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第27話:箱庭の驚愕と、東の精鋭たちへの神の祝福

第27話:箱庭の驚愕と、東の精鋭たちへの神の祝福

「……おいおいおい。亜空間に自分だけの領地を持ってるなんて、どこのチート箱庭ゲームだよ……っ」

 光のポータルを抜け、【無限の箱庭インフィニット・ファーム】へと足を踏み入れたジン伯爵は、思わず天を仰いで額を押さえた。

 美しい平原に、広大な畑、快適そうな丸太小屋。

 そして何よりジンの常識を破壊したのは、平原の奥で繰り広げられている光景だった。

「ニャァァァン♪(もっと撫でてくれぇ)」

「はいはい、ライガちゃんいい子ねー」

 西の霊峰で激突していた神話級の怪物――紫電の神虎ライトニング・タイガーのライガが、四歳の幼児ミアに背中をブラッシングされて溶けたような声を出している。さらには、霊峰の護法亀(マウンテン・イージス)である超巨大なゲンの甲羅の上を、子供たちが滑り台にして大はしゃぎしていた。

「伝説の四神が、完全に幼児のペットと遊具になってるじゃないか! しかもあの子供たち、空中で減速したり巨大な丸太を持ち上げたりしてるし! リオン君、君の牧場はバグだらけか!」

「あはは……。まあ、うちの過保護な神様がいろいろやらかした結果です」

 盛大なツッコミを入れる同郷の軍師に、リオンは苦笑しながらテラス席へと案内した。

 すでにルミナスとセバスが席に着き、シスター・アンナ特製の極上ハーブティーが用意されている。ジンは一口飲むなり「なんだこの完全回復ポーションみたいな茶は……」と再び驚愕していた。

「さて、ジンさん。東の『蒼海群島(そうかいぐんとう)』に向かう手前にあるという、『腐食の湿地帯(ふしょくのしっちたい)』について情報をすり合わせましょう」

「ああ、そうだったな」

 ジンは気を取り直し、テーブルに地図を広げた。

「湿地帯は底なし沼が多く、足場が最悪だ。そこに瘴気が混ざった毒霧が立ち込めている。普通の軍隊なら進軍しただけで半数が沼に飲まれる死地だが……」

「問題ありません。足場はゲンの巨大な甲羅の上に乗って進めばいいし、毒霧はルミエル(精霊獣)の結界で完全に浄化できます。敵が出たら、ライガとイグニスの遠距離攻撃で沼ごと吹き飛ばします」

「……うん。俺の軍略がいらないくらい完璧な物理チート戦術だな。だが、リオン君。一つ頼みがある」

 ジンは真剣な顔つきになり、ルミナスとリオンを見つめた。

「東の海で青龍を探索するには、我が大公軍の海兵たちの力が必要になる。だが、彼らは熟練とはいえ、神話級の戦いについてこれるほどの『地力』がない。だから……この湿地帯の探索を『強化合宿』として、大公軍の若手精鋭たちを同行させてくれないか?」

「おやおや、ジン伯爵。リオン様を大公軍のパワーレベリングの引率に使うおつもりですか?」

「ははっ、ルミナス嬢の言う通りだ。だが、同郷のゲーマーならこの提案、乗ってくれるだろう?」

 ルミナスが扇子で口元を隠して笑う中、リオンの琥珀色の瞳は「待ってました」とばかりに輝いていた。

「もちろんです! カイルたちの時もそうでしたが、低レベルの味方を強敵地帯で爆速で成長させるのは、育成ゲーマーの至上の喜びですからね! みんなで沼の魔物を狩り尽くしましょう!」

     ◇

 数時間後。

 ジンの手配により、大公軍の中から選りすぐられた海兵や水魔法使いの若手たちが、緊張した面持ちで箱庭へと招き入れられていた。

「こ、ここが辺境伯様と同盟を結んだという、伝説のテイマー様の拠点……」

「ジン軍師殿の命令とはいえ、我々はここで一体何を……」

 怯える大公軍の若手たちの前に、リオンとルミナス、そして先輩面をしたカイルとエレンが並び立つ。

 リオンが「それじゃあ、合宿の前に……」と口を開きかけた、まさにその瞬間だった。

 カアァァァッ……!!

「な、なんだこの光は!?」

「空が、黄金に……!」

 若手たちがパニックになる中、箱庭の空から、あの陽気で過保護な神の声が響き渡った。

『カッカッカッ! リオンよ、また貧弱な人間どもを引率して危険地帯に行くつもりか! まったく、すぐ死なれてはお主の無双劇の邪魔になるからな、特別にくれてやるわ!』

 テイム神アルトワールの気まぐれな神威が、若手たちに降り注ぐ。

『大公軍の若手どもよ! リオンの陣営として戦う限り、経験値が十倍となる【導かれし成長(エクス・ブースト)】と、泥や水刃の悪環境でも動きが鈍らない【蒼海の加護(マリーン・ステップ)】を授けよう! さあ、我が使徒のために粉骨砕身働くがよい!』

 光が収まり、大公軍の若手たちは自分のステータスカードに刻み込まれた『神の奇跡』を見て、完全に魂を抜かれたようにへたり込んだ。

「か、神様が直接……俺たちに、これほどのスキルを……!?」

「リオン様……あなたは、本当に神の使徒様だったのですね……っ!」

 その光景を見ていたカイルが、ポンッと大公軍の若手の肩を叩き、深く頷く。

 「わかるぞ、その気持ち。俺たちもそうだったからな。今日から俺たちは、リオン様を守る兄弟だ」

 「「はいっ! カイル先輩! リオン様のために、この命尽きるまで!!」」

 あっという間に大公軍の若手たちも、リオンの狂信的なファン(絶対忠誠の信者)へと変貌を遂げた。

 そのコントのようなお約束の展開に、ジンは腹を抱えて笑い転げ、リオンは「また神様の過保護が発動した……」と天を仰いだ。

「よし! 最強の足場ゲンも、神のバフも揃った! みんな、東の『腐食の湿地帯』を突破して、一気に海まで抜けるぞ!」

 「「「おおおおおっ!!」」」

 最強のパトロン、東の天才軍師、そして神に祝福されし熱狂的な若手兵士たち。

 完璧すぎるほどに仕上がった大部隊を引き連れ、リオンは次なる厄災の元凶と、青龍が待つ東の地へ向けて、力強く進軍を開始するのだった。

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