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第21話 女神の涙

やっぱりな。

あの強欲な公爵家がそれを放っておくはずがない。


やはり、出番がないと寂しいアウレリア公爵家に関するニュースだった。

こうなると、公爵がわざと皇帝にネックレスの代金を支払わせないよう妨害し、競売に流したのではないかと想像してみるのも無理はないが……。チラリと、ルセテリはロアンの顔色をうかがった。

まだ隠している話がありそうだった。


「巷の噂によると、わざと代金を支払わせないようにして競売に流し、横取りしようとする魂胆ではないかって話ですよ」


噂じゃなくて、どう見ても事実みたいだけど?


大きく一口モグモグと噛み、巨大だったパンケーキを瞬殺してしまったルセテリは、優雅にナプキンで口の周りを拭きながら、ロアンに向かって切実な眼差しを送り、ガシッと彼女の手を握った。


「ロアン。ロアンなら、競売場のチケットくらい簡単に手に入れられますよね?」

「まあ、それくらい寝転がってポップコーンを食べるくらい簡単なことですよ。ふふっ」


明らかに何か企んでいる様子の二人は、互いの手をギュッと握り合ったまま、腹黒い笑みを漏らしていた。


『ロッ様、また何か悪いことしようとしてるでしょ?』


ジアの鋭い指摘に、ルセテリはビクッと体を震わせた。

ルセテリは気づいていなかったが、ジアの目には、腹黒い魂胆を持つ二人の黒い陰謀がプンプンと漂って見えていた。


『違う違う、これはその、正義を実現するための大義みたいなものというか?』


必死に強張った顔をほぐそうとルセテリはニッコリ笑ったが、その姿はより一層腹黒い本心を隠した悪党のように見えた。


『悪いことするって言ってるようなもんじゃん』

『時には正義のために、悪いことも必要なのさ』

『ただロッ様が公爵をやっつけたいだけじゃないの?』


やはりジアの鋭い質問は、ルセテリであっても避けられなかった。

おそらくソラレティ様を除けば、ルセテリの本心を最も見破ることができる人間はジアではないだろうか。


『目には目を、歯には歯を、という言葉があってだな』

『どこの国のことわざ?』

『うむ、遠い東の国にある話さ。やられた分だけやり返さなきゃいけないってことだよ』


なんだか、ものすごく疑わしそうな目つきで見られているような……?


案の定、ジアは目を細めてルセテリを見つめていた。

いや、私はただ、ミエリアがプレゼントをもらえなくなるのが嫌だっただけなのに〜。


「それで皇帝陛下は? 噂くらいは耳に入っているはずでしょうに」

「侍従長のお話では、その噂に相当ご機嫌を損ねていらっしゃったそうですよ?」

「もしかして、プライドを傷つけられて物を投げつけたりとか?」

「その通りです。よくお分かりですね? 重要な書類が少し破れたりシワになったりして、書き直すのに苦労したと愚痴をこぼしておいででしたよ。ペンも何本か折れて、新しいものをお持ちしたとか」


いや、私が皇帝だったとしても、そんな噂を聞けば頭にくるだろう。

少なくとも、出来損ないののろまと呼ばれるような人物ではないのだから、公爵の行動に腹を立てるのは当然のことだった。

アウレリア公爵が皇帝をあまりにも甘く見ているのが本当に情けないことこの上ないが、いくらなんでも舐めすぎじゃないか?


「で、その競売はいつ開かれるんですか?」

「二週間後の『水の日』が競売の日だと聞きました」


二週間後の水の日か……オッケー、了解。


企みでいっぱいのルセテリの表情に、ジアがやれやれと首を横に振った。


ご存知の通り、ドラゴンというのはちょっとばかり金持ちでね。

私は大金持ちなんだ。

その程度の小銭をミエリアのために使ったところで、チリほどの痛手にもならないってわけさ。


ふふふ。


腹黒い笑いが、ルセテリの唇をこじ開けてこぼれ出た。


「もしかして、落札額とまではいかなくても、ロアンなら大体の予想価格を調べてくるくらいは難しくないですよね?」

「うーん、大体一億二千万ベラからスタートするって話は聞きましたよ」


期待を裏切らないロアンだった。

すぐに答えが返ってくるあたり、ロアンが知らないことなどこの帝国にはないのではないだろうか?


10カラットのブルーダイヤモンドにしては非常に低い価格だったが、間違いなくこれも公爵の計略に違いない。

分際で強欲なものだから、二束三文で手に入れたいのだろう。


「でも、競売場の招待状を手に入れてどうするんですか? ルティア様が直接行かれるおつもりですか?」


一介のベビーシッターに過ぎないルセテリが、公爵が運営する競売場に出入りして目立ったら困るのではないかと、心配そうな表情でロアンが恐る恐る尋ねてきた。

ロアンの心配は全くの的外れというわけではなかったが、当然ルセテリは今のようなルティアの姿のまま競売場に行くつもりはなかった。


「誰が私が競売に参加すると言いました?」

「えっ、私もダメですよ!」


もしかして自分に代わりに参加しろと言われるのではないかと、早合点して怯えたロアンが一生懸命手を振って否定した。

まだ頼んでもいないのに、勝手に怯えてとった行動のようだった。


「心配しないでください、ロアン。ロアンに参加しろなんて言いませんから。ロアンはただ招待状だけ手に入れてくれればいいんです」


ロアンはルセテリが何を企んでいるのか、とても気になっているような表情だった。

目をキラキラと輝かせてルセテリと真っ直ぐに目を合わせていたが、ルセテリには教える気など爪の垢ほどもなかった。

ロアンを信用していないからではなく、万が一計画が失敗した場合を考えると、知らないでいる方がはるかにマシだったからだ。


ロアンの良いところは、まさに自分が知ってもいいことと、無駄な好奇心を持つべきではないことを、機転を利かせて把握している点だった。

まさに今のように。


「ちぇっ、招待状はすぐに手に入れてきますよ」


気のせいか? なんだか今、残念そうに舌打ちする音が聞こえたような気がするんだけど??


顔を上げて再びロアンの顔を観察してみたが、いつものロアンの姿そのままだった。


『ロッ様、神経過敏だよ』

『そ、そうだよな?』


ティーカップを持ったルセテリは、まだ釈然としないのか妙な表情をしていたが、ジアは知っていた。

ジアもやはり、小さいが確実に舌打ちする音を聞いていた。

目を上げてロアンの顔をうかがった時には、すでに一瞬にしてそんな痕跡すら残っていないほど平然としていたが、ジアの目と耳はそれより少しだけ早かった。


確かに、この子も普通じゃないってことだ。


やれやれと首を横に振りながら、ジアはテーブルの上に置いていた本に向かって再び手を伸ばした。


ロアンは本当に万能であることに違いなかった。

数日後、ルセテリの手には本当に競売場の招待状が握られていた。

ロアンは、自分が招待状を渡した事実も、そして競売に参加する人物がルティアである事実も、絶対にバレてはいけないと、念には念を入れて口止めをした。

その姿はまるで、決定的な証拠を手に入れたスパイが内部の協力者に物を引き渡すかのように隠密だった。


「ロアン?」

「シーッ! ここではお互い知らない人って設定です」


いや、設定も何も、ここは北宮にあるジアの幼児部屋なんだが?

ちょうど本宮のジアの部屋に持っていく荷物を整理するためにロアンと一緒に来たというのに、あえてここで?

ルセテリは呆れてロアンの顔をじっと見つめた。

人差し指を唇に当てながら片目をウインクする様子は、どうやらスパイごっこにすっかり心酔しているようだ。

さらに、ドアの外に出ようとしたロアンは、ドアの前でピタッと立ち止まると、再び振り返り、何事もなかったかのような平然とした顔でルセテリのそばに近づいてきた。


「うーん、じゃあ早く荷物をまとめて帰りましょう。ジア皇女様がお待ちかねですよ」


最後までロアンらしかったというか。


競売場の入り口に立っている筋肉の塊のような警備兵たちに招待状を提示すると、何の制止もなくルセテリをあっさりと中へ入れてくれた。

おそらく、彼らの目にルセテリは、ただの温室育ちで金持ちの貴族の若造くらいに映っているのだろう。

久しぶりにルセテリはルティアという女性型から抜け出し、せっかくなので男性型にポリモーフ(変身)した状態だったため、とても爽快な気分だった。

いや、ふくよかな中年女性に変身して生活するのも、密かにストレスなんだから。


光にきらめく長い銀髪に、深く澄んだ青い目。

繊細に編まれたレースがあしらわれた最高級シルクのフリルと、金糸と銀糸でほのかに刺繍が施された藍色のフロックコート。

すれ違う誰もが振り返るほどの美貌を持つ、すらりとしたどこかの貴族の令息に見える男。

まさにそれが、ルセテリがポリモーフした姿だった。


ルティアの姿だった時とは違い、満足度最高の外見にすっかりご満悦な気分で周囲の視線を満喫しながら、入り口で受け取った札と一致する番号の椅子に座った。


競売場のあちこちに入ってくる人々は、ざっと見渡しても皆、公爵家側の人間ばかりで次々と席が埋まりつつあった。

公爵が仕組んだ台本通りに競売が動くはずだから、くれぐれも気をつけるようにというロアンの忠告が頭に浮かんだ。


まあ、そうだろうな。

自分が仕組んだ舞台に部外者が割り込んで台無しにしてしまえば、公爵の気分はどうなるだろうか。


ふふふ。


ルセテリは自然と笑みがこぼれた。

丹精込めて仕組んだ盤面を、部外者が割り込んでめちゃくちゃにしてしまったらどうなるだろう?

想像するだけでもゾクゾクした。

あのアウレリア公爵に強烈なカウンターを食らわせることができるチャンスがあるのに、見過ごすなんてあり得ない。

それに、ネックレスだけのはずがない。

間違いなく、こんな風にして皇室が手にするべき品々を裏で横領したものだけでも、かなりの数になるはずだ。


その中の一つくらい、どうってことないだろ?

それでミエリアも幸せになって、おまけに皇帝も喜ぶならそれで十分だ。

ああ、ついでにレア(巣)に飾るのに良さそうな物があれば、この機会にいくつか買っておくとするか。


満足げな表情で、ルセテリは競売の始まりを待った。

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