第11話:美しき庇護者と、神が祝福せし盟約
第11話:美しき庇護者と、神が祝福せし盟約
古代遺跡の発見から一夜明けた孤児院の庭先は、ひどく物々しい空気に包まれていた。
「いいか小僧! 貴様が発見した古代機兵と魔力炉は、我が王国の重要機密だ! 発見者である貴様とその従魔は、これより国軍の管理下に置く。さあ、大人しく同行しろ!」
装飾過多な鎧を着た王国の役人と数名の騎士たちが、リオンを取り囲んで怒鳴り散らしていた。
ギルドからの報告を受けた国の上層部が、リオンの持つ異常な戦力を「国の兵器」として取り込もうと、強引な徴用にやって来たのである。背後では、シスター・アンナや子供たちが不安そうに身を寄せ合っていた。
(最悪だ。遺跡の報告なんてするんじゃなかった……。ここで騎士を吹っ飛ばすのは簡単だけど、それじゃ孤児院のみんなが国から追われることになっちまう)
リオンがギリッと奥歯を噛み締め、最悪の事態(国を敵に回しての逃亡生活)を覚悟した、その時だった。
「――そこまでになさい。王の御膝元で、ずいぶんと野蛮な真似をするのですね」
凛とした、しかし絶対的な威圧感を放つ冷たい声が響いた。
庭先に一台の豪奢な馬車が止まり、そこから燃えるような赤髪の少女が降り立つ。その後ろには、隙のない動きの老執事が控えていた。
「なっ、何者だ貴様……って、ひぃっ!?」
少女が扇子を広げ、そこに刻まれた『双剣と竜』の紋章を見せると、高圧的だった役人の顔が土気色に変わった。
「辺境伯令嬢、ルミナス・ヴァン・アストリアです。そこの少年は、既に我が辺境伯家が専属契約を交わした大事な『客人』。いかに国軍とはいえ、我が家門の客人に手出し無用と心得なさい。……それとも、我が辺境伯軍と一戦交える覚悟がおありで?」
「へ、辺境伯軍と!? と、とんでもない! わ、我々はこれで失礼するっ! 撤収だ!!」
国境防衛の要であり、最強の武力を持つ辺境伯家の名前に、役人と騎士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ帰っていった。
あっけにとられるリオンに、ルミナスは扇子を閉じて妖艶に微笑みかけた。
「初めまして、リオン様。市場でのあなたの見事な竜のテイム、そして遺跡での活躍、拝見しておりました。私は有能な人材を愛しています。どうか、私をあなたの『パトロン』にしていただけませんか?」
突然の申し出。しかしリオンは、彼女の瞳の中に打算ではなく「純粋な実力への敬意と好奇心」を感じ取っていた。
国という巨大な権力から孤児院を守るためには、彼女のような強力な後ろ盾が絶対に必要だ。
「……助けていただいたこと、感謝します。ルミナス様が俺たちを守ってくれるなら、俺もあなたを信じます。その代わり――俺の『本当の秘密』をお見せしましょう」
リオンは決意を込め、孤児院の庭に【無限の箱庭】のポータルを展開した。
◇
「こ、これは……なんという……っ!」
「お嬢様、信じられません。空間そのものを支配する魔法など、神話の時代にしか……っ」
亜空間の牧場へ足を踏み入れたルミナスと執事のセバスは、優雅な貴族の仮面をかなぐり捨てて驚愕に震えていた。
そこには、平原を猛スピードで耕す少年と、巨大な紅蓮魔竜(イグニス)の鱗を鼻歌交じりに磨く少女、そして伝説の竜に手作りのパイを「あーん」して食べさせているシスター・アンナの姿があったからだ。
「ここが俺の牧場であり、絶対の聖域です。俺はここで、最強の魔物たちを育てて自由に暮らしたい。ルミナス様が俺たちの平穏を守ってくれるなら、俺たちもこの力で、辺境伯家の力になることを約束します」
リオンが右手を差し出すと、ルミナスは震える息を吐き出し、そして、この世の全ての宝を手に入れたかのような最高の笑顔を咲かせた。
「ええ、ええ! 素晴らしいわ! 私の目に狂いはなかった! 我が家門の全霊をかけて、あなたたちのスローライフを庇護しましょう!」
ルミナスがリオンの手を強く握り返した、まさにその瞬間だった。
カアァァァッ……!!
「な、なんだ!?」
「光が……空から!?」
箱庭の空が眩い黄金の光に包まれ、リオン、ルミナス、セバス、そして孤児院の三人の体を暖かな光の柱が貫いた。
そして、彼らの脳内に、威厳がありながらもどこか陽気な『神の声』が直接響き渡る。
『よくぞ同盟を結んだ、我が愛しき神の使徒とその眷属たちよ! 私は絆と従魔を司る神アルトワール!』
「か、神様!?」
『カッカッカッ! 孤児院の者たちよ、お主らのその異常な作業効率は私が与えた恩寵だ! そして辺境伯の娘よ、よくぞ我が使徒の盾となった! お主のその気高き覚悟に免じ、我が眷属たる証を授けよう!』
光が収束すると、ルミナスとセバスのステータスカードが自動的に実体化し、新たなスキルが刻み込まれた。
==============================
【ルミナス】
付与スキル:【使徒の庇護者】(神の恩寵・神級隠蔽)
※リオンの陣営に対する悪意を事前に察知する絶対感知能力。
【セバス】
付与スキル:【鋼の忠誠】(神の恩寵・神級隠蔽)
※主人と陣営を守る際、全ステータスが飛躍的に上昇。
『リオンはこれから、世界を脅かす大厄災すらも無双する最強の軍団を育て上げる! お前たちはそれを支え、共にこの世界を護る最高のチームだ! ――頼んだぞ、お主ら! 特にリオン、もっともっとヤバい魔物をテイムして私を楽しませろよ!!』
言い残すことだけ言い残し、嵐のように神の声は消え去った。
静まり返る箱庭。しかし、全員の心には、途方もないスケールの使命感と、奇妙な連帯感が生まれていた。
「……どうやら、とんでもない神様に目をつけられてしまったようですね」
「あはは……。すいません、うちの神様、ちょっと過保護で押しが強くて」
呆然とするルミナスと、頭を掻くリオン。二人は顔を見合わせ、やがて吹き出すように笑い合った。
国からの追手は退けられ、強大すぎるパトロンと、神からの公式認定。
最強の牧場経営と大冒険へ向けたリオンの基盤は、ここに極まったのである。




