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第38話:箱庭のサンドボックスと、暴走する開発者たち

第38話:箱庭のサンドボックスと、暴走する開発者たち

 東の海を制した『天空海竜号グランド・アルカ』が停泊する湖のすぐ側で、またしても常識外れの建造作業が始まっていた。

 今回ゲイルが振るうのは、ハンマーではなく「魔導溶接機」と「空間演算」だ。

「ヒャッハー!! 最高の素材だ! アダマンタイトのフレームに、ハク(白大蛇)の抜け殻から精製した耐熱装甲! これなら太陽に突っ込んでも溶けねえぞ!!」

 神のスキル【海神の船匠ポセイドン・ビルダー】は、陸上車両である『ランド・アルカ』にも適用されていた。凄まじい速度で組み上がるのは、全長五十メートル、八輪の超巨大タイヤを備えた、まるで「動く超高級要塞」のような無骨かつ優美な車両だ。

「ジンさん、サスペンションの調整はどうします? 魔力油圧式で、段差を感じさせない『魔法の絨毯モード』とか作れます?」

「リオン君、甘いな。砂漠の流砂対策には『ホバー(浮揚)機能』を併用すべきだ。低速走行時はタイヤで、高速時は風魔法で浮く。これで時速百二十キロは固い」

「最高ですね! あ、あと冷蔵庫には常に冷えたフルーツジュースが出る魔法陣を組み込みましょう!」

 設計図(神のお告げ入り)を囲んで盛り上がる転生者コンビ。

 その光景を、ルミナスはセバスの差し出すハーブティーを飲みながら、虚無の目で見つめていた。

(……サスペンション。ホバー。時速百二十キロ。……なるほど、彼らが語っているのは『馬車』の話ではないのですね。どちらかと言えば、神話に登場する『太陽を引く戦車』の改良案か何かなのでしょう。ええ、そうに違いありませんわ……)

「お嬢様、落ち着いてください。先ほどからスプーンを逆に持っておられます」

「あら、失礼。セバス、私の感覚が麻痺しているのか、それとも世界の方が歪んでいるのか、今のうちに確認しておきたいのですが」

「世界は正常ですが、あのお二人だけが『別のルール』で遊んでおられるのです。深く考えれば負けでございますよ」

 主従のやり取りをよそに、リオンがパンッと手を叩いた。

「よし、外装はほぼ完成だ! でもゲイルさん、この広い草原じゃテスト走行ができないよな。砂漠の走破性を確認したいし……」

「リオン君、その顔は……やるんだな?」

「はい! レオ、出番だ!」

 呼ばれて飛び出してきた少年レオは、相変わらず無邪気な笑顔で平原の端、まだ何も手をつけていない広大な未開拓エリアへと向かった。

「はーい! 砂漠と山だね! えいっ!!」

 ズドォォォォォォンッ!!!

 大地が咆哮を上げた。神スキル【豊穣の開拓者アグリカルチャー】が、今回は「作物を育てる」のではなく「地形をエディットする」ために暴走する。

 平坦だった草原がみるみると盛り上がり、一瞬にして標高三千メートル級の峻険な「岩山」が形成される。それと同時に、反対側の地面からはすべての水分が吸い出され、見渡す限りの黄金の砂が舞う「大砂漠」が誕生した。

「―――――待て待て待てぇい!!」

 ジン伯爵が、あまりの衝撃に膝から崩れ落ちて地面を叩いた。

「レオ君……君、今何やった!? 地形タイルを丸ごとコピペして貼り付けたな!? 山を作るのに地質学もクソもあったもんじゃない! この世界の物理エンジンはどうなってんだよ!!」

「ジンさん、レオは『開拓者』ですから、地形も自由自在なんですよ」

「自由自在のレベルが違うだろ! 開発者モード(デバッグモード)を平気で使うな! おかげで俺の軍略の中にある『地形の有利不利』が全部ゴミになったよ!!」

 ジンの魂の叫びをBGMに、リオンは完成したばかりの『ランド・アルカ』のエンジン――古代魔力炉に火を入れた。

「よし、テスト走行だ! 子供たち、乗ったかー!?」

「「「はーい!!」」」

 神の過保護付きの幼児たちが、高級ホテルのような船内に乗り込む。内装は魔法のエアコン(空調)により、外の砂漠が五十度を超えていようとも、常に二十二度の快適な春に保たれている。

「いくぞ! ランド・アルカ、発進!!」

 ゴオォォォォォッ!!

 巨大な八輪のタイヤが砂を蹴り上げ、要塞のような巨体が時速百キロを超えて砂漠を爆走し始めた。砂丘をジャンプし、切り立った岩山をホバー併用で垂直に近い角度で駆け登る。

 どれほど激しく跳ねようとも、神のサスペンションとゲイルの造船技術により、車内は高級サロンのように静まり返り、ルミナスの紅茶さえ一滴もこぼれない。

(……山を登る馬車……いえ、陸を走る船。快適ですわ。あまりにも快適すぎて、自分が今どこにいるのか分からなくなってきましたわ。……セバス、明日から砂漠へ行くというのに、なぜ私は『ピクニックに行くような気分』なのでしょう?)

「それは、リオン様というお方が『絶望』という言葉を物理的に轢き殺して進まれるからでしょうな。……おや、お嬢様、あちらをご覧ください」

 セバスの指差す先。テスト走行を終えて興奮冷めやらぬリオンの元へ、またしても空から黄金の光が降り注いだ。

『カッカッカッ! 良い船だ! だがリオンよ、砂漠の夜は冷えるからな、暖房機能も強化しておけ! あと、そこの岩山の向こうの洞窟にいる「陽光の双頭獅子」たち……奴らはもう限界だ。早く助けに行ってやるのだぞ!』

「神様、わかってるって! テストは完璧、対策も万全。……ジンさん、ルミナス様! 準備は整いました!」

 リオンは、作りたての「箱庭製の砂漠」を背に、自信満々に笑った。

「このランド・アルカなら、砂漠の厄災も瘴気も全部まとめて置き去りにできます。……まずはその洞窟へ向かいましょう。困ってる魔物たちを救って、朱雀の元まで最短距離で突っ走りますよ!」

 地形すら遊び道具に変えてしまう規格外のテイマー。

 最強の「ランド・アルカ」を手に入れたリオン一行は、もはや砂漠という死地を、ただの「ドライブコース」に変えようとしていた。

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