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第15話:瘴気を払う翠緑と、箱庭という名のノアの方舟

第15話:瘴気を払う翠緑と、箱庭という名のノアの方舟

 『幻霧の樹海(げんむのじゅかい)』の最深部へ近づくにつれ、森の空気は明らかな異常を孕み始めていた。

「リオン様……なんだか、息が苦しいです。霧の色も……」

 エレンが口元を押さえながら顔をしかめる。彼女の言う通り、これまで白かった霧は、いつの間にかどす黒い『瘴気(しょうき)』へと変質し、木々の生命力を奪い取って枯死させていた。

(なんだこの黒い霧……。ゲームで言うところの、スリップダメージを受ける毒沼エリアみたいな不快感だ)

 リオンが警戒を強めながら進むと、不意に視界が開けた。

 そこは、巨大なすり鉢状になった森の中心地だった。

 しかし、その光景にリオンたちは息を呑み、足を踏み出すことすら忘れて立ち尽くした。

「あれは……」

 すり鉢の底には、周囲から流れ込む黒い瘴気が渦を巻いていた。

 その猛毒の瘴気をたった一匹で食い止めるように、広大な『翠緑の結界』が張られている。

 結界の中心に立っていたのは、透き通るような翡翠色の毛並みと、頭部に水晶のような美しい枝角を持つ、鹿に似た神秘的な獣だった。

==============================

【種族】幻樹の精霊獣(エルフ・ビースト)

【レベル】35

【状態】極度の魔力枯渇・瘴気汚染・決死

【好感度】0/100

【潜在能力】SS(神獣の系譜)

(潜在能力SS! やっぱりあの光の主は、激レアの精霊獣だった!)

 だが、リオンの歓喜はすぐに疑問へと変わった。

 なぜ、この強大な精霊獣は逃げずに、こんな瘴気の吹き溜まりで命を削って結界を張っているのか。

 答えは、結界の内側にあった。

「キュゥゥ……」

「ピギィ……」

 精霊獣の足元に広がるわずかな清浄な空間には、ウサギ、小鳥、低級のオーク、傷ついた魔狼など、本来なら捕食し合うような多様な魔物たちが数十匹も身を寄せ合い、震えていたのだ。

 彼らは森を侵食する瘴気から逃げ遅れた者たち。精霊獣は、このか弱き森の住人たちを守るためだけに、自らの命を盾にして結界を維持していたのである。

 ピキィッ……!

 精霊獣の角にヒビが入り、翠緑の結界が明滅する。限界はとうに超えていた。

「カイル、エレン! お前たちはそこで待機! シズク、ノワール、俺についてこい!」

 事態を察したリオンは、一切の躊躇なく斜面を駆け下りた。

「リオン様!? 危険です、その黒い霧に触れればただでは――」

「問題ない! ノワール、瘴気を散らせ! シズクは浄化の水幕だ!」

 リオンの指示に、従魔たちが即座に動く。

 ノワールが『神速』で駆け抜けながら旋風を巻き起こして瘴気を吹き飛ばし、シズクが展開した清らかな水のベールが、リオンの体を猛毒から守る。

 あっという間に結界の前に到達したリオンに、精霊獣は残された力を振り絞り、敵意を込めて嘶いた。

「違う。俺は敵じゃない」

 リオンは武器を持たぬ両手を広げ、ゆっくりと結界に近づく。

 そして、己の魂の底から、【神羅万象の絆(ユニバーサル・テイム)】の『慈愛』の波動を全開にして放った。

「お前一人じゃ、もう限界だ。このままじゃお前も、後ろの奴らも瘴気に飲まれて死んじまう」

 精霊獣の翡翠色の瞳が、真っ直ぐにリオンを見つめ返す。言葉は通じなくとも、この人間から放たれる温かな魔力に嘘がないことは、精霊獣にも理解できた。

「俺はテイマーだ。お前がその子たちを守りたいなら……俺が、お前ごと全員助けてやる!」

 リオンは結界のすぐ横の空間に向けて、高らかに叫んだ。

「展開しろ! 【無限の箱庭インフィニット・ファーム】!!」

 空間が歪み、巨大な光のポータルが出現する。

 ポータルの向こう側から、死の森とは無縁の、清浄で甘い風が吹き込んできた。

 青い空、果てしない緑の平原、そして遠くに見える温かな丸太小屋。それは、瘴気に怯える魔物たちにとって、まさに神が遣わした『方舟』であった。

「さあ、みんな入れ! あの中なら瘴気は絶対に入ってこない! 美味い飯も安全な寝床もあるぞ!」

 リオンが優しく呼びかけると、結界の中で震えていた小動物や魔物たちが、ポータルから漏れる清浄な魔力に引き寄せられるように、次々と箱庭の中へと駆け込んでいった。

 彼ら全員が避難したのを見届け、ついに精霊獣の結界がパリンと音を立てて砕け散る。

 力尽き、崩れ落ちそうになった精霊獣の体を、リオンがしっかりと抱き止めた。

「よく頑張ったな。もう、休んでいいぞ」

 リオンの腕の中で、精霊獣は大きな瞳から一粒の涙をこぼし、安心したように顔をすり寄せた。

『ピコンッ!』

『幻樹の精霊獣の好感度が急上昇しました!』

『幻樹の精霊獣とのテイムが完了しました!』

「お前の名前は……俺たちに光を与えてくれる『ルミエル』だ。よろしくな、ルミエル」

 その瞬間、ルミエルの体が眩い翠緑の光に包まれた。

 瘴気に侵されていた傷は一瞬で浄化され、ヒビ割れていた角は神々しい光を放つ巨大な光の枝へと変貌する。

==============================

【種族】世界樹の神鹿(ユグドラシル・ディア)(個体名:ルミエル)

【レベル】40

【状態】良好・絶対の忠誠

【スキル】大地の癒やしLv3、聖域展開Lv2、状態異常完全無効

 進化したルミエルが天に向かって嘶くと、周囲の瘴気さえも浄化する柔らかな光の波が広がった。

 崖の上でその光景を見ていたカイルとエレンは、もはや感涙を流してひざまずいていた。彼らにとってのリオンは、凄腕のテイマーなどという枠をとうに超え、文字通り「救済をもたらす神の御子」にしか見えなかったのだ。

「よしっ、これにて全員救出完了! 帰って、大宴会と牧場の拡張工事だ!」

 リオンはルミエルの柔らかな背を撫でながら、満面の笑みを浮かべた。

 伝説のヒーラーと、賑やかな森の住人たち。

 箱庭はさらなる活気を帯び、リオンの夢見る大牧場計画は、誰も予想し得ない規模へと膨れ上がっていくのである。

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