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第17話:閑話・若き精鋭の帰還と、辺境伯令嬢の決断

第17話:閑話・若き精鋭の帰還と、辺境伯令嬢の決断

 王都に構えられた辺境伯家(へんきょうはくけ)の広大な邸宅。

 その執務室で書類仕事に追われていたルミナスの元に、数日ぶりにカイルとエレンが帰還した。

「失礼いたします、ルミナスお嬢様」

 ガチャリと扉が開き、二人が入室してきた瞬間。

 部屋の隅に控えていた老執事のセバスが、ピクリと眉を動かして冷や汗を流した。

(なんと……。彼らは出立前、確かに優秀ではありましたが、まだまだ粗削りなヒヨッコでした。それがたった数日で、歴戦の猛者のような研ぎ澄まされた覇気と、底なしの魔力を纏っている……!)

 ルミナスもまた、二人の劇的な変化に目を丸くしていた。

 神の【導かれし成長(エクス・ブースト)】と、リオンの異常な引率レベリング。それがどれほど規格外の結果をもたらすのか、実物を見れば一目瞭然だった。

「ご苦労様でした、二人とも。見違えるほど逞しくなりましたね。リオン様の下での修行は、どうでしたか?」

「はっ! リオン様の御力と神の加護は、我々の想像を絶するものでした。我々は今や、いかなる強敵を前にも一歩も引かぬ覚悟と力を得ました!」

 狂信的なまでの熱を帯びたカイルの報告に、ルミナスは満足そうに微笑んだ。

 しかし、続くエレンの顔色がひどく青ざめていることに気がつく。

「エレン、何か重大な報告があるようですね」

「……はい。お嬢様、事態は一刻を争います。我々は『幻霧の樹海(げんむのじゅかい)』にて、森を侵食する黒い『瘴気(しょうき)』と遭遇しました」

 エレンは、瘴気が魔物の理性を奪い凶暴化させていたこと、そしてリオンが強大な精霊獣ごと森の魔物たちを箱庭へ救出した一部始終を詳細に語った。

 伝説の精霊獣すらテイムしたという事実にセバスが息を呑む中、カイルが一歩前に出て、リオンからの「伝言」を口にする。

「リオン様からの忠告です。『西の国境での隣国の不審な動きは、政治的なイザコザではなく、瘴気に精神を侵されたことによる暴走かもしれない』と」

「――ッ!」

 その言葉を聞いた瞬間、ルミナスの脳内でバラバラだった情報が一本の線で繋がった。

「セバス! 昨夜届いた西の国境からの報告書を!」

「はっ。……『隣国軍の攻撃は昼夜を問わず、陣形も無視した狂信的な突撃が多い。まるで死を恐れぬ獣のようだ』……お嬢様、これはまさか」

「ええ。リオン様の仰る通りです。彼らは領土的野心で動いているのではない。西のどこかから発生した『厄災の瘴気』に脳を焼かれ、理性を失っているのです!」

 ルミナスはバンッと机を叩き、鋭い視線を地図の西側――『絶望の霊峰(ぜつぼうのれいほう)』へと向けた。

「あのままの方針で迎撃を続ければ、終わりのない消耗戦になります。何より、相手は病に侵されているも同然。無駄な血が流れすぎる」

「リオン様は、『俺たちが西に向かい、元凶を叩くと共に新たなタンクを手に入れる』と仰っていました。我々も同行する許可を頂いております!」

 カイルの力強い宣言に、ルミナスは扇子を広げ、不敵に笑った。

「素晴らしいわ、リオン様! 我々が国境の防衛で頭を悩ませている間に、すでにその根本原因を察知し、解決に動いてくださっているとは!」

 ルミナスは立ち上がり、辺境伯軍の最高権限者として次々と指示を飛ばし始めた。

「セバス! 直ちに西の国境守備隊へ伝令を。『敵を殲滅するな。瘴気に侵された感染者とみなし、大盾と防壁魔法を用いての隔離・防衛線の維持に全力を注げ』と! そして、リオン様が『絶望の霊峰』へ向かうルートの検問はすべて顔パスで通し、最大限の物資援助を行わせなさい!」

「御意!」

「カイル、エレン。あなたたちは引き続きリオン様の護衛兼、辺境伯家との連絡将校として同行しなさい。我が陣営の命運は、あなたたちとリオン様に託されましたよ!」

「「はっ!! この命に代えましても!!」」

 若き精鋭たちは深く頭を下げ、すぐさま執務室を飛び出していった。

 残されたルミナスは、窓から西の空を見つめながら、己のパトロンとしての責務に胸を張った。

「ふふっ。神に選ばれし少年が存分に無双できるよう、舞台を整えるのが私の仕事。……さあ、世界を救う大冒険の始まりですわよ、リオン様」

 国家間の争いすらも「厄災の一部」として見抜き、背後を完璧に固める美しき令嬢。

 彼女の迅速な手回しにより、リオンたちは一切の障害なく、西の最前線へと歩みを進めることとなる。

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