第3話:名付けと進化、そして自分だけの絶対領域
第3話:名付けと進化、そして自分だけの絶対領域
リオンの足元で、テイムしたばかりのブルースライムが嬉しそうにプルプルと跳ねている。
そのひんやりとしたゼリー状の体を撫でながら、リオンはにんまりと笑みを浮かべた。
「よしよし。これからよろしくな。そうだ、ずっとスライムって呼ぶのも味気ないし、名前を付けよう。……お前は澄んだ水みたいに綺麗だから、『シズク』なんてどうだ?」
スライムが「ピクッ」と反応した、その瞬間だった。
『ピコンッ!』
『従魔に名前が与えられました。ネームドモンスターへと昇格します』
『潜在能力Sの恩恵により、進化条件を満たしました!』
「……えっ? 名付けだけで進化!?」
リオンが驚く間もなく、シズクの体が淡い光に包まれた。
光が収まると、そこには元の倍ほどの大きさになり、まるで宝石のように高い透明度を持つ美しいスライムの姿があった。
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【種族】清流粘体(個体名:シズク)
【レベル】5
【状態】良好・親愛
【スキル】物理耐性Lv2、水流操作Lv1、探知Lv1
(すげえ! 一気にレベルが上がって、スキルまで覚えてる! これがネームド化の恩恵か……育成ゲームでも序盤のボーナスは大事だけど、まさかここまでとは!)
新しくなったシズクを抱き上げると、まるで高級な水枕のように心地よい弾力と冷たさがあった。シズクも嬉しそうにリオンの腕の中で形を変えている。
「いいぞ、シズク。次は俺たちの『拠点』を確認しよう」
リオンは周囲に誰もいないことを確認すると、もう一つの神スキルを発動させた。
「展開しろ――【無限の箱庭】!」
何もない空間に波紋が広がり、光り輝く扉――ポータルが出現する。
リオンがシズクを抱えたままそのポータルを潜り抜けると、そこには王都周辺とは比べ物にならないほど澄み切った青空と、どこまでも続く広大な緑の平原が広がっていた。
「ここが、亜空間……」
空気を胸いっぱいに吸い込むと、濃密で清浄な魔力が満ちているのがわかる。
視界の隅に現れたウィンドウには、【地形変更】【施設建築】【環境設定】といった、牧場経営シミュレーションゲームさながらのメニュー項目が並んでいた。
「なるほど、今はただの平原だけど、俺の魔力や素材を使って、ここに川を作ったり、森を作ったりできるわけか。しかも外部の脅威は一切侵入できない完全な安全地帯……。最高じゃないか!」
これなら、どんなに珍しい魔物をテイムしても、人目を気にせず安全に放牧できる。リオンは夢の実現が一気に近づいたことを確信した。
「よし、箱庭の使い方もわかった。それじゃあシズク、俺たちの初めての冒険(仕事)と行こうか!」
◇
元の草原に戻ったリオンたちは、ギルドで受けた依頼の遂行に取り掛かった。
ターゲットは『王都周辺の薬草採取』と『角兎の討伐』。初心者冒険者が丸一日かけて行うのが普通の依頼だが――今のリオンたちにとっては、ただの「散歩」に等しかった。
「シズク、あそこに角兎がいる! いけるか?」
リオンが指差した先、草むらで草を食む一本角の巨大なウサギがいた。
シズクはリオンの意図を察すると、ぽよんと跳ねて角兎の前に立ち塞がる。
「キュイッ!?」
威嚇された角兎が、鋭い角を突き立てて猛烈な突進を仕掛けてきた。
普通の新人冒険者なら致命傷になりかねない一撃だが、シズクはその柔らかい体で角兎の突進を「ぷにんっ」と完全に受け止めてしまった。進化したことによる『物理耐性Lv2』の効果だ。
「よし、今だ! 【水流操作】!」
リオンの指示に合わせ、シズクの体の一部が鋭い水の鞭へと変化し、至近距離から角兎の脳天を正確に打ち抜いた。
ドサッ、と音を立てて角兎が気絶する。見事な一撃必殺だ。
「すっげえ……! 完璧な連携じゃないか! この調子でいこう!」
討伐だけではない。薬草採取においても、シズクの『探知Lv1』が大活躍した。
シズクが草原を這い回り、微弱な魔力を持つ薬草だけを正確に見つけ出しては、器用に体内に取り込んでいく。スライムの体液で泥などの汚れだけが分解され、綺麗な状態の薬草が次々とリオンの手元に届けられた。
「あっという間に規定量達成だ。角兎も五羽狩れたし、シズクのおかげで丸一日かかるはずの依頼が、たったの一時間で終わっちまった」
大量の薬草と角兎の獲物を前に、リオンは呆れ半分、歓喜半分で笑い声を上げた。
神スキルと、前世の育成知識。
そして何より、テイムした魔物への深い愛情。
これらが組み合わさった時、リオンの冒険者生活は、常識を覆すほどの「超イージーモード」へと変貌を遂げていたのである。




