第45話 豚皮とサルサの意外な組み合わせ
ルセテリはチラチラと、屋台の脇に置かれた容器に視線を送った。
その中には、薄く透明に乾燥させた欠片が山のように入っていた。
「ああ、これかい? これは揚げる前の乾燥させた豚の皮だよ」
ルセテリの視線に気づいた主人が、豪快に笑いながら説明してくれた。
ジアも不思議そうに、容器に入った乾燥した豚の皮と袋に入った揚げた中身を交互に見比べて、目を白黒させていた。
「これが、こうなるんですか?」
「不思議だろ? 理由はよく分からないんだが、こうして乾燥させた皮を油に入れると、こんな風に膨らむんだ」
主人が試しに乾燥した皮を一つ油の中に入れ、揚げ始めた。
平べったく硬かった皮が油に触れると、瞬く間にジュワーッと膨らみ始めた。
不思議な見世物だった。
モグモグと一つずつ取り出してそのサルサというものにつけて食べると、サクサクとした食感で、油で揚げているためともすれば脂っこく感じられそうな部分をピリッとした辛さが中和してくれ、まさに絶品だった。
次々と手が伸び、とてもじゃないがやめられそうになかった。
「食感がかなり独特だな。それに、サルサというソースがただ辛いだけではなく、酸味が豚の皮の油っこさを抑えてくれて、味も良く食欲をそそるにはうってつけじゃないか?」
「お客さん、なかなか味が分かってるね? 大人用にはペパロンチーノってのを細かく刻んで入れてもっと辛くするんだが、これは子供の舌にも合うようにペパロンチーノは少しにして、代わりに酢とレモンを少し多めに入れて酸味を強調したんだ」
「それにエールや強い酒を合わせて飲むのにぴったりのつまみだ。金のない俺たちみたいな奴らには最高だぜ」
突然会話に割り込んできた老人がいた。
手に酒瓶を持っているところを見ると、すでにかなり酔いが回っているようだった。
鼻の頭が赤いところを見ると、近所の酔いどれ爺さんらしい。
「爺さん、いい加減にしなよ。毎日そんなふうにして家に帰るから、婆さんに嫌がられるんだろうが」
「俺だって好きで飲んでるわけじゃねえ。酒が俺を呼んでるんだ。こいつ一つで友達十人分よりマシだからな」
「それでもいい歳なんだから、少しは控えなよ」
「ちぇっ、控えるだあ? 仕事もねえし、楽しみといったらこいつくらいしかねえんだから仕方ねえだろ」
「それでもさ、ほどほどにしないと婆さんに愛想尽かされるぜ」
程よく膨らんだ豚の皮を油から引き上げながら、主人が老人に小言のような忠告を並べるのを、ルセテリとジアは黙って聞いていた。
金のない平民にはぴったりのつまみだという言葉に、ルセテリは頷いた。
確かに、豚の皮は大半の人間が食べずに捨ててしまう部分でもあるし、それを豚を焼く際に出る脂で揚げているのなら、材料費はほとんどかからないようなものだから、素晴らしい平民の酒のつまみとしては最適だった。
それに、サクサクとした食感が自然とエールを呼ぶ味とでも言おうか。
「これ、残ってるのはこれで全部か? 少し買っていきたいんだが」
「サービスで出してるから、今あるのはこれが全部なんだが……ちょっと待っててくれ。ここにあるやつ全部、すぐに揚げてやるから」
「じゃあ、俺は何を食えばいいんだ?」
「爺さんはもうたくさん食っただろ。爺さんより金を払ってくれるお客さんの方が先だ。早く家に帰りな」
下ごしらえして残っていた豚の皮をすべて石板の上に乗せながら、主人は老人をたしなめた。
素早く水分を飛ばした皮を、再び石鍋の中でジュージューと煮えたぎっている油に一口大に切って入れ、揚げていく。
揚げ物は油っこいだけだと思っていたが、こんな風に揚げればこれも悪くないな。
[あのさ、ルッ様]
[ん? なんだ?]
[平民はいつもこんなの食べてるの?]
ルセテリの袖を引っ張り、すでに空っぽになった紙袋を差し出すジアの口元には、塩と揚げかすがついていた。
いつの間に全部食べちゃったんだ……。
[うむ、ちょっと美味しくて……ごめん]
[そ、ひとまず主人がまた揚げてくれてるからいいんだが……]
そんなに美味しかったのか?
[お城じゃ食べたことない味だったから、食べてたらなくなっちゃった]
[ああ、そうだな。皇宮には揚げ物がなかったもんな]
これまで皇宮で食べてきた食事を思い返してみても、食卓に揚げ物が並んだことは一度もなかった。
安くて早くて大量に調理できる代表的な平民の料理が、皇宮の食卓に上がることはないだろう。
「夕飯も食べなきゃならないから、プーはもうおしまいにしよう」
空の紙袋を受け取るルセテリは断固としていた。
見れば、サルサを入れてあった容器も、汁一滴残らず綺麗に空っぽになっていた。
もうおしまいという言葉に、ジアがガクッと首を垂れ、ポロポロと涙をこぼし始めた。
良心が咎めるように、突然の涙攻撃とは!
それでも、育ち盛りの子供はご飯をしっかり食べなければならないのだ。
「そうそう。後でママに背中を叩かれないためにも、ご飯もしっかり食べなきゃダメだぞ」
鍋から皮の揚げ物をザルいっぱい引き上げながら、主人がガハハと声を出して笑った。
主人は、自分が作った料理を美味しそうに食べてくれたジアが可愛らしかった。
そうそう。
ママではないが、ママのようなローザやオーギュスト、アル、ジュールに小言を言われないようにするためにも、ご飯は食べさせなきゃな。
ルセテリは激しく共感しながら頷いていた。
一歩間違えれば心配が山のように押し寄せてくるだろうから、適度なところで切り上げさせなければ。
「本当だね?」
この子は騙されてばかり生きてきたのか?
「ああ、本当だ。ご飯を食べ終わったらあげるから、今は少し我慢しよう」
「分かった。我慢してみる」
口の中には涎がたっぷり溜まっていたが、ジアは我慢強くゴクリと生唾を飲み込むことで、無理やり食べたい気持ちを抑え込んだ。
皇宮では味わえなかった揚げ物のサクサクとした食感は中毒性があり、簡単にはやめられそうになかった。
ソースも辛くて酸っぱい刺激的な味が強かったが、それもまた味わったことのない新たな喜びだった。
時折貧民街に行くたびに、ルセテリが街角で食べ物を一つずつ買ってくれたり、あるいはセンティが持ってきてくれる食べ物を食べたことはあったが、こんなに刺激的な味は生まれて初めてだった。
本当に手が止まらなくて、全部食べちゃったじゃないか。
ジアは舌なめずりをした。
露店の主人は、豚の皮の揚げ物を大きな紙袋四つに分けて入れ、ジアとルセテリに持たせてくれた。
サルサは大きな容器二つにたっぷりと入れてくれたのだが、皮は一つ200ベラ、サルサは一容器100ベラだった。
全部合わせて400ベラでこの量なら、本当に破格の値段だ。
両手に紙袋とサルサの容器をいっぱいに抱えてよちよちと歩き回るわけにもいかないため、人通りの多い横丁へ出る前に、薄暗い路地でルセテリは亜空間を開いた。
亜空間に入れておくと良い点は、時間が流れないということだ。
夕食を食べてから取り出しても、揚げ物は冷めることなく、揚げたてのホカホカでサクサクのまま保たれており、食べるのにちょうど良いはずだ。
その他にも、かなり露店が立ち並んでいる横丁は、食べ物の屋台もさることながら、見物するのもなかなか楽しかった。
あちこちを覗き込んでは美味しそうなものを山ほど買い、見物しながら横丁を抜け出すと、日が少しずつ傾き始め、夕暮れ時になっていた。
劇団の宿舎を出た時とは違い、街にはかなり多くの人々が行き交っていた。
皆、石を扱う荒々しい仕事を本職としているせいか、がっしりとした体格の男たちが大声で騒ぎながら街を連れ立って歩いていた。
中には三々五々連れ立って、早い夕方から酒場を訪れる者もかなりいた。
裕福そうには見えなかったが、それなりに真面目に一日一日を生きている人々で溢れ、なかなか温かい村だった。
「ブリトルは皇帝直轄領の自治市なんですよ」
おっと、びっくりした。
突然、オーギュストがルセテリの背後に近づいていた。
気配もなく近づいてきた彼にビクッと驚いたあまり、持っていた袋の一つを落としそうになったが、幸いオーギュストが落ちそうになった袋を掴んでルセテリに渡し直してくれた。
危うく貴重な肉料理の一つを食べ損ねるところだった。
「ここは住民たちが必要なものがあれば、直接集まって投票というものを通じて決めるそうですよ。だから他の村よりも活気がありますし、村に対する誇りも相当なものだと聞いています。今は岩石の埋蔵量が減って皆苦しそうではありますが、それでも互いに助け合い、自分たちなりに生き残る方法を見つけようと努力している、そんな良い村です」
オーギュストの言う通りだった。
村人たちの顔は辛い仕事で疲れ果てているようには見えても、活気に満ち溢れているのがウムスカークとはまた違う姿だった。
「まあ、荒仕事を生業としている街ですから、治安はどうしても良くはありませんが、住民たち自らが自警団というものを作り、治安にもそれなりに気を使っているようでした。皇帝のやることがすべて悪いことばかりというわけでもありません」
寂れた路地の片隅で、目つきの鋭そうな、ブリトルで見かけた男たちの中でも一際大柄な男がルセテリを注視しているのが目に入った。
さっき露店があった横丁で、少しの躊躇もなく17万ベラをポンと支払うのを見て、尾行してきていた奴らだった。
大通りで襲いかかるほど肝の据わった連中ではないようで、それなりに空気は読めるのか、容易には近づいてこなかった。
もちろん、襲いかかってきたとしても指を一度弾くだけで吹き飛ばしてやるが。
面倒なのでそのまま放っておいたのだが、オーギュストが近づいてきて警戒の眼差しを向けるや否や、それ以上は近づいてこなかった。
「ふむ、いつから我々を見ていたんだ?」
「ハハ。お気づきでしたか? ローザがそろそろ丸焼きが焼き上がりそうだからお連れしてきてくれと言うので。豚のバラ肉の石窯焼きを売っている場所にいらっしゃるだろうということで、そちらへ向かっている途中だったんです」
さすがはローザだ。
動線をすべて把握していた。




