第4話:月影の狼と初めての牧場作り、そして驚愕のギルド
第4話:月影の狼と初めての牧場作り、そして驚愕のギルド
予想以上の成果を上げ、ホクホク顔で王都への帰路につこうとしたリオンの足を、シズクの反応が止めた。
「キュイッ、キュイッ」
「ん? どうしたシズク。あっちの茂みに何かいるのか?」
『探知』スキルを働かせるシズクに導かれ、リオンが深い草むらを掻き分けると、そこには血の匂いが漂っていた。
倒れていたのは、まだ小さな漆黒の毛並みを持つ仔狼――『闇狼』の幼体だった。どうやら上位の魔物に襲われたらしく、息も絶え絶えになっている。
「おい、しっかりしろ!」
育成狂いであり、何より魔物を愛するリオンがこれを見過ごすはずがない。彼は即座に駆け寄り、先ほど採取したばかりの質の良い薬草をシズクの体液でペースト状に分解させ、仔狼の傷口に優しく塗り込んだ。
痛みに微かに唸る仔狼に、リオンは【神羅万象の絆】の温かな魔力を注ぎ込みながら語りかける。
「大丈夫だ。もう痛くない。俺が絶対に助けてやるからな」
神スキルに裏打ちされた絶対的な『慈愛』の波動と、手当てによる痛みの緩和。
仔狼はゆっくりと琥珀色の目を開くと、リオンの顔を見つめ、やがて安心したように小さく鼻先をすり寄せてきた。
『ピコンッ!』
『闇狼(幼体)の好感度が急上昇しました!』
『闇狼(幼体)とのテイムが完了しました!』
「よし……。お前、夜の闇みたいに綺麗で、でもどこか優しい月光みたいな目をしてるな。そうだ、お前の名前は『ノワール』だ」
リオンがそう微笑みかけた瞬間、シズクの時と同じように、ノワールの体が眩い光に包まれた。
『従魔に名前が与えられました。ネームドモンスターへと昇格します』
『潜在能力Aの恩恵により、進化条件を満たしました!』
光が弾けると、そこには先ほどの衰弱した仔狼の姿はなかった。
体長は成犬ほどに成長し、夜空のような漆黒の毛並みには、銀色の淡い光の粒子が纏わりついている。そのもふもふとした立派な姿は、まさに森の王者を思わせる威厳と愛嬌を兼ね備えていた。
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【種族】月影狼(個体名:ノワール)
【レベル】8
【状態】良好・忠誠
【スキル】月光浴Lv1、影潜みLv1、神速Lv1
「ワゥッ!」
「うおっ! ちょ、ノワール、くすぐったいってば!」
進化したノワールは元気いっぱいにリオンに飛びかかり、その大きな舌で頬を舐め回した。最高のもふもふ感に、リオンの顔が自然と綻ぶ。
「っと、そうだ。いくらテイムしたとはいえ、この立派な姿のノワールをいきなり王都に連れて行ったら大騒ぎになっちまう。それに、怪我の病み上がりだからゆっくり休ませてやりたいしな」
リオンは周囲を確認し、【無限の箱庭】のポータルを開いた。
三人は広大な緑の亜空間へと足を踏み入れる。
「よし、せっかくならお前たちがゆっくり休める『寝床』を作ろう」
リオンは空中に展開されたシステムウィンドウから【施設建築】の項目を選択した。
現在のリオンの魔力と、そこら辺の平原の土や草を『素材』として認識させることで、造れる初期施設がリストアップされる。リオンは『魔物用の丸太小屋(小)』を選び、空間の一角をタップした。
ズゴゴゴォォッ!
「おおっ!?」
「キュイ!」「ワゥ!?」
光の粒子が集束したかと思うと、たった数秒で、温かみのある立派な木造の丸太小屋が平原に組み上がったのだ。中には柔らかな干し草が敷き詰められている。
ゲームさながらの建築システムに、リオンは歓喜の声を上げた。
「完璧だ! これならノワールもゆっくり休めるし、シズクもくつろげる。これからどんどん発展させて、世界一の牧場を作ってやるからな!」
寝床に飛び込んで丸くなるノワールと、その背中に乗ってスライムクッションと化すシズク。その至福の光景を満足げに眺めた後、リオンはノワールに留守番を頼み、シズクを懐に隠して王都のギルドへと帰還した。
◇
「あら、リオン君。もう戻ってきたの?」
冒険者ギルドのカウンター。受付嬢のメリルが、わずか一時間余りで戻ってきたリオンを見て、心配そうな顔を浮かべた。
「やっぱり、初心者に一人で討伐依頼は難しかったかしら? 無理しなくても――」
「あ、いえ。無事に終わりました。これ、討伐部位と指定の薬草です」
ドンッ、とカウンターに置かれた麻袋。
メリルが中を確認した瞬間、彼女の目は見開かれ、言葉を失った。
「えっ……? うそ、これ……」
そこには、根っこから丁寧に採取され、泥一つついていない最高品質の薬草の束。そして、毛皮を傷つけないよう脳天だけを正確に撃ち抜かれた、五羽もの角兎の死骸が納められていたのだ。
「おいおい、メリルちゃん、どうした――って、なんじゃこりゃあ!?」
後ろから覗き込んだベテラン冒険者のガンツも、目をひん剥いて驚愕の声を上げた。その声に、ギルドにいた他の冒険者たちも一斉に注目する。
「たった一時間でこれを集めたのか!? しかもこの角兎、傷が全くねえ! どうやって倒したんだ!?」
「あー、えっと……俺のテイムしたスライムが、ちょっと賢くて。薬草の匂いを嗅ぎ分けたり、不意打ちで兎を気絶させたりしてくれたんです」
リオンが誤魔化すように笑って懐からシズクを出すと、「キュイッ」と可愛らしく鳴いた。
「す、スライムが……!?」
「信じられん……テイマーってのは、あんな最弱の魔物をここまで使いこなせるのか……?」
大聖堂での『無能テイマー』のレッテルはどこへやら。
規格外の成果を叩き出したリオンに、ギルド中の冒険者たちが畏敬の念を抱き始めた瞬間だった。




