第13話:閑話・神の気まぐれと、絶対忠誠の誓い
第13話:閑話・神の気まぐれと、絶対忠誠の誓い
神界の玉座から下界を覗き込んでいた絆と従魔を司る神アルトワールは、ニヤリと口角を吊り上げた。
『ほう。今度は人間を引率して、あの『幻霧の樹海』へ向かうと。相変わらず私の使徒は、面白い育成計画を立てるではないか』
格下のキャラクターを強力な魔物の戦闘に同行させ、安全に経験値を稼がせる。
その発想自体は素晴らしいが、アルトワールはある懸念を抱いた。
『とはいえ、相手はただの人間だ。リオンの従魔たちがいくら無双しようと、強力な魔物の放つ余波や瘴気だけで、か弱き人間など一たまりもなかろう。すぐ死なれては、私の娯楽……ゴホンッ、リオンの計画に支障が出るな』
アルトワールは神酒の杯を置き、楽しげに指を鳴らした。
『よし。リオンや孤児院の者たちほどの「神の恩寵」は与えられんが、あの辺境伯令嬢が集めるという若手たちにも、少しばかり『底上げ』をしてやるとしよう!』
◇
数時間後。
王都の外れにある孤児院の裏庭に、辺境伯軍の精鋭候補である若手騎士カイルと、新人魔法使いのエレンを始めとする数名の若者たちが集められていた。
「ルミナスお嬢様の直命で馳せ参じたが……なぜこんな孤児院に?」
「さあ……。これから私たちが護衛する『特別なお方』に会わせてもらえるそうですが」
事情を知らない若手たちがヒソヒソと囁き合っていると、孤児院の扉が開き、ルミナスとセバス、そしてごく普通の身なりをした少年――リオンが姿を現した。
「よく集まってくれました。これより、あなたたちをリオン様の『絶対の聖域』へ招きます。そこで見たことは、他言無用と心得なさい」
ルミナスの言葉と共に、リオンが指を鳴らす。
虚空に光り輝くポータルが出現し、若手たちは悲鳴を上げそうになるのを必死に堪えながら、それに吸い込まれていった。
「なっ……!?」
「空が、平原が……どこだここは!?」
【無限の箱庭】へと足を踏み入れた若手たちは、完全に度肝を抜かれた。
美しい平原、信じられない速度で畑を耕す少年、そして何より――平原の奥で昼寝をしている、ビルほどもある巨大な紅蓮魔竜(イグニス)の姿に、カイルは腰の剣を抜くことすら忘れてへたり込んだ。
「ひぃっ!? で、でたぁぁぁ! 伝説の竜!!」
「大丈夫ですよ。俺の大事な相棒ですから」
リオンが笑いながらイグニスに手を振ると、凶悪な竜は「キュウッ」と可愛らしい声を上げて尻尾を振った。
その光景に若手たちの頭が完全にパンクしかけた、その瞬間。
カアァァァッ……!!
「えっ? 何この光!?」
箱庭の空が黄金に輝き、若手たちの体を暖かい光が包み込んだ。
そして、リオンやルミナスにとっては「二回目」となる、あの陽気な神の声が響き渡る。
『よくぞ集まった、若き剣と魔法の使い手たちよ! 私はテイム神アルトワール! リオンに同行するお主らがあまりに貧弱ですぐ死にそうだから、特別に『加護』をくれてやる!』
「か、神の声……!?」
『授けるのは【導かれし成長】! リオンの陣営として戦う限り、お主らの成長速度と経験の吸収率は常人の十倍となる! さらに【不屈の忠義】! リオンを守ろうとする時、あらゆる状態異常を無効化する! さあ、我が使徒の露払いとして、存分に励むが良い!!』
光が収束すると、カイルやエレンたちのステータスカードに、今言われた通りの凄まじいスキルがハッキリと刻み込まれていた。
普通の冒険者が一生かけても手に入らないような、破格の成長スキルである。
「う、嘘だろ……神様が、直々に俺たちにスキルを……?」
「リオン様……あなたは一体、何者なんですか……っ!?」
震えるカイルたちに、ルミナスが扇子を広げて誇らしげに告げた。
「理解しましたね? リオン様は、神に愛されし使徒。彼と共に戦い、彼を守ることは、神の意志であり我が辺境伯家の総意です。――命を懸ける覚悟はありますか?」
若手たちは顔を見合わせた。
神の奇跡、伝説の竜を従える少年、そして自分たちに与えられた破格の力。
迷う理由など、どこにもなかった。
「は、ははぁっ!! このカイル、生涯をかけてリオン様をお守りいたします!!」
「エレンも、リオン様のためにこの命と魔法を捧げます!」
若手たちが一斉に膝をつき、リオンに向けて深々と頭を下げる。
そのあまりに狂信的な絶対忠誠の誓いに、リオンは「いや、俺ただのテイマーなんだけど……」と苦笑いしながらも、頼もしすぎる仲間たちの加入を心から歓迎するのだった。
こうして、神の度重なる気まぐれ(過保護)により、リオンの周囲には一切の裏切りが存在しない、世界で最も強固な「最強のチーム」が結成されたのである。




