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第64話 トウモロコシを焼いて食べるよっつの方法

「え……?」


珍しくルセテリは戸惑った。

ただカイランの動物的な感覚に困惑すべきか、それとも感嘆すべきか。

ルセテリは素早く頭を回転させた。


「それはどうやってやったんだ?」

「軟膏! 軟膏に止血剤の機能もあるんだから。それを使ったのよ!」


どこか故障でもしたように簡単に答えられず硬直してしまったルセテリに代わり、ジアが素早く軟膏をカイランの目の前に突き出して叫んだ。


「これが止血剤にもなるって?」


不思議そうに軟膏から目を離せないカイランを見て、ジアは胸をなで下ろした。

目は早かったが、幸い勘は鈍くて助かった。

カイランははっきりと見えなかったに違いない。

でなければ、ジアの唇の上に残っているはずの傷跡が跡形もなく消え去ったという事実に気づいたはずだ。

その話が出ないということは、カイランは見ていなかったことは確実そうだった。


[次から魔法を使う時はもう少し気をつけて! ください!]

[いや、あんなに動物的だとは思いもしなかったんだ。どうやって見たんだ?]

[それが重要なのではなくて、とにかく気をつけてくださいって言ってるんです]


ジアはルセテリにきつく注意した。

万が一の場合の数まで考えるなら、二人が魔法を使うという事実は隠す必要があると言ったのは、ルセテリ本人だった。

そう言っておきながら、平然とみんなが見ている前で堂々と魔法を使うなんて!


[ルセテリ様が悪いです]


ベッシーまでプイッと顔を背けてルセテリを裏切った。


[ああ、俺が悪かった]


こういう時はただ素早く謝ることだけが正解であり、生き残る道だ。

ルセテリは急いでジアに頭を下げた。

それでもジアの尖った唇は依然として元に戻る気配を見せなかったが、そっと顔を背けてチラチラと様子をうかがう姿が、そこまで機嫌を損ねているようには見えなかった。


「これがメイズ……」


老人について火事から逃れたという穀物倉庫についてきたジアは、生まれて初めてメイズというトウモロコシを手にしていた。

アカンとナビルは老人と価格や数量の交渉の真っ最中なのか、倉庫の片隅で談笑を交わしていた。


皮に包まれた、両手を合わせたほどの長さのずんぐりとした棒のようだった。

先には長い糸が絡まったようなヒゲがあり、上からそっと皮を剥いていくと、皮の中に色とりどりの透明な粒が隠れていた。


「これがトウモロコシっていうの?」

「メイズ見るの初めてか?」


面と向かって恥をかかせるようなカイランの言い方に、ジアは一瞬でムスッとすねた。


いや、知らないこともあるでしょ。

それをみんなの前で恥をかかせるように、わざわざあんな言い方をしなきゃならないわけ?


「だから?」

「いや、お前はなんだか世の中で知らないことがないみたいだったからさ」


カイランは後頭部を掻いた。

からかうつもりではなかったのだが、結果だけ見ればそう見えたようで、無性に申し訳なくなったカイランだった。


「これ知ってるか? これ薪火で焼いて食べると美味いんだぜ?」

「これを焼いて食べるの?」

「おう。焼くと甘みが凝縮して美味いんだ」


カイランはメイズを数本抱えると、倉庫の外へ出た。

商会の人たち数人が荷馬車にメイズを積んでおり、片隅では焚き火を起こして野営の準備をしていた。


「若君、火が起きたからもうちょっと待ってな」

「分かった。待ってるから焼く準備も頼むよ」

「そりゃあもう、とっくに済ませてあるさ」


ガハハと笑いながら気兼ねなく商会の人たちと会話を交わすカイランを見て、ジアはアウレリア公爵とジェレミアを思い出した。

同じ公爵という地位にありながら、似ているようで全く違う二人の態度は、ジアにカイランを見直させた。


「これ、そのまま焼いちゃダメなの?」

「待ってろ。収穫したてを食べるのも美味いけど、こうやって焼いて食べるのも美味いんだ」


ニヤリと意味深な笑みを浮かべたカイランが、ジアの手を引いて焚き火の方へ連れて行った。


「このメイズをこのまま網の上に乗せればいいんだ」

「皮も剥かずに?」

「うん。どうせ皮を食べるわけじゃないから、皮は焦げても構わないんだ。その中にあるトウモロコシが重要なんだから」


パラパラとカイランは持っていたメイズをすべて焚き火が焚かれた金網の上に乗せた。

瞬く間にジューッという音を立てて、水分をたっぷりと含んだメイズから白い煙が立ち上った。

甘ったるい匂いが四方に広がり、その匂いに誘われたルセテリが、呼んでもいないのにいつの間にかコソコソとジアのそばに近づいていた。


「カラメルの匂いがするな」

「匂いに敏感だな?」


コツン!

無礼なカイランの後頭部に向かってゲンコツを一つ食らわせながらも、ルセテリの視線はメイズに釘付けだった。


「やれやれ、あんなに注意してもなかなか直らないようですね」

「口から出ないんだから仕方ないだろ」

「それでも年長者には敬語を使わなければ」

「道端で荒っぽい言葉ばかり拾い食いしてるから、簡単には直らないんだろ」

「いつぞやは現場で転がりながら学ぶものだと言っていたくせに……」

「おっと、あの時はまだ幼かったではないですか。転がりながら顔色もうかがって、体で覚える方が早いからそう言ったのですよ。まさかプレシア様の後継者ともあろうお方が、街角の言葉を平気で使い続けるとは思ってもみませんでしたからね」


最初はただの礼儀知らずな金持ちのお坊ちゃんだと思っていたが、ただ道端で学んだせいでまともな礼法を学べず、そうなってしまったらしかった。

一方でナビルの苦労が痛いほど理解でき、彼が可哀想になって涙がチョチョ切れそうになるほどだった。


「10歳にもなれば、礼儀作法というものがどれほど重要か分かる頃だろうに」

「おかげで、わざわざ我々について商行に出回らなくてもよかったはずのナビル様がご苦労なさっているんですよ」

「悪気があるわけではありませんので、薬師の先生も少しは大目に見てやってください、うちの若君を。ああ見えて根は真っ直ぐで深い方なんですよ」


いかつい体格の商団の男はハハハと笑いながらカイランを庇った。

さすがにジェレミアのように使い物にならないような性格ではなかったようだ。


「それで、これはどうやって食べるんだ?」


我慢できないというように、ルセテリは指でメイズを指差して尋ねた。

皮が真っ黒に焦げて、中の粒にも焦げ目がつき始めていたからだ。


「このまま食べても美味いけど、これを塗るともっと美味くなる……です」


さりげなく再び持ち上がるルセテリの拳を見て、カイランは無意識に飛び出したタメ口にぎこちない敬語を付け加えながら顔色をうかがった。


「このギーバターというものを?」

「ギーバターを塗って塩と砂糖を少し振りかけて食べると美味しい……です」


どうにも口に敬語が馴染まないのか、しきりにぎこちない「です」を語尾に付けていた。


ジューーーッ。

ギーバターが熱いメイズに触れて美味しそうに沸き立つ音が聞こえた。

その上に細塩と砂糖をパラパラと振りかけ、カイランがそれをジアに差し出した。


「食べてみな。メイズだけ焼いても十分に美味いけど、これも美味いぞ」


器用に焦げた皮の部分を剥いて折り曲げ、持ち手まで作ってくれた。

ツヤツヤと輝く綺麗な宝石たちが美味しそうに見えた。

熱い湯気をフーフーと吹いて一口ガブッと噛み付くと、新鮮なメイズの果汁が口の中で弾け、ギーバターの香ばしい風味と甘じょっぱい味が調和して口いっぱいに広がった。


「はふっ、美味しい」


ジアの口から感嘆の言葉が自然と飛び出した。


「だろ? 美味いだろ?」


飾らない明るいカイランの笑みが、今度はガラムマサラを振りかけたメイズを渡してくれた。

パッと考えて果たしてメイズとガラムマサラがよく合うだろうかという疑問が湧いたが、意外にもスパイシーな味が甘いメイズとよく合った。

ともすれば脂っこく感じられそうなギーバターをガラムマサラが抑えてくれ、この味は飽きることなくずっと食べ続けられそうだった。


これ、危険なんじゃない?

取り憑かれたようにガツガツとメイズを平らげていたジアは、ふと大食いドラゴンのことを思い出して心配になった。


「うおお! これは本当に美味いな!! 新しい味だ!」


片手にはガラムマサラを振りかけた真っ黄色のメイズを、もう片方の手には赤いチリパウダーにチーズパウダーを乗せたメイズを持ったルセテリが、案の定ムシャムシャと平らげていた。


やっぱりだ。

止めなければ倉庫に保管してあるメイズをすべて食い尽くしそうな勢いで、すでに飛びついていた。


[お止めにならなくてよろしいのですか、あれ。あのままだと根絶やしにされそうですけど]


ベッシーまで心配になったのか、野原に広がる数々の御馳走に目もくれずに駆け寄ってくるほど、ルセテリは本気を出してメイズを平らげていた。

焼く速度が食べる速度に追いつかず、ルセテリはまだ火が通っていないメイズにまで手を伸ばしていた。


「ル先生! 先生がそんなに食べちゃったら、他の人はどうするんですか!」


耐えきれなくなったジアは、強化した木の枝で金網の上で焼かれているメイズを取ろうとするルセテリの手の甲を強く叩いた。

その衝撃で手のひらがジューッと金網の上で焼ける音が聞こえ、周囲の誰もが驚愕して慌てふためき、どこからか水の入ったバケツを持って走ってきた。


「美味しいのに」

「美味しいからって、周りの空気も読みながら食べなきゃダメでしょ。こうやって一人で全部食べちゃったら、残りの人はどうしろって言うのよ」

「お金は十分払えば……」

「今お金の問題じゃないでしょ? ね? お金の問題かって聞いてるの!」


歯をギリギリと食いしばりながらジアがルセテリに食ってかかると、ルセテリはようやく手に持っていたメイズをそっと下ろした。


「そ、俺が悪かったみたいだな……」

「でしょ? 悪かったでしょ? 分かったならほどほどにしてくださいよ。ね?」

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