表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/15

第4話 ベリータルトとアフタヌーンティーセット

ミエリア皇后は慌ててジアを抱きしめ、走り出した。

魔法によるものだと気づいたのはおそらくミエリア一人だろうが。


『ジア、ジアがやったの?』

『あのね、ジアが女神様にお願いしたの。悪い子は罰を受けなきゃいけないって』


ああ、女神様。

ジアは言葉が話せないわけではなかった。

ただ、口を通すのではなく思考を直接伝える方式の『竜言(ドラゴン語)』を使っているだけだった。

かつてはドラゴンだけが使っていた方法だと知られ、現在ではただの伝説扱いされている手法である。

誰も知らないことだが、今は唯一、ルシネリ家に選ばれた娘たちだけが使うことができた。

ミエリアの額に冷や汗がにじんだ。


「一体ここの管理はどうなってるの! 本棚が倒れるなんて! ジェレミア! しっかりしなさい!」


空をつんざくような公爵夫人の鋭い怒鳴り声が遠くから聞こえてきた。

爆発ではなく、おそらく部屋の中にしっかりと固定されていた本棚が倒れた音だったのだろう。


『だから、ジアが魔法を使ったの?』

『ん? まほー?』


何も知らないというように、無邪気なジアの笑顔が片方にこてんと傾いた。

ミエリアはクラクラした。

これはもはや自分一人で抱えきれる問題ではなかった。

どうやら長い間、部屋の隅で埃をかぶっていた通信石が、久しぶりにその役割を果たす時が来たようだ。


高度を上げて空を飛んでいたルセテリは、チラリと下を見下ろした。

今、彼はポリモーフ(人化)を解き、動きやすいドラゴンの本体の姿で飛んでいるところだった。


ペシャワールから首都のリバーフィルまでは、『気球』という風船に乗って直線距離で1、2時間ほどかかると言っていたか。

飛び立ってからそう間もなく、ルセテリの目に巨大な城が一つ入り始めた。

一目で相当な規模だとわかるその城は、城と呼ぶよりは城塞都市と言ってもいいほど巨大だった。


「まったく、人間どもの欲望とは……チッ」


目的地の城に到着したようだ。

城の上で大きく旋回するために体をひるがえした時だった。

北側の城楼に高く翻っている、紋章が刻まれた旗が目に入った。

黒地に金色のドラゴンの紋章。

そしてその周りには、薔薇の蔓が刺繍された家紋。

見慣れた、そして懐かしいその紋章を見たルセテリは空中で一回転すると、その旗が翻っている旗竿に向かって降下していった。


小さな突風が、旗竿が立つ城楼で渦を巻きながら吹き荒れた。

着陸と同時に再びポリモーフをしたルセテリの魔法のせいだった。

再び一つに束ねられた銀青色の長髪をなびかせ、すらりとした美青年の姿に戻ったルセテリは、突風でめちゃくちゃになった城楼を見回した。


「ご無沙汰しておりました、ルセテリ様」


城楼の奥から、黒髪をきちんとまとめ上げた質素なドレス姿の女性と、その女性のドレスの裾をぎゅっと掴んだ、黒曜石のような瞳の赤ちゃんがトコトコと歩み出てきた。


身につけている装飾品の数はかなり少なかったが、漂ってくる品位や気品にルセテリはとても見覚えがあった。

思い出せそうで思い出せない曖昧な感覚に、銀青色のドラゴンの瞳孔が縦に細くなった。


「ミエリア・イル・アルメニアでございます」


あ、思い出せそう、か、も?


「ミエリア・イルミネティ・ルシネリ……と言えば思い出していただけるでしょうか」


クスクスと笑いを隠しながら再度自己紹介されて、ようやくルセテリは自身のハッチリング時代を共にした古い友人のことを思い出すことができた。


「ミエ!?」

「はい、ルセテリ様。ミエです。本当にお久しぶりです。こんなにも立派に成長されたお姿を拝見できて感無量です」


久しぶりに会う友人の前で聞く褒め言葉は、この上なく照れくさかった。

そういえば、ミエリアは確かアメリア帝国へ嫁ぐと聞いていたような気がするが……?

ああ、忘れていた。

あの時「行かないで」と泣き喚いて駄々をこねた黒歴史をすべて忘れようとしたせいで、最初にソラレティから『帝国皇女を誘拐してこい』と言われた時も、すぐにピンとこなかったのだ。すべて自分のせいだった。


「本当に誘拐してこいって話じゃなかったんだな」

「誘拐、ですか?」

「いや、こっちの話。気にしないで」


決まり悪くなったルセテリは、後頭部をポリポリと掻きながら照れ隠しをした。


『どらごん?』


久しぶりにダイレクトに頭の中に突き刺さってくる竜言に驚いたルセテリは、その時ようやくママのドレスの裾を強く握りしめ、目をウルウルさせて自分を見上げている可愛い生き物が目に入った。


『だぁれ?』

『ジア、挨拶しなさいね?』

『うん。ジア・イル・アルメニアれしゅ、どらごん様』


あらやだ、何この可愛い生き物!


恥ずかしさでマシュマロのようなふっくらとした頬を赤くして、ママのスカートの後ろに隠れる姿は、まるで可愛いハムスターのようだった。


『僕は、ママの友達のドラゴンで、ルセテリって言うんだよ』

『る……せてりぃ?』

『ママは僕のこと「ルッシー様」って呼んでたけど、お嬢様は何て呼びたいかな?』

『うーん、ろっ様?』


ああもう、あのぽっちゃりとして柔らかそうな頬っぺたを一度でいいから指でツンと突っついてみたい!

無邪気なジアの顔に、ルセテリは思わず口が耳まで裂けるほどデレデレになってしまった。

自然と柔らかい頬に向かって伸びていく手を抑えるのは、容易なことではなかった。


『ジアお嬢様は今年でおいくつになるのかな?』

『えっとね、よんしゃい?』


ぽっちゃりとした指を一本ずつ折り曲げて数えながら答える姿は、ぎゅっと抱きしめて噛み付いてしまいたいほどだった。

いや、本当に噛み付いたら大惨事だが。


「ロッシー様、遠い道のりでお疲れでしょうから、お茶菓子でもいかがですか? ロッシー様がお好きなベリータルトを焼いてみたのですが」


ベリータルトという言葉にルセテリの耳がピクッと動き、ミエリアへと向いた。

ルセテリがまだハッチリングだった頃、ミエリアが焼いてくれるお菓子は本当に格別の味だった。

特にベリータルトは、サクサクのパイ生地の中に3種類の甘いベリーを混ぜて作ったコンポートをたっぷりと詰めて焼き上げるもので、一口サクッと噛めば甘酸っぱいベリーの香りが口いっぱいに広がるのが……ああ、考えただけでもよだれが出そうだ。


「あ、あの、ブルーベリーとストロベリーと、ラズベリーで?」

「はい、その組み合わせが一番お好きでしたよね」


ミエリアがルセテリに向かってニコリと笑った。

さすがルセテリのすべてを知り尽くしている彼女らしかった。


「それじゃあ、お茶は……?」

「ベリーが主役ですから、チェリーブロッサムのようなフレーバーティーはいかがですか?」


ああ、完璧だ!


いつの間にかジアの手をモミモミしていたルセテリは、ひょいっとジアを抱き上げた。


「午後のティータイムにはもってこいだ」

「ふふっ、そうおっしゃると思いました」

「他には?」

「プレーンスコーンとダブルクリームも用意してあります。もし他に召し上がりたいものがありますか? 簡単なハムチーズサンドイッチもありますよ」

「うんうん、いいぞいいぞ」


ペシャワール港で目当てにしていたブイヤベースは結局食べられず、追われるようにリバーフィルへ来なければならず気分が落ち込んでいたルセテリだったが、ミエリア皇妃がお手製で作った特製ベリータルトが添えられたアフタヌーンティーという言葉に、急激に機嫌が良くなった。

ニコニコ顔になったルセテリはジアを抱いたまま、ミエリアの後に続いて城塞の中へと足を踏み入れた。


『ジアもママがやいてくれるおかっち、しゅき』

『おお、そうだろう。ママが焼いてくれるのが一番美味しいよな?』

『うん。ここのお城のコックちゃんも、ママみたいにおいちく作れないの』


そりゃそうさ。この私、ルセテリ。自称・美食家ドラゴンの舌が認めた腕前だからね。それはそうと……。


「あれ? 竜言?」


タルトとジアの可愛さにすっかり夢中になっていたせいで、重要な事実に今更ながら気づいた。

今、ジアは口に出して言葉を話しているわけではなかった。ドラゴンである自分にしか聞き取れない竜言を使って、直接脳を通じて思考を伝えてきているのだ。


「ええ。すべてのルシネリ家の娘たちと同じように」


コトッ。


ティーカップを下ろす音が、その持ち主に似て暖かくパチパチと燃える暖炉がある部屋に響いた。

静かな北宮にある皇后の部屋は、その名に似合わず質素そのものだった。

大半の貴族、特に帝国の貴族たちは黄金を好むため、黄金で部屋を飾り立てるのが好きだと聞いていたが、それとは正反対に、皇后の部屋にはいくつかの絵画や陶磁器があるだけだった。


「約束が違うじゃないか。あの野郎、俺に『君に苦労はさせない』って、ソラレティ様と俺の目の前で血の誓約までして連れて行ったくせに、こんな扱いか?」


ミエリア皇后は赤色と紫色が絶妙に調和したパイを切り分け、ルセテリに手渡した。

フォークでよく焼けたパイをザクッと刺し、一口でバクバクと食べながら、ルセテリはミエリアに向かってあらゆる不満をぶちまけた。

パイ生地はサクサクで、アーモンドパウダーが混ざり香ばしく豊かなバターの風味が広がり、絶妙な配合で混ぜ合わされた3種類のベリーのコンポートは、甘くも酸味があり、パイの隙間に染み込んで風味を増していた。

そこへさらに、爽やかなチェリーの香りがたっぷり詰まった紅茶を一口。


くぅっ、この味だよ!


ルセテリの皮肉にも気にも留めず、ミエリアはただニコリと意味深な微笑みを浮かべたまま、ティーカップをいじっていた。


「だいたいさ、俺があんなに駄目だと言ったのに、ソル様ったら~!」


『ソルたま??』


ルセテリの膝の上に座り、大人しく彼が食べさせてくれるパイをモグモグと食べていたジアが、じっとルセテリを見上げた。

【タイトル変更のお知らせ】


いつも応援してくださる読者の皆様、ありがとうございます!

この度、物語の雰囲気をもっと伝えるために、タイトルをリニューアルすることにしました。


新タイトル:『幼い皇女様と最強ドラゴンのドタバタ食べ歩き旅』


これからもジアと最強シッターの愉快な旅は続いていきます!

内容はそのままで、より楽しく読めるよう頑張って執筆していきますので、これからも応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ