第29話 水面下の工作
「私をあまりにもクズ扱いしすぎじゃありませんか。いくらなんでも、姪っ子みたいな年齢の子供にそんな酷いことできませんよ。問題というか、伯爵がむしろそんな私を『なぜ理解できないのだ』とばかりに追い詰めてくるから……」
なんだか皇帝の言葉の端々に感じられる空白の間に、何かあったみたいだが?
「伯爵が言うには……」
ちらりと皇帝がミエリアに向かって目配せすると、それが合図だったのか、ミエリアがジアの両耳を手でぎゅっと塞いだ。
そうやって塞いだところで、聞こえるものは全部聞こえそうだが……。ルセテリはそっと防音魔法を彼女の手に掛けてやった。
間違いなく、ジアが聞いて良い話ではないことが目に見えていたからだ。
「女とは昔から若ければ若いほど生産能力が優れているのだから、少なくとも皇室に皇子の一人くらいはいなければならないのではないか、と。側室が嫌なら、自分の娘を連れて行き、皇子生産に力を注いでも構わないと言って、私を責め立てるのですよ」
いや、どこぞの種馬生産の現場じゃあるまいし、女は農場の家畜じゃないんだぞ。
まだ顔も見たことのない伯爵の末娘が可哀想になった。
「わざと令嬢を前にして言う言葉が、『女の美徳とは昔から立派に子供を生産することであり、特に息子を産むことこそが最高の花嫁候補だ』と何度も強調するのです。正妻になろうが妾になろうが、ただ息子さえ産めばいいという風に言うのですが、伯爵家で令嬢がどんな扱いを受けているか目に見えるようで、なんだか令嬢が不憫に見えましたよ」
それ、あの伯爵が皇后と自分の末娘に当てつけて戯言をほざいているだけじゃないか。
自分の末娘には「妾の子なのだから当然貴族に売られて息子を産む道具になれ」という意味であり、ミエリアには「皇子を生産できなかった皇后には皇后の資格がないから降りろ」という言葉に聞こえた。
「しきりに自分の娘を皇宮に置いていこうとするのを、無理やり伯爵家に送り返しはしましたが、今後伯爵家がどう出てくるか分かりませんね」
少し席を外すと言ったきり、しばらく戻ってくる気配を見せない伯爵の魂胆に気づいた皇帝が、慌てて馬車を手配し、すぐに令嬢を伯爵邸に送り返していなければ、本当に大変なことになるところだった。
「幼い令嬢に手を出した」と皇帝は皇帝で追及されるだろうし、令嬢は令嬢で純潔に傷がついたも同然になるのだから、もし少しでも対応が遅れていれば罠にガチャンと引っかかっていたことだろう。
当時頭をよぎった多くの考えを思い出すだけでも、皇帝は背中から冷や汗が滝のように流れ落ちた。
優しく笑っているように見えても、無言で自分を見つめながらゾッとするような笑みを浮かべるであろうミエリアから、どんな雷が落ちるか分からない世界の守護者であるドラゴンまで。
とても皇帝が一人で耐え切れる重さではなかった。
「その上、今日の会議ではジェレミア・アウレリア公息とジアの婚約の話が再び持ち出されたりもしました」
ジアの話が出た途端、ルセテリの目つきが鋭くなった。
重い空気がのしかかるように、部屋の中が息苦しくなった。
ジアの誕生宴を控え、皇帝とジアの双方に対する圧力がさらに強まっているようだった。
どうやら、
「近いうちに、間違いなく何かが起こりそうだな」
「推測するに、奴らの決行の日(D-day)はそう遠くないように見えました。だからといって、今何か行動を起こすには状況が曖昧ですし」
皇帝の言う通りだった。
ただ皇帝の……




