第40話:震える大地と、火山の逆鱗
第40話:震える大地と、火山の逆鱗
砂漠の砂を巻き上げ、巨大な八輪駆動の要塞が停車したのは、赤茶けた岩肌が続く山間の街『フレイムポート』。ここは中立派閥の重鎮、バーミリオン伯爵が治める、火山観光と鉱石産業の要衝だ。
船を降りた瞬間、一行を襲ったのは、肌を刺すような熱気と、空を覆う薄暗い火山灰。そして――。
ズズズ……ズシンッ!!
「おわっ!? またかよ!」
リオンがよろけ、ジンが手すりを掴む。足元から突き上げるような激しい縦揺れが、街全体を激しく揺らした。
「一日に何度も、それもだんだん激しくなっていますわね……。お出迎え、ご苦労様です、バーミリオン伯爵」
ルミナスが扇子で灰を払いながら声をかける。そこには、灰まみれになりながら憔悴しきった表情で立ち尽くす、中年の貴族がいた。
伯爵の告白:伝説の異変
「これは辺境伯令嬢……それに大公軍のジン軍師殿……。よくぞ、このような時に……」
バーミリオン伯爵は、崩れた石壁を悲しげに見つめながら、応接室へとリオンたちを案内した。
「単刀直入に伺いますわ。この『火山性地震』と、山頂に棲むとされる『紅蓮の神鳥(朱雀)』……何か関係があるのですか?」
ルミナスの問いに、伯爵は重く頷いた。
「この地には『火山の逆鱗』という言い伝えがあります。数百年周期で蘇る神鳥が、目覚めの際に膨大な魔力を放出し、山が震える……。しかし、今回はあまりに異常です。周期よりも早すぎる上に、山から流れてくる魔力が……どす黒く淀んでいる」
「……やっぱり、ここにも『瘴気』が来てるのか」
リオンが眉をひそめる。西の霊峰、東の海、そして南の火山。大陸全体を侵食しようとする『悪意』の影が、ここでも神獣を苦しめているのは明白だった。
激化する震動、テイマーの直感
ゴォォォォォンッ!!
先ほどよりも一際大きな爆発音が山頂から響き、応接室のシャンデリアが激しく揺れた。
「今の揺れは……!? 伯爵、山頂の様子は!?」
「わかりません! 火口付近は今や百度を超える熱風と毒煙が渦巻いており、我が領の騎士たちでは近づくことすら叶わず……!」
ジン伯爵が、神から授かった【天眼の軍師】を即座に起動する。彼の脳内に投影された「脅威度マップ」では、火山の頂上が真っ赤に、いや、どす黒い紫色に点滅していた。
「リオン君、不味いぞ。山頂のエネルギーが飽和状態だ。このままじゃ神鳥が目覚める前に、山そのものが大噴火して、この街ごと吹き飛ぶ」
「……待てよ、ジンさん。マップを見てくれ。そのエネルギーの中心で、何かが必死に抑え込んでないか?」
リオンがジンの投影画面を指差す。
確かに、爆発しそうな瘴気の渦のど真ん中で、小さな、しかし気高い「炎の脈動」が、外へ溢れ出そうとする圧力を内側へ内側へと封じ込めていた。
「……朱雀だ。あいつ、自分が目覚めるためのエネルギーを使って、瘴気の爆発を抑えてるんだ! このままじゃ、目覚める前に力尽きて燃え尽きちゃうぞ!!」
救出への爆走
「伯爵、案内は不要です! 俺たちが直接山頂へ向かいます!」
「なっ!? 無茶な! あの熱風の中をどうやって――」
「俺たちの『足』を舐めないでください!」
リオンたちは挨拶もそこそこに領主館を飛び出し、再び『ランド・アルカ』へと駆け込んだ。
「ゲイルさん! 冷却結界、最大出力だ! エンジン全開で山道を垂直登坂するぞ!!」
「おうよ! 旦那! 火山だろうが太陽だろうが、俺の船(車)を止めることはできねえぜ!!」
ドゴォォォォォッ!!
噴火の予兆で岩石が降り注ぎ、溶岩が流れ始めた過酷な山道を、巨大な八輪要塞が咆哮を上げて駆け登る。
車内は、神の加護とリオンの魔力、そしてゲイルの造船技術により、外の地獄が嘘のような快適さが保たれていた。
「待ってろよ、朱雀! お前を燃え尽きさせたりなんて、絶対にさせないからな!」
窓の外では、吹き出す溶岩を避けるようにして、イグニス(魔竜)とライガ(神虎)が伴走し、道を塞ぐ岩石を次々と砕いていく。
四神コンプリートの最終局面。一行は、怒れる火山の心臓部へと、文字通り「火の中に飛び込んで」いった。




