡を吹いて気絶してしまう。ましてや、その餌やりやブラッシングなどの世話など、か弱き孤児院の面々に務まるはずがない。
『いかん。これではリオンの牧場経営が破綻してしまう! よし……ここは神として、少々「過保護」かもしれんが手助けをしてやろう』
アルトワールは玉座から身を乗り出し、下界の箱庭にいる三人の人間に向けて、神の権能を静かに振るった。
『まずはシスター・アンナ。彼女にはどんな凶悪な魔物も幼児のように甘えさせる【慈愛の聖母】と、究極の調理スキルを授けよう。少年のレオには、疲れ知らずで大地を耕す【豊穣の開拓者】。そして少女のクロエには、撫でるだけで魔物の疲労と汚れを浄化する【神の手入れ】だ!』
神の奇跡が、三人の魂にひっそりと宿る。
しかし、アルトワールはここでハッと手を止めた。
『いや待て。こんな神スキルがいきなり彼らのステータスカードに表示されたら、教会やギルドの連中に見つかって大騒ぎになる。平和なスローライフを望むリオンに、余計なストレスを与えるのは本意ではないな』
アルトワールは空中で指を弾き、三人に与えたスキルに強固な『隠蔽』の術式を上書きした。
これで、彼らがどれだけ常識外れの畑仕事や魔物の世話をこなそうとも、ステータス上は「ただの一般人」のままである。本人たちですら、「なんだか最近、すごく体が軽くて動物に好かれるなぁ」程度にしか自覚できないだろう。
『完璧だ。これでリオンがどれだけヤバい魔物を連れ帰っても、牧場はスムーズに回る! さあ、思う存分に無双し、もふもふし、世界最強の牧場を創り上げるがよい!』
テイム神の豪快な笑い声が、雲海にどこまでも響き渡っていた。
こうして、リオンの預かり知らぬところで、彼の牧場は「神の恩寵を受けた最強のスタッフたち」によって、盤石の態勢が整えられたのである。




