第146話 口の悪いおばあさんは真理
[いや、美味しいなら美味しいでいいですけど、不思議と美味しい匂いって一体何なんですか?]
聞いていたベッツィーでさえ呆れたのか、あからさまにルセテリに向かって不平を漏らした。
すでに二次会へ行く気満々のルセテリを止める気はなかったが、理解できないものはできないのだ。
しかしルセテリは、二人の呆れた様子を背に、匂いの跡をフンフンと嗅ぎながら歩き始めた。
「こっちから匂いがする……」
無意識に引き寄せられるように入り込んだ路地には、どこの食堂も訪れた客たちでごった返していた。
そしてその客たちの大半は、よそ者ではなく地元民で人だかりをなしていた。
「親父、こっちに魚のカレー一つ!」
「ポリチャットゥも! あ、アッパムはたっぷり持ってくるの忘れないでくれよ!」
「ええい、このクソッタレどもが。面倒くさいこと言わずにとっとと食って目の前から消え失せな!」
「ハハハ。また言ってる。うちのばあさん、あの言葉聞かないと寂しくて毎日来るんじゃないか」
「狂った奴らめ。そんなに文句(悪口)を山ほど食いたいのかい?」
「その通り、その通り。俺もこのガミガミ言う小言が聞きたくて毎日来るんだから」
悪口が飛び交っているにもかかわらず、店の中はワイワイと和気あいあいとした雰囲気がかなり温かく見えた。
「この店、名店で間違いないみたいだな」
「えっ? ここがですか?」
ジアは目を瞬かせた。
かなり混み合っている食堂だというのは分かるが、名店だなんて……。
一体何の根拠があってルセテリが確信を持っているのか、ジアには全く理解できなかった。
「どうしてですか?」
「パッと見ればピンとくるだろ? 分からないか?」
分かれば、聞きますか?
何の話をしているのかというように、呆れた表情のジアはルセテリをじっと見つめた。
パッと見はただの不親切な食堂だった。
客に悪口を浴びせる従業員だなんて……これまで一度も見たことがなかった。
そうか、ジアにはまだか。
ルセテリは頭を掻きながら腰をかがめ、ジアの耳に口を近づけた。
「こういう所が本物(찐)なんだよ。見てみろ。食堂の中の客たちが気分悪そうな顔をしてるか?」
そこで初めて、ジアは食堂の中を埋め尽くした客たちの表情を一つ一つ観察し始めた。
ルセテリの言う通り、従業員の悪口を聞いても気を悪くしている客は一人もいなかった。
むしろニコニコと笑顔さえ見せながら、悪口を楽しんでいるようにさえ見えた。
「この人たち、みんなマゾヒストなんですか?」
「何だって?? マゾヒスト???」
ヒソヒソと聞こえるか聞こえないかくらいの声で耳元に囁いたジアの一言は、まさにルセテリを爆笑させるのに十分な一言だった。
いや、それより……。
一体マゾヒストなんて言葉、どこで覚えたんだ?
かろうじて吹き出しそうになる笑いをギュッとこらえながら、ルセテリはもしかして聞いている人がいないか周囲を慎重にうかがった。
特別何か言ったからといって大事になるわけではなかったが、こんな所で無駄な喧嘩でも売られて追い出されるのだけはご免だった。
こんな名店が道端に一つ二つあるほどありふれているとでも思っているのか。
「こらこら、どこでそんなとんでもない言葉を……」
「いや、そうじゃないですか。そうじゃなければ、どうして悪口言われてるのにあんなに嬉しそうな顔をしてるんですか……?」
いや、それはそうだけど……。
ルセテリはああ見えてもまだ幼いジアのために、どこからどう説明すればいいのか途方に暮れた。
「このクソッタレどもは、なんでさっきから入り口塞いでグズグズしてんだ! 来たならとっとと席に座らなきゃならないだろうが!」
案の定、口の悪い従業員の悪口が二人に向かって飛んできた。
雷のような怒鳴り声に、ルセテリとジアはビクビクしながら従業員の顔色をうかがい、こそこそと空いている席に向かって歩を進めた。
人々の間をかき分けて入った場所は、二人が座れるか座れないかというほど狭い空間で、二人がかろうじてお尻を乗せて座れるほど窮屈だった。
隣の人の肩が動くたびに毎回ぶつかるほど狭かったが、食堂の中の客たちは気にも留めない様子で笑って騒ぎ、この状況を楽しんでいるようだった。
「あんたたち、ここは初めてみたいだな?」
「アハハ。はい。初めてです」
隣に座った男が素早くジアとルセテリの服装を上から下まで見定め、プッと吹き出した。
「こういう所に来るような方々には見えないがね?」
その言葉を聞いて気分がスッと悪くなりそうになった瞬間、さっきのあの口の悪い従業員がヌッと現れるなり、まだ注文もしていないのに器をドンッと置いた。
「あの、まだ頼んでもいないんですが……」
「うちの店はこれ一つしかないんだから、黙って食いな」
有無を言わさず出される食事のセッティングに、二人はポカンと口を開けた。
皿に盛られた白くて丸いふかふかのパン、テランカナでよく見かけたターメリックたっぷりのオレンジ色のカレーではなく薄いみかん色のカレー、スパイスをたっぷりまぶしてバナナの葉で包んで蒸し焼きにしたような魚。
なぜかあっさりとしつつも食欲をそそる匂いに、口の中によだれがいっぱいに広がる。
「口答えしてる暇があったら、さっさと食いな。無駄に喧嘩売ってないで」
従業員はルセテリではなく、その隣に座った男にお玉を振り回して怒った。
口がかなり悪い従業員は、歳月の痕跡がたっぷりと刻まれた白髪混じりの髪に深く刻まれたシワ、ずんぐりとした体格から出るエネルギーとは思えない強烈なパワーで食堂の中を牛耳っていた。
「ああ見えても小汚く見えても、この区域にビルを何棟も持っていらっしゃるビルオーナーの社長さんなんだよ」
向かいに座って食事をしていた男が、ルセテリがそのおばあさん従業員を注意深く観察しているのを感じ取ったようだった。
せっせと白いパンをカレーにつけて食べながら、親切にこの店について説明してくれた。
「見たところ少し小金を持った新興貴族くらいになりそうだが、こういう食堂は初めてみたいだな?」
金持ちの新興貴族。
そこでようやく、やけに隣の男がトゲトゲしく喧嘩腰の口調だったのが、一瞬にして理解できた。
テランカナではカイランと一緒に出歩いていたせいか、服装などに特別気を使わなくても何の問題もなかったが、ここはジャイプルだ。
どう見ても労働者たちが来てご飯を食べる一般の食堂に、目立つ外見の二人が座っているには不自然な感じがなくはなかった。
おまけに服装も地味とは程遠い、一目で高級な生地で仕立てられた服だった。
うーん、雰囲気と全然合ってないのは確かだな。
「港の入り口で荷車でパニプリを売っている主人が、この店に絶対行ってみろと勧めてくれたんですよ」
「あ、あの無愛想なプリさんかい?」
無愛想……だったか?
ルセテリは首を傾げた。
少なくとも彼が感じるには無愛想とまではいかず、少し不親切なだけだったのに。
[400ベラも取って今日の商売を一発で終わらせたんだから、それで不親切だったらそれは商人じゃないですよ]
ルセテリが何を考えているのかすべてお見通しだというように、ジアは竜言で伝えてきた。
確かに、見たところ今日店を開けるなり最初の客であるルセテリが完売させてやったのだから、いくら不親切で悪名高くても売り上げの前では親切にならざるを得ないということか。
「はい、その方が売っているパニプリというのが美味しかったあまり、少し多めに買って差し上げたんですよ」
「はあ、はした金にもならないおやつを一体どれだけ買ったっていうんだい、あのケチな野郎が蜜壺(とっておきの場所)みたいな所を教えてくれたなんて」
男はチッチッと舌打ちをしながら、パンにカレーをたっぷりと浸して一口でゴクンと飲み込んだ。
その姿があまりにも美味しそうに見えて、見つめていたルセテリは自分でも気づかないうちにゴクリと唾を飲み込んだ。
「食わないのかい?」
視線を感じたのか、パンを口に運んでいた男は、ポカンと口を開けて自分を見つめているルセテリと目が合った。
「あ……いや。えっと……」
悪いことをして見つかった子供のようにバツが悪くなったルセテリは、無駄に指で頬を掻きながら目の前に置かれた皿を見つめた。
お盆の上にぎっしりと盛られた構成を見て、これは一体何の材料を使って作った料理なのか好奇心が湧いてきた。
誰もがガツガツと自分の前に置かれた皿を空けるのに忙しそうに見え、かといってさっきのあの口の悪いおばあさんに聞いてみようかとも思ったが、皿を運んだり片付けたりするのに忙しそうで、話しかけでもしようものなら悪口が山ほど飛んできそうで、とても声をかける勇気が出なかった。
そうしてしばらく穴が開くほど目の前に置かれた器と睨めっこをしていると、誰かがルセテリの後頭部を強く引っぱたきながら悪口を浴びせた。
「目の前に飯置いてお供えでもしてんのか、さっさと食えねえのか? 飯がすっかり冷めちまうだろ」
口の悪いおばあさんの、小気味良い(찰진)悪口だった。
ドラゴンの面子にかけて怒ってもよさそうなものだが、ジンジンと痛む後頭部を撫でながら、へへへと笑みを浮かべた。
「すみません。これはどんな料理なんですか?」
昔から女はイケメン(イケメンの美男)の前では親切なものだ。
ルセテリはこの口の悪いおばあさんにもハニートラップ(美男計)が通じるだろうと考え、そっと流れ落ちた前髪をかき上げた。
[……ご飯が不味くなる(食欲失せる)。]
その姿を見せられなければならなかったジアの顔は、嫌悪で歪んだ。
「出された通りに食ってりゃいいものを、何で質問が多いんだ」
うむ、やっぱりそう来ると思った。
伊達に口の悪いおばあさんって呼ばれてるわけじゃないからな。
「一度しか言わないからよく聞きな。ここにある、この丸くて平べったいのはアッパムというパンだ。米粉にココナッツミルクを入れてこねたパンだよ。これをここの魚のカレーにつけて食うか、それともこのポリチャットゥっていうガラムマサラを塗ってココナッツミルクに入れて煮込んだやつを包んで食うかはあんたの勝手だ。好きに食いな」
口調は非常に不親切そのものだったが、それでも一つ一つ分かりやすく説明してくれるのは、さすがベテランだった。
「ほう、この異国的な匂いがココナッツミルク……」
ルセテリはアッパムというパンを手に取り、二つのうちどちらから始めようかと期待に満ちた眼差しで皿を満足げに見つめた。
そしてその姿を、ルセテリは気づいていないようだったが、食堂の片隅、人の目の届かない薄暗い隅っこで。
注意深くルセテリの方を見つめながら光を放っている二つの瞳があった。




