第31話:神速の地形エディットと、常識外れの完了報告
第31話:神速の地形エディットと、常識外れの完了報告
巨大な光のポータルを抜け、ハク(白大蛇)と数百匹の湿地帯の動物たちが、【無限の箱庭】へと足を踏み入れた。
「シュルルゥゥ……!(おお……なんと清らかで、魔力に満ちた空気だ……!)」
死の毒沼に沈んでいたハクにとって、この亜空間の環境はまさに天国そのものだった。
しかし、リオンは腕組みをして平原を見渡した。
「でも、ハクやカエルたちにとっては、ただの草原じゃ乾燥しすぎてて住みにくいよな。レオ! 悪いけど、新入りたちのために『水辺のエリア』を作ってくれないか?」
「おうっ! 任せとけリオン兄ちゃん!」
元気よく駆け出してきた少年レオは、平原の端の何もない地面に両手をついた。
――ズゴゴゴゴォォォォンッ!!
無自覚な神スキル【豊穣の開拓者】が発動した瞬間、大地が波打ち、まるで巨大なスプーンで抉り取られたかのように、広大な窪地が一瞬にして形成された。
そこへ、清流粘体のシズクが『水流操作』で極上の澄んだ水を滝のように流し込み、ものの数十秒で、キラキラと輝く「巨大な湖と美しい湿地エリア」が完成してしまったのだ。
「――――おいぃぃぃっ!!」
その一部始終を見ていたジン伯爵が、たまらず大声を上げてリオンの肩をバンバンと叩いた。
「なんだ今のクリック&ドラッグみたいな地形エディット!? 何十年もかかる治水工事を数秒で終わらせたぞ!? お前の箱庭、完全に『クリエイティブモード』じゃねえか!!」
「あはは、まあレオの才能なんで。ほら、クロエも出番だぞ!」
「はーい! みんな、泥んこ落としてあげるねー!」
ジンのツッコミを華麗にスルーし、今度は少女クロエが【神の手入れ】を乗せた巨大ブラシを振り回す。ブラシが軽く触れただけで、動物たちにこびりついていた泥や瘴気の残滓が光となって消え去り、ピカピカに磨き上げられていく。
「シュルルルル……♪(ああ……鱗が、信じられないほどツヤツヤに……)」
あのSクラスの神々しい大蛇までもが、幼女のブラッシングにうっとりと目を閉じ、完成したばかりの美しい湖へとダイブして幸せそうに泳ぎ始めた。
もはやツッコむ気力も失せたジンは、「……俺の前世の常識、全部捨てよう」と遠い目をしながら、アンナの淹れた紅茶を静かにすするのだった。
◇
ハクたちの快適な住環境を整えた後。
リオンとジン、ルミナスの三人は箱庭を出て、防衛拠点であるバーンズ子爵の城へと帰還した。
応接室で胃を痛めながら待機していた子爵は、三人の姿を見るなり、縋るように立ち上がった。
「おお、ジン軍師殿! リオン様! いかがでしたか!? 瘴気の進行は……そして、あの大蛇は……っ」
「落ち着いてください、子爵さん」
リオンはニコッと笑い、親指を立てた。
「湿地帯の奥で瘴気を撒き散らしていた元凶は、跡形もなく吹っ飛ばしました。もう黒い泥が溢れ出してくることは絶対にありません」
「おおお……っ! まことですか!!」
「そして、身を呈して毒を防いでいた大蛇ですが……彼とその周囲にいた動物たちは全員、俺がテイムして『安全な場所』へ引っ越しさせました。湿地帯の浄化には少し時間がかかるでしょうが、これで領地の危機は完全に去ったはずです」
リオンのあまりにもサラッとした完了報告に、バーンズ子爵はポカンと口を開けた。
Sクラスの魔物をテイム。しかも、たった数時間で領地の消滅危機を根本から解決してしまった。常識的に考えれば、国の全軍を挙げても数ヶ月はかかる大事業である。
「た、たった数時間で……Sクラスの大蛇ごと……? そんな、夢のような……」
「夢じゃありませんよ、子爵」
放心状態の子爵の肩を、ジン伯爵がポンッと優しく叩いた。
「彼はそういう『規格外』なんです。我々凡人は、ただ彼の圧倒的な力に感謝し、全力で彼が活躍しやすい環境を整えてやればいい。……領地が救われて、本当に良かったな」
「軍師殿……っ、ルミナスお嬢様、リオン様……っ!!」
すべてを理解したバーンズ子爵は、ボロボロと大粒の涙を流し、深々と、何度も何度もリオンたちに向けて頭を下げた。
領民を愛する子爵の肩の荷が下りた瞬間だった。
「これで、東へ向かう道中の懸念は完全にクリアされましたね、リオン様」
「ああ。ハクっていう頼もしい仲間も増えたし、最高の準備運動になったよ」
ルミナスと微笑み合いながら、リオンは東の窓から見える青空を見上げた。
厄災の種をまた一つ潰し、さらなる名声と強大な仲間を得た特務部隊。
四神コンプリートの夢と、青龍が眠る『蒼海群島』へ向けた彼らの歩みは、もはや誰にも止めることのできない圧倒的な推進力を持って、ついに海へと漕ぎ出すのだった。




