第12話:閑話・箱庭の円卓会議と次なる舞台
第12話:閑話・箱庭の円卓会議と次なる舞台
【無限の箱庭】に新たに建築された、開放感のあるウッドデッキのテラス。
爽やかな風が吹き抜けるそこでは、シスター・アンナが淹れた極上のハーブティーの香りが漂っていた。テーブルを囲むのは、リオン、ルミナス、セバス、そしてアンナの四人だ。
「……信じられません。このハーブティー、一口飲んだだけで魔力が回復し、体の底から活力が湧いてきます。王家の御用達より遥かに上質だ」
「ふふっ、お口に合って良かったですわ、セバスさん」
神スキル【慈愛の聖母】の恩恵がフルに発揮されたお茶を前に、セバスが感嘆の息を漏らす。遠くの平原では、イグニスとノワールがフライングディスク(レオのお手製)を追いかけて元気に走り回っていた。
「さて、お茶会も楽しいですが、本題に入りましょう」
ルミナスがティーカップを置き、凛とした表情で扇子を開いた。
「神より啓示を受け、私とセバスは正式にリオン様の陣営となりました。パトロンとして、今後の動きと課題を整理しておきたいと思います。まず第一に、現実世界における孤児院の防衛についてです」
「昨日の役人みたいな連中が、また来る可能性はありますか?」
リオンの問いに、ルミナスは力強く頷いた。
「王国の強硬派は、あわよくばリオン様を武力で従えようとするでしょう。ですから、孤児院の周囲には我が辺境伯軍の『影の部隊』を常時配置します。彼らには絶対に手出しさせません。同時に、王城へは『古代機兵の件は我が家門の管轄下にある』と圧力をかけ、手出しすれば内戦も辞さない構えを見せておきます」
「お嬢様がそこまでおっしゃるのなら、強硬派も迂闊には動けません。リオン様、ご安心を」
セバスの力強い言葉に、リオンとアンナはホッと胸を撫で下ろした。
国からの理不尽な徴用の心配がなくなったのは、非常に大きい。
「ありがとうございます、ルミナス様。それで、辺境伯領のほうで何か困っていることはないんですか? 俺と従魔たちで手伝えることがあれば、なんでも言ってください」
「……実は、お願いしたいことがあります」
ルミナスは少しだけ眉をひそめ、テーブルの上に一枚の羊皮紙――周辺国の地図を広げた。
「現在、我が領地に接する隣国が、きな臭い動きを見せています。小競り合いが頻発しており、戦力の底上げが急務なのです。私個人が見出した有望な若手騎士や冒険者たちがいるのですが……彼らを、リオン様の今後の探索に同行させてはいただけないでしょうか?」
「同行、ですか?」
「はい。強力な魔物との実戦経験を積ませるためです。もちろん、邪魔にならないように命じます」
その提案を聞いた瞬間、リオンのゲーマーとしての血が騒いだ。
『強力な味方(魔物)に低レベルのキャラクターを同行させ、安全に経験値を吸わせて高速でレベルを上げる』――いわゆる「パワーレベリング(引率)」は、育成ゲームにおける最高効率の基本戦術である。
「なるほど、人間の育成ですね! 面白そうです、ぜひやりましょう。俺の魔物たちが前衛を張れば、どんな危険地帯でも安全に実戦経験を積ませられますよ」
「おお……! 感謝いたします、リオン様!」
リオンの快諾に、ルミナスは目を輝かせた。
「では、それを踏まえた上で『今後のテイム目標』についてです。リオン様は、次はどのような魔物を求めていますか?」
「そうですね。シズク(魔法・索敵)、ノワール(高速アタッカー)、イグニス(飛行・重火力)とバランス良く揃ってきたので……次は『防衛に特化したタンク役』か、『回復・支援に特化した魔物』が欲しいですね。できれば、まだ誰も見つけていないような逸材だと燃えます」
リオンの要望を聞き、セバスが懐から分厚い手帳を取り出した。
「お嬢様の情報網で集めた、特殊な魔物の目撃情報がございます。候補としては二つ。一つは、辺境伯領の北部に広がる『幻霧の樹海』。ここには、怪我人を癒す幻の精霊獣が隠れ住むという伝承があります」
「回復役の精霊獣……いいですね!」
「そしてもう一つ。西の国境付近にある『絶望の霊峰』です。そこには、どんな攻撃も通さない『生きた要塞』と呼ばれる巨大な魔物が眠っているとの噂が。ただし、どちらも熟練の冒険者すら生還が難しい超危険地帯です」
ルミナスとセバスの説明を聞きながら、リオンの顔には隠しきれない笑みが浮かんでいた。
危険地帯であればあるほど、そこにいる魔物の潜在能力(レア度)は高い。
「決まりですね。まずは『幻霧の樹海』に向かって、回復役の魔物をテイムしましょう。その探索に、ルミナス様の言う有望な新人さんたちを連れていきます」
「素晴らしい計画です! 直ちに若手たちを準備させましょう。リオン様、今後のご活躍、辺境伯家を挙げて期待しておりますわ」
完璧な護衛態勢、国への牽制、仲間の育成計画、そして次なるレア魔物の情報。
すべてのピースがカチリと噛み合い、箱庭の円卓会議は最高の前向きな空気の中で閉会した。
「よしっ、そうと決まれば準備だ! シスター、みんなの弁当を頼めるか?」
「ええ、任せてちょうだい。最高に力が出るお弁当を作ってあげるわ」
新たな仲間との出会いと、未知なる大冒険。
盤石の態勢を整えたリオンの足取りは、どこまでも軽く、希望に満ち溢れていた。




