第18話:閑話・小さき無双者たちと、神様のやりすぎた過保護
第18話:閑話・小さき無双者たちと、神様のやりすぎた過保護
西の国境、『絶望の霊峰』への出立を明日に控えた夜。
リオンは王都の孤児院を完全に引き払う決断を下していた。
「強硬派の貴族たちが、俺の留守中に孤児院の子供たちを人質に取るかもしれない。ルミナス様の護衛があるとはいえ、万が一があってからじゃ遅いからな」
リオンの提案にシスター・アンナも賛同し、まだ幼い五人の子供たちも全員、【無限の箱庭】へと完全移住することになった。
深夜、リオンが開いたポータルを抜け、小さな子供たちが手を繋いで亜空間へと足を踏み入れる。
「わぁぁ……! お星さまがいっぱい! 広ーい!」
「リオン兄ちゃん、ここが新しいおうちなの?」
五歳のやんちゃ坊主ティムと、四歳の甘えん坊ミアが目を輝かせて平原を駆け出す。
その微笑ましい光景を、遥か上空――神界から覗き込んでいた絆と従魔を司る神アルトワールは、神酒を吹き出して玉座から立ち上がった。
『な、なんだとォォォッ!? あんな小さな幼児たちまで、魔物がウヨウヨいる箱庭にブチ込む気かリオンの奴!!』
箱庭には今や、紅蓮魔竜に世界樹の神鹿、さらには樹海から避難してきた数十匹の魔物がひしめき合っている。
いくらアンナの【慈愛の聖母】で魔物たちが大人しくなっているとはいえ、幼児は予測不能な生き物だ。
『いかん! あんな小石につまずいただけで泣き出すようなか弱き生き物、もし魔物の尻尾に踏まれたり、遊んでいて木から落ちたりしたらどうするのだ! 怪我でもしたら私の心が痛むわ!!』
もはや完全に「初孫を心配するおじいちゃん」と化したアルトワールは、冷や汗を流しながら虚空に神の指を走らせた。
『ええい、手加減などしていられん! 男の子には絶対に怪我をせず重い物を退かせる【妖精の剛腕】! 女の子には絶対に転ばず落下ダメージを無効化する【天使の無重力】! さらに全員に、魔物が絶対に危害を加えずメロメロになる【無垢なる愛され者】を付与じゃあああっ!!』
カアァァァッ……!!
神の焦りと親バカが詰まった黄金の光が、箱庭にいる幼児たちの頭上に降り注いだ。
◇
「よし、みんな。ここからは魔物さんもいっぱいいるから、絶対に一人で――」
リオンが子供たちに注意喚起をしようと振り返った、その直後だった。
「わーい! おっきいワンワンだー!」
「ワォォン……(デレッ)」
なんと、四歳のミアが月影狼のノワールの顔面に勢いよくダイブしていた。
通常なら大怪我になりかねない衝突だが、ミアの体はふんわりと見えないクッションに包まれたように減速し、ぽよんっ、とノワールの鼻先に着地した。ノワールは全く怒るどころか、だらしなく舌を出して「キューン」と完全に親バカの顔でミアを舐め回している。
「えっ? 今、空中で減速しなかったか……?」
リオンが目をこすっていると、今度は横から「どっこいしょー!」という元気な掛け声が聞こえた。
「レオ兄ちゃん、手伝うー!」
「おおっ、ティム! ありがとな……って、ええええええええ!?」
畑の拡張工事のために、レオが切り倒して運ぼうとしていた直径一メートル、重さ一トンはあろうかという巨大な丸太。
それを、五歳のティムが「片手で」ひょいっと持ち上げ、そのまま鼻歌交じりにトコトコと歩き出したのだ。
「で、でっかいトカゲさん! 滑り台させてー!」
「ギャウゥゥゥン♪(どうぞどうぞ!)」
さらに奥では、他の幼児たちがイグニス(伝説の竜)の背中をよじ登り、鱗を滑り台にして遊んでいる。イグニスは子供たちが落ちないように絶妙な角度で翼を広げ、完全に『安全な巨大アスレチック遊具』と化していた。
「…………」
リオンは無言で、自身の【神羅万象の絆】の管理者権限を起動した。
案の定、子供たちの頭上には『神級隠蔽』を貫通して、テイム神から与えられたばかりの輝かしいチートスキルの数々が堂々と表示されていた。
(神様ァァァ!! いくらなんでもやりすぎだろ!! なんだよ【妖精の剛腕】って! 五歳児が丸太でジャグリング始めちゃったじゃないか!!)
天を仰いで心の中で盛大にツッコミを入れるリオン。
しかし、子供たちが怪我一つなく、伝説の魔物たちと満面の笑みで遊んでいる光景を見ていると、自然と肩の力が抜けていった。
「まあ……これで、俺が外にいても絶対に安心だな」
「ええ。この子たちも、ここなら伸び伸びと安全に育ってくれるわ」
呆気にとられていたアンナも、やがて優しく微笑んでリオンの隣に立った。
超絶有能な生産スタッフたちに加え、無敵の幼児たちと、過保護な魔物たち。
かくして孤児院の完全移住は、神様の盛大な「うっかりチート」によって、最高に平和でコミカルな形で完了したのである。
「よしっ! 家族の安全は完全に確保できた。これで思いっきり暴れられるぞ!」
愛する家族たち(最強)の楽しげな笑い声を背に受けながら。
リオンは、瘴気の元凶と新たなる盾が待つ西の地へ向けて、微かな不安すらも抱くことなく、意気揚々と旅立つのだった。




