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第21話:優しき矛盾と、霊峰に結ばれる神獣の絆

第21話:優しき矛盾と、霊峰に結ばれる神獣の絆

 漆黒の瘴気が渦巻く『絶望の霊峰(ぜつぼうのれいほう)』の頂上。

 そこでは、山のように巨大な亀の神獣(盾)と、紫電を纏う巨大な虎(矛)による、天変地異のような激突が繰り返されていた。

 ――ズガァァァァンッ!!

 虎の放つ強烈な紫電の爪撃が、亀の神獣の甲羅に叩きつけられる。

 だが、その攻防を吹雪の向こうから観察していたリオンは、ゲーマー特有の「違和感」に気がついた。

「……おかしい」

「リオン様、何がですか!? このままでは、あの亀の魔物が削り切られてしまいます!」

「いや、カイル。逆だ。あの亀……『一切の反撃をしていない』んだ」

 リオンの琥珀色の瞳が、激闘の細部を正確に捉える。

 亀の神獣は圧倒的な質量を持っている。普通に踏み潰すか、その硬大な尾で薙ぎ払えば、虎に致命傷を与えられるはずだ。しかし亀は、ただひたすらに防御に徹している。

 それどころか、虎の爪が当たる瞬間にわずかに甲羅の角度をずらし、衝撃を逃がしていた。

「あれは防御のテクニックじゃない。……本気で甲羅を固めたら、全力で殴りかかってくる虎の爪や腕が砕けちまうから、わざとダメージを分散させて『虎が自滅しないように』配慮してるんだ」

「なっ……魔物同士が、そんな真似を!?」

 瘴気に当てられ、完全に自我を失って狂い暴れる紫電の虎。

 これ以上下界へ瘴気を撒き散らさせないよう霊峰の頂上に封じ込めつつも、親友である虎を殺すことができず、ただサンドバッグになり続けていた亀の神獣。

 それが、この霊峰で起きていた『矛と盾』の矛盾戦の真実だった。

「……なんて不器用で、優しい奴らなんだ」

 リオンの胸の奥で、熱いものが込み上げてきた。

 最強の魔物たちが、こんな悲しい理由で傷つけ合っている。育成狂いであり、何より魔物を愛するテイマーとして、これを見過ごす選択肢などあるはずがない。

「行くぞみんな! 敵を『倒す』な! あの紫の虎を安全に『拘束』するんだ!」

 リオンが号令をかけた瞬間、紅蓮魔竜(クリムゾン・ドラゴン)イグニスが吹雪を裂いて空へ舞い上がった。

「ギャオオォォォォンッ!!」

 イグニスは炎のブレスを吐く代わりに、その巨体と強靭な四肢を使って空から虎に飛び乗り、力ずくで大地に押さえ込んだ。

 突然の乱入者に虎が激しく抵抗し、紫電を放つ。しかし、竜の持つ『竜鱗防壁』がその雷撃を完全にシャットアウトする。

「ノワール! シズク!」

「ワォォン!」

「キュイッ!」

 続けざまにノワールが虎の四肢を影で強力に縛り付け、シズクが高圧の水球で虎の頭部を覆い、物理的な衝撃を吸収するクッションを作り出した。

 完璧な無力化。一切の殺意を含まない制圧術。

「グゥゥゥ……?」

 亀の神獣が、驚いたように大きな瞳をリオンに向けた。

 リオンは吹雪の中を歩み寄り、亀の巨大な顔の前に立つと、【神羅万象の絆(ユニバーサル・テイム)】による『慈愛』の波動を全開にして放った。

「もう大丈夫だ。お前は立派に、友達を守り抜いた。……あとは俺に任せろ」

 リオンの真っ直ぐな眼差しと、自分たちを本気で救おうとする意志。

 それを感じ取った亀の神獣は、安堵したようにゆっくりと首を下げ、道を譲った。

「ルミエル! 頼む!」

『ピィィィィィンッ!』

 控えていた世界樹の神鹿(ユグドラシル・ディア)ルミエルが進み出て、限界まで魔力を込めた【聖域展開ホーリー・サンクチュアリ】を発動した。

 翠緑の奇跡の光が、虎の体と霊峰の頂上を覆い尽くす。

 どす黒い瘴気が悲鳴を上げるように蒸発し、渦巻いていた黒雲が晴れ、西の空から美しい太陽の光が差し込んできた。

     ◇

「……グルゥ……?」

 瘴気が完全に浄化され、紫電の虎がゆっくりと目を覚ました。

 瞳に宿っていた狂気は消え、本来の澄んだ金色の瞳が戻っている。虎は周囲の状況を認識し、そして……自分の目の前で、傷だらけになり、甲羅に無数の亀裂を走らせて倒れ込んでいる親友(亀)の姿を見た。

「ガァァァッ……! グルルゥゥゥッ……!!」

 それは、胸を掻きむしるような悲痛な慟哭だった。

 自我を失っていたとはいえ、自分が一番大切な友を殺しかけていた事実。虎は大粒の涙を流し、亀の傷ついた甲羅に額をすり寄せて、何度も何度も謝るように泣き咽んだ。

 ズズズ……。

 すると、亀の神獣がゆっくりと重い首をもたげた。

 そして、怒るどころか「気にするな」とでも言うように、巨大な鼻先で虎の頭をポンポンと優しく撫でたのだ。

 その種族を超えた熱い友情の光景に、見ていたエレンやカイルはボロボロと涙を流し、リオンも目頭を熱くしていた。

「本当にお疲れ様。お前たち二人は、最高のコンビだ」

 リオンが二匹の間に歩み寄り、両手を伸ばしてそれぞれの額にそっと触れる。

「俺と一緒に来い。もう二度と、あんな瘴気に苦しめられたりしない、絶対に安全な居場所をやる。お前たち二人で、俺の『最強の矛と盾』になってくれ」

 リオンの優しくも力強い言葉に、二匹の神獣は静かに目を閉じ、その手にすり寄った。

『ピコンッ!』

霊峰の護法亀(マウンテン・イージス)とのテイムが完了しました!』

紫電の神虎ライトニング・タイガーとのテイムが完了しました!』

「よしっ! お前はドッシリ構えた最高の盾『ゲン』! お前は雷のように素早い最高の矛『ライガ』だ! これからよろしくな!」

 名付けの祝福の光が二匹を包み込み、ボロボロだったゲンの甲羅はさらに神々しい岩盤へと、ライガの毛並みは美しい白銀へと進化を遂げる。

 最強の矛と盾が同時に仲間に加わり、さらに厄災の元凶であった霊峰の瘴気も完全に浄化された。

 西の国境を脅かしていた脅威は去り、リオンのパーティーは文字通り、世界を揺るがすほどの伝説的な戦力を手に入れたのである。

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