第37話:閑話・砂漠のクルーザー計画と、過保護神の「砂対策」
第37話:閑話・砂漠のクルーザー計画と、過保護神の「砂対策」
東の海を後にした超ド級魔導客船『天空海竜号』のラウンジでは、次なる目的地「南の朱雀」へ向けた作戦会議が開かれていた。
窓の外には、大公派閥の最南端に位置する港町、**『灼熱港ソラリス』**の海岸線が見え始めている。
「……さて。あの港で船を降りれば、その先には大陸最大級の『死の焦土砂漠』が広がっています」
ジン伯爵が海図ならぬ「砂漠図」をテーブルに広げた。
ルミナスとセバスが神妙な面持ちで頷く。
「砂漠越えは、海の航海以上に過酷ですわ。魔力による温度調整は必須ですが、砂嵐による魔導回路の目詰まりや、水資源の確保……。通常のラクダや馬車では、一週間も持たずに力尽きるでしょう」
ルミナスの冷静な分析に対し、リオンとジンは顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
「ジンさん、砂漠といえば……やっぱりアレですよね」
「ああ。『空調』完備で、砂に埋もれない『極太タイヤ』。あとは振動を吸収する『サスペンション』。これがなきゃ始まらないよな」
「そうそう! 理想を言えば、砂の上を滑走する『砂上クルーザー』。箱庭にポータルを常設して、いつでもキンキンに冷えた炭酸飲料が飲めるような……」
「……あの、お二人とも?」
ルミナスが扇子を閉じ、困惑の眼差しを向けた。
「エイアコン? サシュペンション? 炭酸……? 先ほどから、どこの古代呪文を唱えていらっしゃるのですか? 砂漠の移動は、結界を張った重装魔導馬車で行くのが王道のはずですが……」
「お嬢様、落ち着いてください」
セバスが冷や汗を拭いながらフォローを入れる。
「おそらく、あのお二人の頭の中には、我々の理解を及ばぬ『別の物理法則』に基づいた乗り物が完成しているのでしょう。……もっとも、それがこの世界の材料で実現可能かは別問題ですが」
リオンとジンが「どうすればダンパーの油圧を魔力で再現できるか」とマニアックな議論を加速させていた、その時だった。
カアァァァッ……!!
もはや恒例となった、部屋全体を包み込む暴力的なまでの黄金の光。
『カッカッカッ! リオンよ、何を悩んでおる! 私の愛しき使徒と、肌の白いお嬢さんや幼児たちを、あんなジャリジャリする砂の上に立たせるわけにはいかん!』
「うわっ、神様! 出るのが早いよ!」
『やかましい! 砂漠など暑苦しいし、靴の中に砂が入ったら不快であろう! 第一、照り返しでリオンの肌が日焼けしたらどうするのだ! 軟弱な馬車など言語道断!』
神界から見守るアルトワール神は、もはや「孫のキャンプを心配するおじいちゃん」を通り越して「全天候型シェルターを送りたがる過保護の極み」に達していた。
『ジンよ、貴様の脳内の「ロマン」を形にするための設計図を、その船大工のゲイルに送りつけておいた! 砂の上を時速百キロで滑走し、内部は常に二十度の春を保つ、神の素材製「陸上要塞クルーザー」を造るがよい!』
「時速百キロ!? 砂漠でかよ! 神様、それもう戦車っていうか動く城だよ!」
『ついでだ! 砂漠に入る手前にある「ゼファー男爵領」……そこに、厄災の瘴気の兆しがある!』
神の言葉と共に、ジンの脳内に新たなマップ情報が流し込まれる。
『そこの山間の奥深く、太陽の洞窟……。そこでは、Aランクの魔物「陽光の双頭獅子」の一団が、自らの命を削って瘴気をその身に留めておる。朱雀の元へ向かう前に、その健気な奴らを救い、瘴気をぶっ飛ばしてくるのだ! 期待しておるぞ!!』
光が収まると、ジンはフラフラと椅子に座り込んだ。
「……リオン君。神様から、造船中以上の『トンデモ設計図』がゲイルに送られたみたいだ。あと、新しいクエストも。ゼファー男爵領……あそこは大公派閥の中でも砂漠の入り口を守る重要な拠点だ」
「陽光の双頭獅子か……。Aランクの集団が瘴気を食い止めてるなんて、また俺の『テイマー魂』を刺激する情報をくれるじゃないか、神様は」
リオンは琥珀色の瞳を熱く燃やし、立ち上がった。
「ルミナス様、セバスさん。砂漠の暑さも砂も、神様とお俺たちの『ロマン』で全部解決します。……まずはその男爵領の洞窟に向かいましょう。困ってる魔物たちを助けて、ついでに最高に快適な砂漠専用車両で、南の朱雀まで爆走してやりますよ!」
「……分かりましたわ、リオン様。もはや何が起きても驚きませんが、エアコン(涼しい部屋)というものには、少しだけ興味がありますわね」
混乱を通り越し、もはや「涼しい旅」という単語に期待を寄せるルミナス。
新たな仲間と、神の無茶振りに応える超科学(?)の車両。
四神コンプリートの最終章に向け、リオンたちのパーティーは灼熱の南の大地へと、かつてない機動力を持って踏み出すのだった。




