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第94話 喧嘩の見物にはやっぱりチキン

モグモグ。


口いっぱいに広がるスパイシーで塩気のある焼いた鶏肉が柔らかいパンに包まれ、爽やかさを超えて酸っぱいチャツネが最後の余韻をスッキリとまとめた。

噛めば噛むほど食欲がそそられ、目の前で繰り広げられる演劇はこの上なく美味しそうだった。


見物のお供の最高のおかずは喧嘩の見物だと言われるように、冷めても鶏肉は美味しかった。

ただ一つ残念な点があるとするなら、ここに冷たいビールが一杯でもあれば最高だったのに……と、ルセテリは舌なめずりをした。


『仕方ない。残念だが鶏肉でもあるだけマシか』


ルセテリが再び焼いた鶏肉をナンに包み、チャツネにつけて口へ運ぼうとした瞬間だった。


ガシッ。

目から火花が散るほど目を光らせているジアの手が、ルセテリの手首を引ったくった。


「ちょっと説明していただけますか、ル先生?」


メラメラと燃え盛る目とは裏腹に、ニッコリと笑みまで浮かべているジアの声は、アイスストームでも吹き荒れているかのように冷え切っていた。

答え方を間違えればそのままサクッ、その鋭い氷の刃で切り刻まれそうで、背筋が寒くなった。


「だから、もう少しだけ見守ってみろって」

「見守ってれば……何、女神様でもパッと現れて助けてくれるっていう啓示でも受けたんですか?」


隙も与えずに撃ち込んでくるジアの攻撃に、ルセテリは「ウォー、ウォー」とジアをなだめなければならなかった。

しかし依然として目は、剣を交えて戦っている二人の男へと向けられていた。

とりあえず、長々と説明するより直接自分の目で見て判断する方が早いだろう。

静かに二人の男を指差すのを見たジアは、ひとまず口をギュッと閉ざした。

状況はあまり気に入らなかったが、ジアは頬をプクッと膨らませることで代わりとし、地面にドスンと座り込んだ。


『ふん、助けないなら助けないでいいですよ。その時はル先生が止めても僕が出るから』

『はいはい、心配せずにまずは見てろって』


カイランが、ブツブツと文句を言っているジアの前にヌッとナンで包んだ鶏肉焼きを差し出した。

柔らかいパンの間に、ガラムマサラの赤いスパイスがついた鶏肉と、緑色のディルとシラントロを刻んで入れた白いクリームが見えた。

その対照的な色の調和がジアの食欲を刺激した。


口いっぱいに唾が溜まったジアは、匂いにつられて一口かじらずにはいられなかった。

一口かじるや否や、ジュワッと口の中に広がる酸味とスパイシーさが食べるのを止められなくさせた。

おまけにパンの間に挟まれた生クマート(トマト)とククミス(キュウリ)がシャキシャキ感をプラスして飽きさせず、あっという間に一つを平らげてしまった。

さらには一つで終わったのが名残惜しくて、じっとカイランの空の弁当箱を凝視してしまったほどだ。


「コホン……お、美味しいのは確かだね、まあ……」


カイランと視線が合い、無駄に気まずくなったジアは頭を掻きながら、必死に知らないふりをして別の場所へ目を逸らした。

状況が状況なだけにあまり気乗りはしなかったが、認めるべきことは認めよう。

正直、美味しかったじゃない?


刀をぶつけ合いながら戦っている男たちを見ていると、確かにどこか不自然ではあった。

明らかに脇腹が空いているにもかかわらず、あんな風にお互いの刀をぶつけ合うことだけに熱中している姿が、到底理解できなかった。

攻撃できない状況でもなかったし、姿勢が取れないからでもなかった。

ただ、何の前触れもなく全員が刀だけをぶつけ合っているこの状況が滑稽だった。

それに、あんな風に刃だけをぶつけ合っていては刃こぼれして刃が全部ダメになり、鍛冶屋に持っていったら鍛冶屋がすぐにハンマーを投げつけるんじゃないかと思う。


「この悪党ども! 村の衆をいじめるなんて!」

「通りすがりならそのまま大人しく通り過ぎりゃいいものを、何の口出しだ!」

「哀れな村の衆を放せ!」

「させるか! エイッ!」

カキン! カキンカキン! ガシャーン!


馬に乗った男を攻撃していた男の手が滑ったのか、空中に刀がヒュンと飛んでいき、そのまま地面に突き刺さった。

もちろん、わざとやったのがバレバレだった。

『この人たち、本当に何やってるんだろう?』と自然に思えるほどだった。


[何ですか? 演劇の練習でもしてるんですか?]


ベッチーがこんなことを言うくらいなら、もう言うことないんじゃないか。

これが本当に演劇だったならどんなに良かっただろうと思うけど。


馬に乗ってきた男の仲間たちが村を襲撃した群れを捕まえて縛り上げ、一箇所に追いやってから何か意味深な表情で耳打ちをしているのを、ジアは見逃さなかった。


「ありがとうございます。このご恩をどうお返しすればよいか……」

「とんでもない。ちょうど通りがかったところでしたが、お役に立てて何よりでした」


よろよろとついている杖を振り回していた老人が馬に乗った男に近づき、涙ぐみながら感謝した。


「ご覧の通り辺鄙な場所なうえに、ここには女やまだ幼い子供、さもなければ私のような年寄りしかいない小さな村なもので……本当にありがとうございます」


老人は男の手を握り、何度もありがとうという言葉だけを繰り返した。


「困っている人を助けるのは当然のことですよ」


世の中の良い人そうな笑顔を浮かべ、老人に優しく話しかける男をジアはじっくりと観察した。

明らかに何か別の考えがある顔だった。

ルセテリとカイランの行動が少しは理解できるような気もするし……。


「面白いね、この演劇」

「だろ? 面白いって言っただろ。メイズポップコーン食べるか?」


今度はいつ取り出したのか、カイランがメイズポップコーンの袋をジアに渡した。


サクサクサク。

揚げたてのメイズをすぐに亜空間に入れたポップコーンはサクサク、ホカホカだった。


ちょっと前までは赤ちゃんじゃないって泣きわめいて大騒ぎしていたのに、今は平然とルセテリが亜空間から取り出してくれたポップコーンを噛みながら状況を楽しんでいるのがクラクラした。


カイランもカイランだが、村の状況もかなり興味深く展開していたため、ポップコーンを噛むのにぴったりの風景だった。


「別途お礼をしなければならないのですが……ご覧の通り小さな村でして、つまらないものしかありませんが」


老人は腰にある小さな袋を男の手に握らせた。

男の眼光が一瞬ギラッと光ったように見えたのも束の間、再び世の中の温和な笑みを浮かべ、袋を再び老人の手の中にギュッと握り返した。


「このようなことのために助けしたわけではありません。これはお納めください」

「そう言われても……恩を受けたら返さねば……」


老人の表情に申し訳なさがにじみ出ていた。


「どうしてもとおっしゃるなら、お願いが一つだけあります」

「おお、もちろんだ。どんなお願いかな?」

「私共はテランカナへ向かう途中だったのですが、今日一晩だけここで休ませていただけないでしょうか」

「ハハ。そんなことお願いされずともよい。恩人ではないか。恩人へのもてなしを蔑ろにはできんよ」


このぎこちない演劇を真に受けて信じ込んでいるのか、白い髭がモジャモジャと覆った老人の顔が明るくなった。


「ここで私共がこいつらを監視しながら休みますので、別にお気遣いなく。大丈夫です」

「それでも……じゃあ中に入って、腹の足しになるものでも持ってくるかね」


顔いっぱいに親切さで武装した男は、老人の背中を押した。

老人が家に入るのを確認した男は、周囲を少し見回して様子をうかがうと、すぐに縛られている者たちに向かって近づいていった。


「あいつら、怪しいわね」

「怪しいな」


いつの間にかメイズポップコーンを噛んでいたカイランとジアの間にルセテリが割り込み、ポップコーンの袋に手を入れていた。


「今、何してるんですか?」

「ん? 何が?」

「行って助けなくていいんですか?」

「今? 今出てって何するんだ? それよりこれ、意外と美味いな」


そう言いながらポップコーンを一掴み口に放り込むルセテリを、ジアは無言で穴が開くほど見つめた。


[あっ、なんで……今出て行っても何もないさ]

[いや、それは僕にも分かりますけど……]

[……?]


ジアの竜言にルセテリの首が右に傾いた。


[僕たち、こんなに騒がしくしてるのにバレないんですか?]


さっきから気になっていたことだ。

確かに、お弁当を食べてポップコーンまで噛みながら、いくら静かに隠れているからといって、カサカサという音に勘の鋭い人間ならすでに見破られていてもおかしくない。

それなのにまだ誰も気づいた者がいないことに、いつバレるか分からずジアはハラハラしていた。


[ああ、それ? 当然、防御幕と遮断幕を張っておいたさ。とっくの昔にな]

[……それを、今教えるんですか?]

[俺、言ってなかったか?]


ジアはポカンとしてルセテリの顔を見つめた。

本当にこのドラゴン様め、マジで!

こみ上げる悔しさに、ジアは唇をギュッと噛みしめてルセテリを睨みつけた。

とっくに教えてくれてさえいれば、お弁当を食べている間中バレるんじゃないかとハラハラと心臓を縮み上がらせて息を潜めたりしなかったじゃない!


[うーん、ごめんごめん。とりあえず、あいつらには俺たちの姿は見えないから心配するな]


その事実を今になって教えるって言うの……ほんと早くも教えてくれてどうも。

ジアは額を手で押さえながらため息をついた。

心配していた自分がバカみたいに感じられた。


「あのさ……なんだか事態がおかしな方向に進んでるみたいだけど?」


ずっと村を注視していたカイランが二人を振り返り、指で村の方を指差した。

そこには、家に入っていた老人が手に何かを持って再び現れ、男たちに向かって歩いてきていた。

よく見ると、老人の手に握られているのは一本のツルハシだった。

老人だけではなかった。

家の中に隠れて外の様子ばかり窺っていた村人たちが、それぞれ手にクワやピッチフォーク、あるいは鎌を持って男たちに向かって集まってきていた。


何なの? 今、この状況は?

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