第39話:陽光の獅子と、砂漠を駆ける魔導要塞
第39話:陽光の獅子と、砂漠を駆ける魔導要塞
砂漠の入り口を守るゼファー男爵領。その領主館では、冷や汗を拭い続けるバーンズ男爵を前に、王国の権力者たちが並んでいた。
「し、しかし軍師殿、辺境伯令嬢……あの洞窟はAランクの獅子が群れを成し、瘴気が満ちております。騎士団を編成せねば……」
「男爵、心配はいりませんわ。リオン様が行くと言えば、それはすでに解決したも同然です」
「そうそう。彼は『攻略サイト』を見ながら進むチートキャラみたいなもんだから。男爵はただ、温かいお茶でも用意して待っていればいい」
ルミナスとジンの圧倒的なオーラに、男爵は「は、はひっ!」と縮こまるしかなかった。当のリオンは、隣で地図を見ながら「よし、お昼までには終わるな」と、まるでコンビニに買い物へ行くようなノリで頷いていた。
陽光の洞窟、瞬く間の救済
山間の奥深く、黄金の熱気を放つはずの『太陽の洞窟』は、今やどす黒い瘴気の霧に包まれていた。
その最奥。本来は太陽のように輝くたてがみを持つ【陽光の双頭獅子】たちが、泥を吐きながら身を寄せ合っていた。
「グルゥ……(もう、限界だ……)」
リーダー格の巨大な獅子が、二つの頭を力なく垂らす。瘴気を体内に留め、領地へ漏らさないように耐え続けてきた誇り高き群れは、すでに死を待つばかりの衰弱ぶりだった。
「――お待たせ。よく頑張ったな」
洞窟の入り口から差し込んだのは、暴力的なまでに清らかな翠緑の光。
「ルミエル、結界全開! シズク、ハク、浄化の水を回せ!」
『ピィィィィィンッ!』
世界樹の神鹿ルミエルが放つ【聖域展開】が、洞窟内の闇を一瞬で焼き払う。リオンが歩み寄り、獅子たちの額に触れると、テイマーとしての慈愛と神の癒やしが濁流のように流れ込んだ。
「シュルルゥッ!(全部吐き出せ、楽にしてやる!)」
「キュイッ!(お水おいしいよ!)」
毒を吸い出し、癒やしの水で満たし、神のバフをかける。
わずか数分前まで死に体だった獅子たちが、ガバッと起き上がり、太陽のような輝きを取り戻したたてがみを震わせた。
「ガアァァァァッ!!」
二つの口から放たれた感謝の咆哮が洞窟を揺らす。
「よし。じゃあ、元凶のゴミ掃除だ。――イグニス、ライガ、主砲をぶち込め!」
洞窟の亀裂から湧き出る瘴気の核に向け、背後に控えていた戦艦――ではなく、今回は『ランド・アルカ』に同乗していた魔竜と神虎が、容赦のない合体ブレスを放つ。
ドゴォォォォォンッ!!
物理的な破壊と聖なる浄化が混ざり合い、厄災の火種は塵一つ残さず消滅した。
お約束の「箱庭へのお引越し」
「さて、この洞窟が元に戻るまで時間はかかるし、砂漠の熱気も酷くなる一方だ。みんな、俺の『牧場』に来るか?」
獅子たちは、自分たちの命と誇りを救ったリオンに、二つの頭を交互に擦り寄せて忠誠を誓った。
『ピコンッ! 陽光の双頭獅子とのテイムが完了しました!』
『群れ全体が配下に入りました!』
「お前は太陽を背負う者、『ソル』だ。さあ、山もお砂場も用意してあるぞ!」
リオンがポータルを開くと、ソル率いる獅子の群れは、昨日レオが爆速でエディットした「箱庭内の新アルプス&砂漠エリア」へと勇ましく駆け込んでいった。
灼熱の砂漠、爆走ドライブ開始
ゼファー男爵が呆然と見送る中、リオン一行を乗せた陸上要塞『ランド・アルカ』が砂漠の境界線に立った。
「エアコン設定温度、22度。冷蔵庫の冷え具合、よし。……ジンさん、ルミナス様、出発です!」
リオンが魔力アクセルを踏み込むと、八輪の巨大タイヤが砂を豪快に跳ね上げた。
「――行くぞ! ランド・アルカ、全速前進!!」
ゴオォォォォォォッ!!
外気温は50度を超え、蜃気楼が揺れる『死の焦土砂漠』。普通の旅人なら一歩で命を削られる過酷な大地を、巨大な要塞が時速120キロで滑走していく。
魔導サスペンションが砂丘の凹凸を完璧に吸収し、車内には優雅なクラシック音楽が流れ、子供たちは冷えたジュースを片手に「わーい! 速ーい!」とはしゃいでいる。
「……リオン君、君。窓の外を見てみろよ。さっきから『砂漠の死神』と呼ばれるデス・ワームが追いかけようとして、あまりの速さに置いて行かれて絶望してるぞ」
「あはは、この車から逃げ切れるのは青龍くらいの速さがないと無理ですよ」
ジン伯爵は、手元のタブレット(神の加護による魔導端末)を操作しながら、もはや乾いた笑いしか出なかった。
「お嬢様、このお菓子、冷えていて大変美味にございますな」
「ええ、セバス。砂漠のど真ん中で冷たいパルフェをいただくなんて……私の知っている『砂漠越えの試練』は、どうやら別の星の物語だったようですわ」
ルミナスは、窓の外を爆速で過ぎ去る地獄の景色を、まるで映画でも見るかのような冷めた目で見守っていた。
最強の矛と盾、そして海と陸の足を得たリオン。
砂塵の向こう、天空を舞う最後の一体――朱雀の待つ聖域へ向けて、一行は常識を置き去りにしたまま、最短ルートで突っ込んでいく。




