第19話:西の防衛砦と、神鹿がもたらす奇跡の光
第19話:西の防衛砦と、神鹿がもたらす奇跡の光
王都を出発し、イグニス(竜)とノワール(狼)の圧倒的な機動力を借りて数日。
リオンたちはついに、西の国境を守護する辺境伯軍の最前線――『ガルド防衛砦』へと到着した。
「リオン様、こちらです! ルミナスお嬢様の手配通り、顔パスで通れます!」
先行したカイルの案内に従い、砦の正門をくぐる。
しかし、そこでリオンたちの目に飛び込んできたのは、想像を絶する野戦病院のような惨状だった。
「う、うぁぁぁっ……殺せ! 俺を殺してくれぇっ!!」
「押さえろ! 瘴気が回って完全に理性を失っているぞ!」
砦の中庭には、拘束衣を着せられ、どす黒い血管を浮き立たせて暴れる男たちが無数に転がっていた。彼らこそ、ルミナスの命令によって殺されずに生け捕りにされた『隣国軍の感染兵士』たちだ。
さらに、彼らの突撃を大盾で受け止め続けた辺境伯軍の兵士たちも、防具の隙間から瘴気を吸い込み、あちこちで激しい咳き込みと高熱に苦しんでいる。
「カイル殿! よくぞ戻られた!」
「守備隊長! 状況は……見ての通り、最悪ですね。治癒魔法は効かないのですか?」
「ええ。神官たちを集めましたが、解毒も回復も一切通用しません。お嬢様の命令通り防衛線は維持していますが……このままでは、敵も味方も瘴気で全滅します」
血走った目で絶望を語る守備隊長。
敵を憎むのではなく、見えない毒に苦しみ合う地獄のような光景を前に、リオンはギリッと奥歯を噛み締めた。
瘴気は、森の生態系を狂わせるだけではなかった。人間の理性と命を無残に破壊し、無意味な殺し合いを強制する、絶対的な『悪意』だ。
(こんなものを、放っておけるか!)
「カイル、隊長さんに伝えてくれ。今すぐ中庭のど真ん中を開けろって」
「はっ! 隊長、直ちに負傷者を壁際へ! リオン様が動かれます!」
カイルの鋭い号令に、疲弊した兵士たちが何事かと場所を空ける。
リオンは大きく息を吸い込み、虚空に向かって手をかざした。
「頼む、みんなを救ってやってくれ! ――こい、ルミエル!!」
ポータルが開き、そこから眩い翠緑の光が溢れ出した。
現れたのは、透き通るような翡翠色の毛並みと、輝く光の枝角を持つ神秘の神獣――世界樹の神鹿、ルミエルだ。
その神々しすぎる姿に、砦の喧騒が一瞬にして静まり返る。
「な、なんだあの神々しい獣は……っ」
ルミエルは悲惨な光景を静かに見渡し、そして、天に向かって高く、美しく嘶いた。
――ピィィィィィィィンッ……!!
「発動しろ、【聖域展開】!!」
リオンの叫びと同時に、ルミエルの足元から翠緑の波紋が爆発的に広がり、巨大な砦全体をドーム状に包み込んだ。
その光に触れた瞬間、砦を満たしていた黒い瘴気が、春の雪のようにシュワシュワと音を立てて溶け去っていく。
それだけではない。暴れ狂っていた隣国兵士の黒い血管が引き、熱にうなされていた辺境伯軍の兵士たちの顔に、スッと血色が戻ったのだ。
「あ、あれ……? 痛みが、消えた……?」
「俺はいったい……ウソだろ、瘴気が完全に浄化されている!?」
神獣の放つ絶対的な浄化と癒やしの光。
それは、わずか数秒の間に、数百人の命を死の淵から引きずり戻すという『奇跡』そのものだった。
我に返った兵士たちが、敵も味方も関係なく、その場に泣き崩れてルミエルとリオンに向かって祈りを捧げ始める。
「り、リオン様……あなたは、本当に神の使いだ……っ」
守備隊長が膝をつき、震える声で感謝を述べる。
しかし、リオンの視線は砦の人々ではなく、遥か西方――空を黒く染め上げる、禍々しい巨大な山脈へと向けられていた。
「隊長さん、感謝はいりません。俺はただのテイマーですから」
リオンの琥珀色の瞳には、かつてないほどの鋭い怒りと、静かな闘志が燃えていた。
あんな禍々しい黒雲を、この美しい世界に広げさせるわけにはいかない。愛する家族が待つ箱庭の平穏を、絶対に守り抜かなければならない。
「ルミエル、お疲れ様。……カイル、エレン。砦のみんなが無事で、これ以上敵が攻めてこないなら、俺たちのやることは一つだ」
「はいっ! あの山の瘴気を、根本から断ち切るのですね!」
リオンは西の空を指差した。
「ああ。あの『絶望の霊峰』に乗り込んで、元凶をぶっ飛ばす。……ついでに、あの過酷な山に引きこもってるっていう『最強の盾』を仲間にしてな!」
厄災の打破と、新たなる最強の仲間の獲得。
背後に数百の兵士たちの祈りと歓声を受けながら、リオンたちのパーティーは、黒雲渦巻く死の霊峰へと力強く足を踏み出すのだった。
いかがでしょうか? リオンのヒーローとしてのカッコよさと、テイマー(育成ゲーマー)としてのブレない目的意識が合わさり、熱い展開になったかと思います!




