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第25話:閑話・東の知将と、転生者たちの共鳴

第25話:閑話・東の知将と、転生者たちの共鳴

 王国の東端に広がる広大な領土。

 海に面した豊かな大地を治め、国王派に次ぐ王国第二の勢力を持つ『ヴァレリウス大公家ヴァレリウスたいこうけ』の居城にて。

 若き軍師であるジン伯爵は、王都に放っている密偵からの最新の報告書を読み、思わず吹き出した。

「くくっ……あはははっ! やるなぁ、辺境伯令嬢ルミナス殿。強硬派の狸どもを、裏帳簿の束で一網打尽か。これで王都のパワーバランスは完全に崩れたな」

 ジンは書類をデスクに放り投げ、窓の外に広がる青い海を見つめた。

 彼の瞳には、このファンタジー世界を生きる貴族としての冷徹な計算と、もう一つ――『現代日本からの転生者』としての、独特の俯瞰した光が宿っていた。

 ジンの前世の記憶は、彼を若くして天才軍師の地位へと押し上げた。現代の論理的思考と組織論を用いれば、この世界の旧態依然とした貴族の策など容易に手玉に取れたからだ。

 しかし、そんな彼でさえも理解不能な「特異点」が、最近西の国境で誕生した。

 規格外のテイマー、リオンである。

「竜に精霊獣……ここまでは、まあ百歩譲って『天才テイマー』で片付く。だが……巨大な亀と、紫電を纏う虎だと?」

 ジンは報告書に書かれた『玄武』と『白虎』を思わせる魔物の特徴を指でなぞり、ニヤリと笑った。

「亀と虎の次は、どうせ龍と鳥だろ? 間違いない。……このリオンって少年、俺と同じ『転生者(日本人)』だ。しかも、超がつくほどのゲーマーか収集癖コンプ持ちだぞ」

 四神を揃えたがるのは、日本人のオタクのさがである。

 そして、もし彼が「青龍」を求めているのなら、次に必ず目を向けるのは、東の海――このヴァレリウス大公領の海域にある『蒼海群島(そうかいぐんとう)』だ。

 ジンは即座に執務室を出て、主君であるヴァレリウス大公の御前会議へと向かった。

     ◇

「――以上の理由から、我々大公派閥は、ただちにルミナス・辺境伯令嬢の陣営と同盟を結ぶべきだと具申いたします」

 円卓を囲む大公と重鎮たちの前で、ジンは堂々とプレゼンを終えた。

 重鎮の一人が、難色を示して口を開く。

「ジン伯爵よ。確かに辺境伯軍の武力は脅威だが、国王派を差し置いて我々から頭を下げるのは、大公家の威信に関わるのではないか?」

「威信で国が守れますか? 皆様、事の本質を見誤ってはなりません」

 ジンは鋭い視線で重鎮たちを制した。

「西の霊峰の瘴気を単独で払い、神話級の魔物を四体も従える少年。彼を敵に回せば、大公軍の精鋭を以てしても国ごと地図から消し飛びます。王都の強硬派は彼を『兵器』として使おうと企んで自滅しました。我々が取るべき道は『利用』ではなく、彼らの望む『平穏な環境』を全力で提供し、絶対的な『協力者』となることです」

 ジンは主君であるヴァレリウス大公に向き直った。

「閣下。幸いなことに、私はあのテイマーの『次なる標的』が読めております。我々の領海に眠る伝承……水神の龍。彼らは遠からず、あれを求めて東へ来ます。その前に、我々から最高の条件で手土産として提示するのです」

 白髭を蓄えたヴァレリウス大公は、しばらく目を閉じて思案していたが、やがて豪快に笑い声を上げた。

「かっかっかっ! 良い! 相変わらずお前の深謀遠慮には恐れ入るわ、ジン! よかろう、強硬派が潰れた今、辺境伯家と我が大公家が手を結べば、この王国の平和は盤石となる。ルミナス嬢への書状は、お前に一任する!」

「はっ。ありがたき幸せ」

     ◇

 数日後。

 王都の辺境伯邸で、ルミナスは東の大公家から届けられた一通の極秘の親書を読み、目を見開いていた。

「お嬢様、いかがなさいましたか?」

「セバス……。大公家の軍師、ジン伯爵からの書状です。我が家門への全面的な不可侵と同盟の打診、そして……」

 ルミナスは、書状の後半に書かれた一文を指差した。

 そこには、貴族の遠回しな言い回しなど一切ない、極めて直球な言葉が記されていた。

『リオン様へ。東の海にて、蒼き龍が待っています。探索の全面サポートと引き換えに、一度、私と顔を合わせてはいただけないでしょうか? 同郷のよしみとして』

「同郷のよしみ……? リオン様は孤児院の出身のはずですが……」

 首を傾げるルミナスとは対照的に、後からその書状を見せられたリオンは、雷に打たれたように硬直することになる。

(うわあああ! 『青龍』のフラグを立てて待ってる上に、転生者だって完全にバレてる!!)

 東の超大国からの、圧倒的な支援の申し出と、謎の転生者からのコンタクト。

 四神コンプリートへ向けた『蒼海群島』での次なる冒険は、かつてないほど強固なバックアップと、少しの同郷の絆を乗せて、いよいよ幕を開けようとしていた。

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