名画窃盗事件⑩
むろん、証拠物件を警察関係者以外の者に提供するなど本来あり得ぬ話。
だが、何事も裏表がある。
それこそ、光には常に影が付き従うように。
「犯人はほぼ特定できました。ですが、それを知らせる前に確認作業が必要です」
「一秒の遅れが取り返しのつかない事態になります。それでよろしければ、警察組織伝統の回りくどい手続きに勤しんでください」
博子からやってきた、麻里奈に比べれば数十段階丁寧な脅しに屈し司は様々な手続きを省き、それを持ち出す。
さすがに原本を持ち出すわけにはいかないため、正確にはコピーしたものを持ち出す。
そして……。
「……我々も何度も解析したが、何も映っていなかった」
「これを見て本当にわかるのかい?」
「ええ」
むろん、常人である司には見えない。
だが、博子にはそれが見え、その博子の思考を読み取れる麻里奈にもそれは見えている。
「……なるほど。決まりですね」
「ああ」
博子の言葉にそう応じた麻里奈は引き出しから三枚の似顔絵を出す。
「……犯人は……」
「正確には犯人から絵画を受け取った者が使う手口。それは本物の上に別の絵を描き加えるという手法。そして、それを堂々と持ち出す」
「一見するとあり得ないように思えますが、これはこれまで多くの成功例がある。税関の職員はむろん盗まれた絵の情報は得ている。だが、それを堂々と持ち込もうとするとは思っていない。さらにその絵の上にさらに絵を描くなどとは思っていない」
「自称画家が日本で描いたという多数の絵の中に上書きしたその絵を忍ばせる。チェックは簡単にすり抜けるという仕掛けです」
「そして、盗んだ絵を国外に持ち出そうとするその者は……」
「こいつら三人」
「そして、上辺だけではなく入念なチェックをすれば、盗まれた絵画は無事戻ってくることでしょう」
「つまり、こいつらが絵画窃盗犯ということか?」
「いいえ」
「残念ながら、盗んだ者はすでに離日しています」
「いや。いい。そこから先は警察の仕事だ。必ず吐かせる」
「期待していますよ。刑事さん」
麻里奈はそう言ったものの、それが叶わぬことも麻里奈はわかっていた。
なにしろ、盗んだ者と運搬役には直接的なつながりはない。
さらに、絵画の引き渡しも例の透明化を利用しているため、顔を合わせずにおこなわれている。
どれだけ尋問しようがそれ以上の者は出てこない。
そして……。
「そのうち、国外から圧力がやってきて、事件は葬られるわけだ」
「まあ、絵画は戻り、犯人についての情報も提供したわけだから依頼は達成できたわけだし、その先にはついては私たちには関係のないこと」
「とりあえず、お金も入りますし」
「ああ。今日は少しだけ高いケーキを食べよう」
「いいですね」




