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第33話:箱庭のドックと、少年の瞳を持つ創造者たち

第33話:箱庭のドックと、少年の瞳を持つ創造者たち

 新しく箱庭に作られた巨大な湖。

 そのほとりは今、前代未聞の超絶スケールを誇る「秘密の造船ドック」と化していた。

「最高だ! 世界樹の木材が、神の金属オリハルコンが、俺のイメージ通りに組み上がっていく! はははっ、俺は今、神様を超えた気分だぜ!!」

 神のチートスキル【海神の船匠(ポセイドン・ビルダー)】を授かった船大工のゲイルが、歓喜の涙を流しながら巨大なハンマーを振るう。

 しかし、その造船を支える「助手」たちは、さらに規格外だった。

「イグニス、第四装甲板の溶接だ! 青い炎で一気に頼む!」

「ギャオォォッ!(任せろ!)」

「ライガ、古代魔力炉への初期通電! 出力は30%に抑えてくれよ!」

「ガァァッ!(手加減は得意だ!)」

「ミアちゃん、その主砲の砲身、ゲイルさんのとこに持っていってー!」

「はーい! どっこいしょー!」

 リオンの指示のもと、紅蓮魔竜(クリムゾン・ドラゴン)が精密な溶接バーナーとして働き、紫電の神虎ライトニング・タイガーが巨大なバッテリーとして雷を流し込む。さらには、五歳のティムや四歳のミアが、神の【妖精の剛腕フェアリー・ヘラクレス】を使って、数十トンはあるミスリルの装甲板や大砲の砲身を、まるで発泡スチロールのようにお手玉しながら運んでいたのだ。

 少し離れたテラス席で、その光景を優雅に紅茶を飲みながら見つめていたルミナスは、扇子の陰でひっそりとこめかみを押さえた。

(……伝説の竜が、船の装甲を熱溶接しているのは幻覚なのでしょうか? いえ、それよりも、あの小さなティム君が、軍艦の巨大ないかりを片手で振り回しているのは、私の疲労が見せている夢なのでしょうか……?)

 貴族令嬢としての教養と常識が、激しいエラー音を立てている。

 ルミナスは隣に控える老執事を見上げた。

「……セバス。あの方たちは『船』を造っているのですよね? 私の目には、新しい大陸か、神の兵器を創造しているようにしか見えないのですが」

「お嬢様のお目が正常でございます。しかし、あの方々の辞書に『不可能』という文字はないのでしょう」

 セバスもまた、悟りを開いたような遠い目をしながらお茶を注ぎ足した。

 そんな主従の困惑をよそに、湖畔ではリオンとジンが、広げた設計図を指差しながら熱い議論を交わしていた。

「ジンさん! この後部デッキには、絶対に露天風呂を作りたいんです! 海を見ながら風呂に入る、最高の贅沢じゃないですか!」

「馬鹿野郎リオン! ここは対空用の魔力機銃を配置するデッドスペースだ! 露天風呂は最上階のスイートルームのバルコニーに作れ! そうすれば防護結界の範囲内に収まる!」

「なるほど、天才か! じゃあ空いたスペースに、孤児院のみんなが遊べるプールとビュッフェ会場を作りましょう!」

 最強の防御力、最速の機動力、そして超高級ホテル並みの内装。

 前世の現代知識とゲーマーとしてのロマンを全開にして設計図を引く二人の顔は、世界を救う使徒でも、大公軍の天才軍師でもなく――ただの「秘密基地作りに熱中する無邪気な少年」そのものだった。

「ふふっ。リオン、あんなに楽しそうに笑って」

 ルミナスの向かいに座っていたシスター・アンナが、花が咲くような優しい笑顔で呟いた。

 その声にハッとして、ルミナスは再び二人の背中を見つめる。

 同じ「別の世界」から来たという、特別な秘密を共有する二人。誰にも理解されなかった現代の言葉や知識で語り合い、ロマンを形にしていくその姿には、誰も立ち入れない絶対的な絆と信頼があった。

(……少しだけ、羨ましいですわね)

 ルミナスは扇子を閉じ、柔らかな微笑みを浮かべた。

 転生者としての孤独を抱えていたかもしれないリオンが、同郷の友を得て、あんなにも心からの笑顔を見せている。パトロンとして、そして彼を慕う一人の少女として、これほど嬉しいことはない。

「セバス、アンナ様。私たちも、あの大きな『秘密基地』の完成祝いの準備をしましょう。あの方たちの途方もない夢を支えるのが、私たちの役目ですから」

「ええ、そうですわね。最高のごちそうを用意しましょう!」

 ――そして、数日後。

 神の奇跡と、伝説の魔物たち、そして転生者たちのロマンのすべてが結集した結晶が、ついに箱庭の湖にその全貌を現した。

「完成だ……!! 俺たちのドリームシップ、『天空海竜号(グランド・アルカ)』の誕生だぁぁぁっ!!」

 全長百メートル超。純白の世界樹の木材をベースに、ミスリルとオリハルコンの流線型の装甲が太陽の光を反射して神々しく輝く。

 いかなる嵐も魔物も寄せ付けない絶対防護結界を搭載し、内部には一流ホテルを凌駕する居住区画と、いつでも箱庭へ帰還できる『常設ポータル』が設置された、歴史上類を見ない「超弩級・魔導客船」である。

 「「「おおおおおぉぉぉぉっ!!」」」

 完成した巨船を前に、子供たちも、魔物たちも、大公軍の若手たちも、全員が肩を組んで歓喜の雄叫びを上げた。

 リオンとジンはガッチリとハイタッチを交わし、誇らしげに東の空――まだ見ぬ大海原へと視線を向ける。

 最強の足場(船)は完成した。

 あとはこの船を現実の海へと浮かべ、青龍の待つ『蒼海群島』へ向けて錨を上げるだけである。

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