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第20話:絶望の霊峰と、激突する二つの神影

第20話:絶望の霊峰と、激突する二つの神影

 西の空を黒く染め上げる、王国の禁足地――『絶望の霊峰(ぜつぼうのれいほう)』。

 一歩踏み入れれば、そこは生物の生存を徹底的に拒絶する地獄の領域だった。

「うおおおっ……! 風が、風が冷たすぎますっ!!」

「カイル先輩、前が見えません! 瘴気が濃すぎて……!」

 吹き荒れる猛吹雪と、視界を数メートル先まで奪う濃密な黒い瘴気。

 カイルとエレンが悲鳴を上げるほどの過酷な環境だが、リオンのパーティーの歩みは決して止まらなかった。

「ルミエル、結界の維持を頼む! イグニス、二人が凍えないように熱を出してやってくれ!」

『ピュイィィッ!』

「グルルルッ!」

 世界樹の神鹿(ユグドラシル・ディア)ルミエルが放つ翠緑の【聖域展開ホーリー・サンクチュアリ】が、パーティーを猛毒の瘴気から完全に隔離する。さらに紅蓮魔竜(クリムゾン・ドラゴン)イグニスが、周囲の雪を瞬時に蒸発させるほどの熱を体表から放ち、極寒の吹雪を相殺していた。

「シズク、ルートはどうだ?」

「キュイッ!」

 リオンの頭上で、清流粘体(アクア・スライム)のシズクが『探知』スキルをフル稼働させ、安全な岩肌の道を指し示す。瘴気に狂ったワイバーンなどの強力な飛行魔物が幾度となく襲いかかってきたが、それらはすべて、月影狼(ムーンライト・ウルフ)ノワールとカイルたちの連携によって瞬く間に迎撃されていた。

「すごい……最強の防寒対策に、完全な瘴気無効化。リオン様の従魔たちがいなければ、五分で全滅している環境です」

「ああ。だが、この山の異常さはそれだけじゃない。……さっきから、山全体が揺れてる」

 リオンが険しい表情で霊峰の頂上を見上げる。

 ズズズンッ……!! と、地殻変動にも似た重低音が、雪崩を引き起こしながら何度も響き渡っていた。

 それは自然の地震ではない。とてつもなく巨大な「力と力」がぶつかり合う、戦闘の余波だ。

「この猛吹雪と瘴気の中心地……霊峰の頂上で、とんでもない化け物同士が殺し合ってるぞ」

 数時間後。

 過酷な山道を登り切ったリオンたちは、すり鉢状になった巨大なカルデラの縁へと到達した。

 そこは、山麓とは比べ物にならないほど濃密な「漆黒の瘴気」が渦を巻く、厄災の震源地。

 そして、その瘴気の嵐の向こう側――視界の先で、神話の光景が繰り広げられていた。

 ズドォォォォンッ!!!

「な、なんだあれは……っ! 山が、動いている!?」

 カイルが絶望に似た声を漏らす。

 吹雪の向こうに浮かび上がった一つのシルエット。それは、数十メートルはあろうかという超巨大な「岩山」だった。いや、違う。よく見れば、その岩山には大木のような四肢と、蛇のように長い尾が生えている。

 それは、分厚く硬大な甲羅を持つ、伝説の玄武(げんぶ)を思わせる超巨大な亀の神獣だった。

(あれが、噂に聞いていた生きた要塞……最強の盾!!)

 だが、リオンのゲーマーとしての視線は、その玄武の神獣に「猛攻」を加えているもう一つのシルエットにも釘付けになっていた。

 ――バリバリバリバリッ!!!

 漆黒の瘴気を切り裂き、紫色の雷光が乱舞する。

 雷と共に空間を跳躍し、玄武の甲羅に何度も激突していたのは、紫電を纏った巨大な「虎」の魔物だった。

 全身からどす黒い瘴気を吹き出し、完全に理性を失っている狂気の獣。しかし、その一撃一撃が霊峰の地形を抉り取るほどの破壊力を秘めている。

「あの虎の魔物……瘴気に当てられて正気を失っているようですが、恐ろしい強さです! あの巨大な亀の甲羅に、亀裂を入れています!」

「ああ……。間違いない。あの虎も、玄武に引けを取らないSSランクの激レア個体だ」

 最強の盾(玄武)を砕かんと、紫電を纏った最強の矛(虎)が牙を剥く。

 おそらくあの虎は、この山の元凶である瘴気に侵され、手当たり次第に暴れ回っているのだろう。そして玄武の神獣は、これ以上瘴気と虎が下界へ降りないよう、己の甲羅を盾にして霊峰の頂上で食い止めているのだ。

「カイル、エレン。お前たちはルミエルの結界から絶対に出るな。ここから先は、神話級の領域だ」

「リ、リオン様! まさか、あの二体の怪物の争いに割って入るおつもりですか!?」

「割って入るだけじゃない」

 リオンは吹雪の中で、不敵な、そして育成ゲーマーとしての抑えきれない欲望に満ちた笑みを浮かべた。

「あの『最強の盾』も、瘴気に苦しんでる『最強の矛』も……俺が両方とも救って、俺の仲間モノにする!!」

 琥珀色の瞳が爛々と輝く。

 霊峰を揺るがす神影の激突。その決戦の地に向け、規格外のテイマーと最強の従魔たちが、いよいよ反撃の狼煙を上げるのだった。

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