第22話:青空への凱旋と、癒やしが繋ぐ両国の絆
第22話:青空への凱旋と、癒やしが繋ぐ両国の絆
西の空を分厚く覆っていた漆黒の黒雲が嘘のように消え去り、ガルド防衛砦に数ヶ月ぶりとなる眩しい太陽の光が降り注いでいた。
「おい……見ろ! 霊峰から、誰か降りてくるぞ!」
「あ、あれはリオン様だ! それにカイル殿たちも無事だ!」
見張り台の兵士が上げた歓喜の声は、すぐに砦全体を揺るがすほどのどよめきへと変わった。
霊峰から下山してきたリオンの背後には、紅蓮魔竜と世界樹の神鹿に加え、山のように巨大な霊峰の護法亀と、白銀の雷光を纏う紫電の神虎が付き従っていたからだ。
「し、信じられん……。神話の怪物たちを、あんなに大人しく従えているなんて」
「あのお方が霊峰の瘴気を払い、我々を救ってくださったのだ……!」
伝説の神獣たちを引き連れたリオンの凱旋に、辺境伯軍の兵士たちは膝をつき、祈りを捧げるように道を空けた。
カイルとエレンも誇らしげに胸を張り、リオンと共に砦の中庭へと足を踏み入れる。
「隊長さん、ただいま。霊峰の瘴気は、根本から完全に消し飛ばしておきましたよ」
「おおっ、リオン様! カイル殿! なんと御礼を申し上げてよいか……!」
駆け寄ってきた守備隊長が、涙ながらにリオンの手を固く握りしめた。
しかし、リオンの視線は隊長の後ろ――中庭の壁際に集められた、隣国軍の兵士たちへと向けられていた。
つい数時間前まで、どす黒い血管を浮かび上がらせて暴れ狂っていた彼らは今、完全に正気を取り戻し、虚脱状態でへたり込んでいた。
「俺たちは……いったい、何てことを……」
「悪夢だ……。頭の中で『殺せ』という声が響いて、自分の意志で体が動かなくて……俺は、防衛線を守る彼らを、何度も剣で……っ」
瘴気に精神を乗っ取られていた間の記憶がフラッシュバックし、隣国兵士たちは恐怖と罪悪感に震え、両手で顔を覆って泣き崩れていた。
瘴気という毒は抜けた。しかし、暴れ回ったことによる肉体の深刻な疲労と、何より「自らの意志に反して殺戮を行おうとした」という心の傷は、深く彼らを苛んでいた。
「隊長さん。俺たちの仕事は、まだ終わってませんね」
リオンの言葉に、隊長も静かに頷く。
リオンはルミエルの首筋を優しく撫でると、隣国兵士たちの中心へと歩み出た。
「みんな、もう自分を責める必要はない。あんたたちの心と体を操っていた『厄災』は、俺とこの子たちが全部ぶっ飛ばしてきた」
リオンの澄んだ声が、砦の中庭に響き渡る。
そして、ルミエルが美しく嘶き、前足を大地に打ち付けた。
――ポワァァァッ……。
翠緑の光の波紋【大地の癒やし】が、砦中を優しく包み込む。
隣国兵士たちの体中から痛みが消え去り、折れていた骨が繋がり、擦り切れていた体力が底の底から湧き上がってくる。同時に、大盾で彼らの突撃を凌ぎ続けていた辺境伯軍の兵士たちの傷跡も、一瞬にして綺麗に塞がっていった。
「体が……治っていく……?」
「あんなに痛かった傷が、痕形もなく……」
呆然とする隣国兵士たち。
そこへ、カイルをはじめとする辺境伯軍の兵士たちが、武装を解いてゆっくりと歩み寄り、彼らの前に手を差し伸べた。
「俺たちの主であるルミナスお嬢様は、『瘴気に侵された感染者を一人も殺さず、防衛線を維持せよ』と我々に命じられました」
「あ……」
「だから、あなたたちは誰の命も奪っていない。我々も、あなたたちを憎んではいない。……無事で、本当に良かった」
差し出された温かい手。そして、憎しみではなく思いやりに満ちた言葉。
国境を越え、殺し合うはずだった兵士同士が、ルミエルの優しい光の中で互いの手を取り合い、涙を流して抱き合った。
「すまない……! 本当に、すまなかった……!」
「気にするな。すべてはあの黒い霧のせいだ。これからは、共に国境の平和を守っていこう!」
広がるのは、歓声と温かい和解の涙。
誰も死なず、誰もが救われる。リオンが選択した「全員を助ける」という意志は、国家間の無意味な戦争を、この上なく美しい形で終結させたのだ。
「ふふっ、本当にリオン様はすごいお方です。最強の魔物だけでなく、人の心までテイムしてしまうのですから」
エレンが涙ぐみながら微笑む。
その隣で、リオンは「そんな大層なもんじゃないよ」と照れくさそうに頭を掻いた。
ふと見れば、新たに仲間となったゲン(玄武)とライガ(白虎)も、争いをやめて笑い合う人間たちの姿を、穏やかな瞳で見つめていた。
「さて……。西の脅威も去ったし、最強の仲間も増えた。ルミナス様への報告はカイルたちに任せて……俺たちはそろそろ、腹を空かせて待ってる『家族』の元へ帰るとしようか」
リオンの言葉に、従魔たちが嬉しそうに鳴き声を上げる。
世界を揺るがす大厄災の火種を一つ完全に叩き潰し、英雄となった育成ゲーマーの少年は、愛する者たちが待つ【無限の箱庭】へと、晴れやかな笑顔で帰還の途につくのだった。




