第5話:初報酬と恩返し、秘密の箱庭へようこそ
第5話:初報酬と恩返し、秘密の箱庭へようこそ
「リオン君、これ今回の報酬よ。受け取ってちょうだい」
冒険者ギルドのカウンターで、メリルから手渡された革袋はずしりと重かった。
中を覗き込むと、銅貨ではなく、鈍く光る『銀貨』が数枚入っている。
「あの……ただの薬草採取と角兎の討伐で、こんなに貰っていいんですか?」
「当然よ! 傷一つない完璧な毛皮に、鮮度抜群の最高品質の薬草なんだもの。通常の三倍の買取価格でも安いくらいだわ。……ふふっ、リオン君は凄いテイマーになりそうね」
メリルのウィンクに見送られ、リオンはホクホク顔でギルドを後にした。
銀貨数枚といえば、平民の家族が数週間は暮らせる大金だ。リオンはその足で市場へ向かい、こんがり焼けた串焼き肉、ふかふかの白パン、そして新鮮な果物を両手いっぱいに買い込んだ。
◇
「ただいまー!」
「あっ、リオン兄ちゃんが帰ってきた!」
夕暮れ時、孤児院の扉を開けると、子供たちが一斉に駆け寄ってきた。
両手いっぱいの紙袋から漂う肉と焼きたてのパンの匂いに、子供たちの目が星のように輝く。
「リオン、これは一体……!?」
「初仕事の報酬だよ、シスター。今日はみんなでご馳走を食べよう!」
その日の孤児院の食卓は、これまでにないほどの笑顔と歓声に包まれた。
いつもは薄いスープと固いパンの切れ端だけだったが、今日はお腹いっぱいお肉が食べられる。嬉し泣きしながら肉を頬張る幼い子供たちを見て、リオンは「テイマーになって本当に良かった」と心から思った。
夕食後。子供たちが寝静まった頃合いを見計らい、リオンはシスター・アンナと、孤児院の年長組である少年レオと少女クロエの三人を中庭に呼び出した。
「リオン、お話って……?」
不思議そうな顔をするアンナたちに、リオンは真剣な表情で向き合った。
「シスター、レオ、クロエ。俺、ずっと夢があったんだ。立派なモンスター牧場を作って、みんなで不自由なく暮らすっていう夢が。……今日、その第一歩を踏み出した。だから、三人にお願いがあるんだ」
「お願い?」
「俺に雇われて、俺の牧場で働いてほしい。もちろん、給料はしっかり払うし、美味しいご飯も毎日保証する」
リオンの言葉に、三人は顔を見合わせた。
「気持ちはとても嬉しいわ。でも……魔物を飼う牧場なんて、孤児の子供たちには危険すぎるんじゃ……」
「それにリオン兄ちゃん、そんな牧場を作る土地なんて、どこにあるのさ?」
アンナとレオの当然の疑問に、リオンはニヤリと笑った。
「百聞は一見に如かず、だ。――展開しろ、【無限の箱庭】」
中庭の空間が歪み、光り輝くポータルが出現する。
息を呑む三人に対し、リオンは「絶対に安全だから」と手を引き、ポータルの向こう側へと案内した。
「え……? うそっ、何ここ!?」
「空が……それに、空気がすごく綺麗だわ……!」
ポータルを抜けた先には、星空の下、清涼な風が吹き抜ける広大な緑の平原が広がっていた。そして平原の中央には、リオンが昼間に建てた立派な丸太小屋が建っている。
そこから「ワゥッ」と嬉しそうな鳴き声を上げて駆け寄ってきたのは、美しい漆黒の毛並みを持つ巨大な狼――ノワールだった。
「ひっ! ま、魔物……!?」
怯えて腰を抜かしかけた三人の前に、リオンの懐からシズクが飛び出し、ノワールの背中にぽよんと乗って見せた。ノワールは全く怒ることなく、むしろ三人の足元にすり寄り、犬のように尻尾を振っている。
「大丈夫だよ。この子は俺のテイムした月影狼のノワール。頭に乗ってるのが清流粘体のシズクだ。絶対に人に危害は加えない」
「こんなすごい魔物を、たった一日で……?」
呆然とするアンナたちに、リオンは優しく語りかけた。
「ここは神様から貰った俺だけの亜空間だ。外部の脅威は一切入れない、世界で一番安全な場所。俺はここで、世界一の牧場を作りたい」
リオンは三人の手を取った。
「俺は冒険者として外で魔物をテイムしたり、素材を集めたりする。だから、俺が外に出ている間、ここで魔物たちの世話や、畑作りを手伝ってほしいんだ。……一緒に、最高の居場所を作ってくれないか?」
絶対の安全と、優しい魔物たち、そして何よりリオンの熱意。
孤児院の資金繰りに日々頭を悩ませていたアンナの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「……ええ。喜んで手伝わせてもらうわ、リオン。あなたの夢、私たちにも応援させてちょうだい」
「俺もやるよ! こんなすげえ場所で働けるなんてワクワクする!」
「私も! ご飯の準備や動物のお世話なら任せて!」
こうして、世界最強のテイマーとなる少年の、最初の「人間」の仲間たちが誕生した。
彼らの牧場経営は、今ここから本格的なスタートを切るのである。




