名画窃盗事件⑥
麻里奈の言葉にそう返した博子はファイルにあった今回と同じように厳重な警備システムをすり抜けて盗まれた海外の窃盗事件を伝える新聞の切り抜きに目をやる。
「この美術館の警備システムは日本のものより上でしょう」
「それにもかかわらず逃げられた」
「不思議です」
「では、どうやったのか?それは……」
「おそらく犯人は私たちと同類の者。少し語弊があるので種類は違うが特殊能力保持者。そして、おそらく犯人が持つ特殊能力は自身の透明化」
「そうであれば、防犯カメラがどれだけあっても無力」
「でも、そうであっても、絵画までは消えないのでは?」
「そのとおりです」
「ですが、その透明化の能力は身に着けているものまでは透明化できるとしたら?」
「持つということ?」
「いいえ。触れたものがすべて透明化の対象になってしまうと不都合が生じます。たとえば、その能力の強弱を自在に操ることができるのならそれも可能ですが、私たちの例を参考に考えれば、できるのは能力のオンオフのみ。そうなった場合、彼が盗む手口は身に着けている服の下に入れること」
「これであれば犯行は可能でしょう」
「実際に最近盗難にあった絵画は今回盗まれたものを含めて。人間ひとりが持てる程度の大きさの絵に限られていますから」
「なるほど」
傍目には滑稽極まる博子の言葉に麻里奈は肯定の言葉で応じる。
「つまり、盗み放題。その気になれば暗殺し放題ということになる」
「ですが、今のところそうはなっていません」
「犯人の矜持とも思えますが、別の理由があるのかもしれません」
「たとえば?」
「それこそ犯人が持つ透明化の限界、または弱点に繋がるのかもしれません」
「一例を挙げれば……」
「透明人間は自動車の運転ができない」
「もちろん運転はできますが、誰が見ても怪しまれます。自動車ごと消せれば問題は解決するように思えますが、相手に自分の車が見えないことから起こるさらに大きな問題が発生します」
「そして、そこから推測するに犯人がおこなえるのは透明化のみで存在そのものを消すことはできないのではないか。これであれば、雑踏をすり抜けることは不可能となります」
「視覚だけというのなら、聴覚や嗅覚も問題になる」
「もしかしたら音は消せるのかもしれません。ですが、嗅覚まではどうなのでしょう。警備用の犬などは犯人の大敵かもしれません」
「足跡は?」
「残る可能性はあります。ただし……」
「肝心の本体が防犯カメラに写っていなければ、犯人のものと断定するまでにはいかないのではないかと」
「つまり、証拠としては残っている」
「ありえます」
「ちなみにこの写真から犯行現場を再現できる?」
「少々お待ちを。場所。時間帯。そして、その後の写真。では……」
「なるほど。こんな感じか」
「……はい」
そう。
これが女子高校生探偵の推理のタネ。
彼女たち自身が「特殊能力」と呼ぶ特別な才。
立花博子は、現場の映像と現場の詳細、さらに時間帯を知ることでその場で起こったことを再現認識できる能力。
小野寺麻里奈は他者の思考を読み取る能力。
そこに精密描写を得意とする画才が加わるのだ。
出来上がるのはそれこそ見てきたような犯行現場の写真そのもの。
むろん、犯人の似顔絵も。




