表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/46

第44話 3つの聖具

♪ポエット(現在)♪


 アダージョさんが息をしていない。エメラルドプリンセスというのは体に負担をかけるものだったんだ! 洪水を止めるために、変身したんだから……。無理をしていたんだ。


 ああ、全部、本当だったんだ! 死神の予告、予言書の内容、そして、僕の夢。すべてが、今この時、この運命を示唆していた。アダージョさんが死んでしまうってことに。


 アダージョさんは脱力していた。侍医はライトを目に当てると、力無く首を横に振った。


「嫌だ! そんなの絶対に嫌だっ!」


「運命なんだ。諦めろ!」とグロウルが肩をやさしく叩く。


「何だとお前!」


 胸ぐらを掴むが、彼自身も、涙目になっているのをみて、力なく座り込んだ。


 ああ! こうなることは、わかっていたのに! わかっていたのに!


「予言書通りだな」


「わかっているよ。そんなこと! 予言書通り、うさぎといぬと竜が声を合わせて奇跡が起きた! おそらく、これから、闇の時代は終え光の時代になることだろう! そこまではいい! 竜が冥の国を越えてしまったんだ!」


「その続きは?」とグロウル。


「三つの聖なる響具は、奇跡を呼ぶ」


「そいつは、まだ、起きていない。なんか、響具に心当たりはあるか?」


「そんな都合のいいものあるわけが……」


 堤防に浮かび上がるミラーコードを見つめる。響素を逆流させる道具だ。


 水位を下げる役割はすでに終えている。ヒビが入っているな。


 さすがに酷使しすぎたか……。いつ、壊れても不思議ではない。


「もしも、死後の世界へと響素が流れていて、それを逆流させることができたら……」


「死後の世界なんて、どうやってアクセスするんだ」


「だよね……」


「でも、考える筋はいいかもしれない。異世界宗教が、最近、実体化してるんだろ? アダージョさんは何教を信仰していたんだ?」


「まあ、異世界の宗教だから、入信の儀式受ける機会はないだろうけど……。でも、お寺で鬼子母神見て、涙を流してたよね」


「なるほどな。仏教、日本式か。日本の仏教の死後の世界はどんなもんだ?」


「確か大乗仏教のはずだから、極楽浄土のはず」


「死後の世界と繋ぐ方法はないか?」


「それはお盆っていう儀式があるんだよ。盂蘭盆経っていう5世紀に中国で成立した……あっ!」


「どうした?」


「ダンシングラジオ! AM盂蘭盆会がある!」


 虚空から片付けたはずのアイテムを取り出し、そしてチャンネルを合わせる。


『ダンス中継は只今中断して、うさぎ王国のニュースをお送りします。本日は、三途の川スタジオからお送りします』


 その言葉に僕はグロウルと思わず顔を見合わせた。


「三途の川はこの世とあの世を繋ぐ川! ラジオは響波から受信している! この流れをミラーコードで逆流できるとしたらっ!」


 僕はグロウルとグータッチする。


 兵士に囲まれて喝采を浴びている兄を呼びにいく。


「ソネット兄さん! もう一度、三重唱を! お願い!」


「む? 川の氾濫はおさまっているが……」


「違うんだ! 今度は、大事な人を取り戻したい!」


「よく分からんがわかった。その竜族の娘の代わりのソプラノパートを歌えばいいのだな。カウンターテナーは少し学んでいた時期はある」


 即席の三重唱を僕たちは奏でる。しばらくすると、ラジオの音がしなくなった。これは、もしかして……。


「響波が逆流していると見ていい」とグロウル。


「だけど、逆流させるだけでは、死人の魂を呼ぶことは……」


「カムカムメガホン、まだ、持っているか?」


「そうか!」


 グロウルに言われて気が付く。そんなことも、気が付かなかったなんて!


 僕はメガホンを持って叫んだ!


「アダージョさーん!」


 どうだ……。反応はないが……。


「ちょっと、貸しな」


 グロウルがメガホンを横取りする。


「どうしたの?」


「アレグロー!」


 予想外の名前を叫ぶ。グロウルのやつ。アダージョさんを助けたいんじゃないのか?


 いったい、何を考えてるんだ、こいつ。


 叫ぶだけ叫ぶとどっか行っちゃったし。


♪右殺義(現在)♪


 俺はかつて殺し屋だった。死神になるとは因果なものだ。


 命を殺める稼業に嫌気が差した俺は、気晴らしに落語って話芸を聞きに行っていた。


 演目は「死神」。グリム童話だとかいう異なる文化圏から取り入れた話の翻案だそうだが、今では日本仏教の信仰の一部にも取り入れられているようだ。


 俺は、死んだら死神というやつになってみるのも悪くないと思った。生前も死後も命を奪いにいくのだ。


 元の世界に戻った俺は、死神になる方法を調べ、そして、こうして、無事に稼業にすることができた。


 今日も、六文銭を渡して、三途の川を渡る。


 お客は2つの魂。アレグロとアダージョ。ふたりは泣き叫ぶことなく鎮座していた。


 運命共同体として生きてきたこの2人は死ぬ時も同じだというわけだな。


「もうすぐ、彼岸に着くぜ」


 最後の一漕ぎしようと思った時だった。


「アダージョさーん」


「アレグロー!」


 なに! ポエットとグロウルの声がどうしてこんなところに!


 船が巻き戻されていく! こんなことあるはずが!


 連中、何かをやったらしい。まあいい。執念と愛に免じてミッション失敗にはなるが見逃してやるとするか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うさ耳王子といぬ王子がロックオン!本当は男の僕が二股悪女ムーブしないとみんなの命を救えないなんて
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ