第10話:静寂の遺跡と、暴かれる古代の封印
第10話:静寂の遺跡と、暴かれる古代の封印
冒険者ギルドのカウンターで、受付嬢のメリルは申し訳なさそうに眉を下げていた。
「ごめんなさい、リオン君。新人のあなたに指名依頼なんて負担をかけてしまって。でも、あなた以外に適任者がいなくて……」
「いえ、頼りにされるのは嬉しいですよ。それで、依頼の内容というのは?」
メリルが提示した羊皮紙には、『静寂の遺跡の深部マッピング』と記されていた。
王都から半日ほどの距離にあるその遺跡は、目立った魔物も出ない代わりに内部がアリの巣のように複雑に入り組んでおり、何十年も「ただの空っぽの石の迷路」として放置されていた。しかし最近、ギルドとして正確な周辺地図を編纂することになり、白羽の矢が立ったのだという。
「リオン君のテイムしたスライムちゃん、探知能力がずば抜けてるってガンツさんたちが言ってて。その子なら、迷わず深部まで行けるんじゃないかと思って」
「なるほど。シズクの『探知』なら、マッピングはお手の物です。任せてください」
リオンは快諾し、意気揚々とギルドを出発した。
今回のお供は、索敵要員のシズク、護衛兼足代わりのノワール。そして「外で暴れたい」と箱庭でウズウズしていたイグニスは、遠くから空を飛んで上空待機させている。
◇
苔むした石造りの『静寂の遺跡』の内部は、文字通り不気味なほど静まり返っていた。
しかし、シズクを頭に乗せたリオンの足取りに迷いはない。
「右、次は左……シズクの探知、やっぱり便利だな。行き止まりを全部回避できる」
「キュイッ!」
順調にマッピングを進め、最深部と思しき巨大な広間へと到達した時だった。
突然、シズクが「ピィッ!」と鋭い警戒の声を上げ、リオンの頭から飛び降りた。同時に、傍らを歩いていたノワールも『月影狼』の毛を逆立てて低く唸る。
「どうした、二人とも……っ!?」
ズズズズズ……ッ!
地響きと共に、広間の巨大な石壁が音を立ててスライドしていく。
そこから現れたのは、ただの遺跡には到底あり得ない、全身が黒い金属で覆われた身の丈五メートルを超える人型の巨大な兵器――『古代機兵』だった。
『侵入者ヲ検知。排除プロトコル、起動』
無機質な声と共に、ゴーレムの眼窩が赤く発光する。
その体から放たれる圧倒的な威圧感は、そこらの魔物とは次元が違った。
(空っぽの遺跡じゃなかったのか!? 古代の防衛兵器が封印されてたなんて、ギルドの連中も知らなかったんだな!)
だが、リオンの唇は恐怖ではなく、不敵な笑みの形に歪んでいた。
この数日、箱庭でぬくぬくとスローライフを満喫していたのだ。ゲーマーとしての闘争本能が、強敵を前に歓喜している。
「いいぜ。俺たちの初陣の相手にとって不足はない。やろうか、みんな!」
リオンの号令と共に、従魔たちが一斉に動いた。
「シズク、関節部を狙え!」
「キュイッ!」
シズクの体から高圧の水の鞭が放たれ、ゴーレムの膝と肘の関節にピンポイントで叩きつけられる。金属の駆動部に入り込んだ水が、その重々しい動きをさらに鈍らせた。
「ノワール、撹乱だ!」
「ワォォォッ!」
ノワールが『影潜み』で自身の影に溶け込み、ゴーレムの背後から飛び出す。『神速』のバフが乗った鋭い爪が装甲を連続で引っ掻き、ゴーレムの注意を完全に引きつけた。
ゴーレムが巨大な鉄腕を振り下ろすが、ノワールは既にそこにはいない。残像を殴らされたゴーレムの隙を突き、リオンは上空へ向けて大きく指を鳴らした。
「吹き飛ばせ、イグニス!!」
ズドォォォォンッ!!
遺跡の天井の石組みが派手に崩落し、そこから真紅の巨竜が姿を現した。
「ギャオオォォォォォンッ!!」
イグニスの口から放たれた『紅蓮のブレス』が、真っ直ぐにゴーレムへと降り注ぐ。
古代の黒金属すらもドロドロに溶かす超高温の炎。シズクの探知によって的確に暴かれた胸部の『動力コア』に炎が直撃し、ゴーレムは断末魔のノイズを上げて大爆発を起こした。
「完璧な連携だ! お前たち、最高だぜ!」
リオンが歓喜の声を上げると、三匹は主人の元へ駆け寄り、「褒めて褒めて」とばかりに体をすり寄せてきた。
ゴーレムが守っていた壁の奥には、美しく青い光を放つ巨大な『魔力炉』が鎮座していた。これが数千年前の古代帝国の遺物であることは、素人のリオンの目にも明らかだった。
◇
「こ、古代の魔力炉!? それに古代機兵だと!?」
ギルドに戻ったリオンから報告を受けたギルドマスターは、椅子から転げ落ちんばかりに驚愕した。
「ええ。奥に隠し部屋があって、ヤバそうなゴーレムが出たので倒しちゃいました。証拠に、あの黒い金属片を持ってきましたけど」
「信じられん……国軍の精鋭一個中隊でも被害甚大になる相手だぞ。それを新人テイマーが、たった一人で……! いや、よくぞ報告してくれた! これは直ちに王城へ報告せねばならん国家規模の発見だ!」
ギルドマスターが血相を変えて飛び出していくのを、リオンとメリルは呆然と見送った。
しかし、この情報は王城へと向かうより早く、ギルド内に潜ませていた「耳」を通じて、ある人物の元へと届けられていた。
「――間違いないわ」
王都の高級宿。報告書に目を通した辺境伯令嬢ルミナスは、扇子で口元を隠しながらも、その瞳に熱狂的な輝きを宿していた。
「市場で伝説の竜を従え、未踏の古代遺跡をたった数匹の従魔で攻略するテイマー。リオン……彼は、我が辺境伯家が何としてでも手に入れるべき『本物』よ」
ルミナスは立ち上がり、老執事のセバスへ振り返った。
「セバス、馬車を用意しなさい。明日、彼が拠点にしているという孤児院へ直接出向きます。私たちの『パトロン』としての誠意を、彼に直接示すためにね」
規格外の力を持て余す少年と、実力主義を掲げる美しき令嬢。
二人の運命が交差する瞬間は、もう目前に迫っていた。




