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第41話 心とリズムを一つにして

♪アダージョ(現在)♪


 堤防の前で、絶望の淵に立たされていた。


「ダメだわ! 水位が上がるばかりで止まらない!」


「くそっ! ちゃんと唱えてるのか? 爺さん」と、グロウル。


「無茶言わないでくれ! これでも、必死なんだ!」とセルパンさん。


「頑張っているのに攻めちゃ可哀想だわ」


 すごく、女の子らしい役回りを僕は演じていてほんわか。


 それは、ともかく、事態は深刻だ。打つ手がない。


「おそらく、平均律だから威力が弱いんだ。純正律でいこう。爺さんやったことあるか? 一応、新古典学派なんだろ?」


「私らは本物の古典派ではない。やったことはないが、やってみる」


「頼んだぜ」


 純正律の三重唱を試してみるがやはり少し不協和音になる。


「ダメだ。やっぱり、ポエットのやつでないと。やつは、まだなのか?」


『本棟の2階を登ってる』


 誰かが実況中継してくれているようだ。どうやら間に合いそうにない。


「この国も、僕たちの人生もここでおしまいか」


 グロウルくんが諦めかけたその時だった。


 放送チャイムが間抜けに鳴り響いた。


『王宮の放送は、この私、反乱軍首領のモデュラートがジャックさせてもらった。城内で工作活動している反乱軍所属の全諜報員に告ぐ! 只今、この瞬間より、貴様らの任務を解く。その代わり、新しい任務を与える。今すぐ堤防で、川の氾濫を防ぐために魔法を唱えている3人の伴奏をしろ! 楽器持ってるやつは伴奏し、歌しか無理なやつは手拍子だ! 正規軍の連中も手伝ってくれ! 私からは以上だ!』


 しばしの静寂。その後、人の波が視界に入った。正規軍とも反乱軍とも判別つかない人間がワラワラと集まってきた。


 フェンダー型のエレキギターから、リコーダー、テルミンまで多種多様な楽器。


 何を演奏するか説明する必要がありそう。


「楽器を持っている人はC–G–Am–Fのコード進行を繰り返してください。今の私の説明でわからなかった人は手拍子でいいです。手拍子はバックビート。ズンズンタン休めです! わからない人は周囲に合わせて!」


 説明してみてふと思ったが、これは典型的なポップス音楽のコード進行とリズムだ。民衆が力を合わせるのにもってこいだ。


「説明上手いな、竜族の姐さん。大した胆力だ」


 アレグロに褒められたところで、実践してみる。


 虚空から取り出したタクトを振るう。


 僕たちの声に楽器や手拍子が合わさる。最初はバラバラだった音楽が、徐々に合っていく。


 すごい。音楽ってすごい。王宮全体がグルーブしていた。


 水位を跳ね返せるほどではないが、上昇速度は減退している。


 このまま、うまくいけばいいけど。


 ただただ、祈ることしか僕にはできなかった。


♪アレグロ(現在)♪


 炎や水、雷に草、風に光に闇、数々の魔法が飛び交い熾烈な争いを繰り広げてきたが、どうやら俺様の劣勢のようだ。


 ここまで、快進撃して、無実も晴らしたというのによ。後一歩のところでおしまいなのか?


 悔しいねぇ。時代の変わり目というやつを衆目の前で見せつけてやりたかったんだが。


 逃げるか? いや、今、階段を降りたらポエットに遭遇して戦いになるだろう。


 空を飛んでも逃げてもいいが、他の魔法を同時に唱えられない。攻撃してくださいと言わんばかりの無防備になる。


 腹を決めるか。カウンターソングで一発逆転を狙うことにする。


 逆転狙いなんてのは、作戦としては下の下だ。だが、他の選択肢を封じられている以上は仕方がない。


 俺の人生のフィナーレが来るとするならば、ソネット王なら相手として不足はない。


 トランペットでショートトラックを演奏する。亜空間から、動物を模った自動演奏人形(オートマトン)が4台現れる。乗るか降りるか。


 たぬきがドラムを奏でると、きつねは小指を立ててマイクを持ち「ご希望の対戦ソングは?」と聞く。


「アイーダの凱旋行進曲だ」


 俺の数奇な運命の全てはこの曲からはじまった。この曲でセルパンを挑発したから、俺は投獄された。


 ふふっ。この曲が、俺の墓標を刻むのなら、それも運命だろう。だが、俺は勝ちに行く。 


 その言葉を合図に、オートマトンが即席で前奏を奏で、演奏開始のタイミングを教えてくれる。


 俺は高らかに、凱旋行進曲のファンファーレをトランペットで手短に吹き鳴らす。背筋を張り威風堂々としたムードを盛り上げる。


 演奏は終わった。


 ソネットは無言のまま立ち尽くす。さて、乗るか? 降りるか?


 ソネットは息を吸い込んだ。やったぜ。勝負する気のようだ。


「♪Gloria all’Egitto, ad Iside Che il sacro suol protegge Al Re che il Delta regge Inni festosi alziam」


 荘厳な歌唱が静かに響き渡る。時が止まったようだ。


 こいつは迫力がやべえ。さすが王者の貫禄だな。ここまでの歌唱力とは思わなかったぜ。汗が額に垂れる。


 たぬきがドラムを叩き始める。小鳥がフルートで主旋律を奏でる。


「結果発表!」


 狐が大声で叫び、ウサギは伴奏をする。


「アレグロ! 荘厳なる演奏申し分なし! 生き様と魂の叫びが乗っている 96点!」


 やった! 完璧だ!


「ソネット! 王者としての誇り! 時代の流れの闇を背負う生き様が乗っている! 98点!」


 なにっ!


「双方文句なしの演奏! だが、王として民の運命を背負う迫力が響き僅差となった! 以上!」

 

 その言葉を合図にして稲妻が走った。


 どうやら、俺は死んでしまう。ふふっ。時代に踊らされた愚かな道化の人生の幕引きに相応しい戦いだったではないか。


 激しい痛みと共に意識が遠のいていく。

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うさ耳王子といぬ王子がロックオン!本当は男の僕が二股悪女ムーブしないとみんなの命を救えないなんて
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