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第40話 お兄ちゃんはとてもかわいそうな人だ

♪アダージョ(現在)♪


 ふひー。ポエットくんとキスしちゃった。僕はもう男としておしまいかもしれない。みんなの前で恥ずかしい。


 それはそれとして、重要な任務がある。


「愚かなことはおやめなさい!」


 堤防に魔法をかけている3人組に叫ぶ。


 おそらく、水位を上げる魔法だ。


「嫌なこった! ノアの会の野望はアレグロに暴かれた。この世の終わりだ。もはや、王都、いや、国ごと沈めてやるのよ」


「あなたたちだけが終わったことを皆に拡張しないで!」


 話している隙にグロウルが、マスターファイアーの魔法を投げかけるが、弾き返される。


 妨害が入らないよう事前に入念にバリアを敷いているようだ。


「アダージョさんよ。左右から同時攻撃だ。バリアは、前面と左右の3面を守るようだ。背後はガラ空きだ」


「わかったわ!」


 二手に分かれて同時に炎を放つが、弾き返される。


 しまった! 少し角度が甘かった!


 間一髪で炎を回避する。頬が少し火傷している。


 まいったな。作戦を読まれてしまった以上はなす術がない。


「愚かな抵抗はやめよ! 水が溢れ出るまでそこで見ていればいいんだよ!」


 長期戦になるか? そう思った時だった。


「後ろだ! 気をつけろ!」


「もう遅い!」


 背後に回ったセルパンが、炎を浴びせると3人組は倒れた。


「裏切るのか」


「元からわしは貴様らの仲間ではない」


 襟をセルパンは正した。


「見直したぜ、爺さん」と、グロウルは口笛を吹く。


「これくらいは自分で後始末しないといけない。それより、水位上昇は止まる気配がない!」


 3人組のひとり、どうやら船長という肩書きの人間は高笑いする。


「もはや魔法はかけ終わっているのだ。響素の暴走はもはや止まらない! 異世界宗教のノアの方舟の伝説を再現するのよ!」


「くたばれっ!」


 セルパンはけじめのつもりなのか3人にとどめをさした。


「水位を下げる魔法を! こんなこともあろうかと楽譜を用意していたのよ」


 僕は手早くA4用紙を配る。山に入る前の最後の街で印刷してきたのだ。


 無駄足かなと思っていたけど、意味があって良かった。


「なるほどな。兎、犬、竜の3人が奇跡を起こすみてぇな預言者があったが、兎なんて何も迷わずポエットの野郎のことを指すと思っていた。まさか、こんなおいぼれ爺さんがキーマンなんて思ってもいなかったぜ!」


「早くやりましょ」


 私たち3人は堤防の上に立つ。


 ミラーコードを地面に置いた。すると、光を放ち浮かび上がった。


 マサヒデさんから受け取った響素を逆流させることの最終兵器だ。


 響素の力で水蒸気や露がなどが、本来の量以上に液体化している。ミラーコードで響素の流れを逆流すれば、元通り、気体に戻るはずだ。


 三重唱を開始した。


♪ポエット(現在)


 メディア棟から降りた僕はどこに向かうべきか。


 ソネットお兄ちゃんの場所とアダージョさんたちの場所。細かい情報は追えていないが、おそらく、どちらも緊急度は高い。


『ソネット王なら大丈夫! アレグロをめちゃくちゃボコってるとこだよ!』


『ノアの会は大丈夫! やっつけたから! 3人とも水位上昇を防いでいるところ』


 機械音声助かる。きっと、各カメラが配信されているのだろう。

 

 王宮本棟に向かって僕は走った。アレグロがやられてるってことは、お兄ちゃんが正気を失っているということでもある!


『やっぱりダメだ! 水位が上がってる!』


『王都の人たち、早く逃げてー!』


 こんな中、本棟に向かっていいのだろうか。僕はお兄ちゃんを救いたいけど、国も救いたいっ!


 ええい! あちこちを気にしながらの中途半端なマルチタスクがいちばん能率が悪いんじゃないか! 最善手で、お兄ちゃんを救ってから、王都を救う!


 一個ずつ順番に解決するんだ。シングルタスクにするんだ。それこそが、王家のマネジメント術!


 走っていると何かがガチャガチャと金属音がする。なんだ? あ、そうか、オルゴール持ってたんだっけ。


 マサヒデが送ってきたやつだ。ネットワーク不調で最後まで再生できなかったやつだっけ。


 今なら、復旧しているから、再生できるはずだ。


 本当に再生して大丈夫だろうか。今、僕の動きは全国に中継されている。再生したら、内容は国民に広く知れるだろうか。国家の妙な機密とか入っていないだろうか。


 オルゴールを右手に持ち、じっと見つめる。


『早く再生しちまえ!』


『何やってるんだ!』


 オルゴールの持つ効果はどうやら国民に知れているようだ。マサヒデから送られた意味までは知られてはいないようだが。


 観念するか。魔法をかけ、セキュリティを突破する。


『ソネット様。ガーネットプリンスの開発を再開されてはいかがですか? このままでは器楽派の勢いを止めることはできませぬ。王権が荒れると国は滅び、民は世界各地を彷徨うことでしょう』


『断る! 彼女を死に至らしめた悲劇をまた繰り返すというのか?』


『新技術の発展には常に痛みは伴います』


『器楽派の技術革新を否定するそなたがそれを言うのか』


『これも国体を守るためです。為政者たるもの、時には泥を飲まねばなりませぬ。ところで、ポエット様は被験体候補にいかがでしょうか? 彼女以外だと竜族やうさぎ族の王族など一握りの人物しか適格な人物はいません』


『お前は、また、僕から大事な人を取り上げようと言うのか』


『何を今さら。血の引いた兄弟と言えど、今は反乱軍の神輿に担がれているではないですか。さっさと捕まえて兵器に作り変えるんですよ。手順は簡単です。ポエット様はアダージョという女のことが好きなのです。その女に毒を盛ればいい。死の衝撃でポエット様を闇堕ちさせるのです。もうすぐ、ポエット様もその女もスパイスの街に着くはずです』


『そんな非人道的なことは朕がさせない!』


『ですが、手段は限られています』


『そんなことするくらいなら、朕が、実験材料になった方がマシだ!』


『ああっ! ソネット様! 行っちゃったよ。どうする?』


『いや、あのアホ王を闇堕ちさせるのもそんなに悪くない案だぜ。本人の口から出てくるとは思わなかったけどな。クックック』


『とりあえず、アダージョとやらを毒殺する作戦はやっておけ。ダメだったらアホ王を闇堕ちさせる』


 オルゴールは、鳴り終わった。


 アダージョさんは毒殺されず、スパイスの街で美味しく食事をしていた。つまり、マサヒデが誰かに命じて、阻止してくれたということになる。


 稲光が遠くに光り、少し遅れて雷鳴。僕の肩は震えていた。


 櫓から矢が飛んできた。僕は軽やかにフォークギターでチョーキングすると、矢は反対向きになり、射手の元に返っていった。


「ひいっ!」


 間一髪で回避し、腰を抜かしているようだ。恐怖で慄いたのか2発目は撃ってこない。


 なりふり構っていられなくなったノアの会の残党と少し戦わないといけないようだ。


『やるじゃん!』


『逃げ腰王子とか言ってたやつ謝れ!』


 お兄ちゃんに僕は命を狙われていると思っていた。お兄ちゃんはとてもかわいそうな人だ。


 僕の名前はポエット。うさぎ王国の第二王子だ。


 お兄ちゃんのピンチをこれから助けに行く。

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うさ耳王子といぬ王子がロックオン!本当は男の僕が二股悪女ムーブしないとみんなの命を救えないなんて
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