第39話 真実は白日の下に
♪アレグロ(現在)♪
レッドカーペットを挟んで俺と王は向かい合ったまま、緊急放送を聞いていた。
ちっ。どうやら、偽物だってことバレちまったみたいだな。ちょうど、ソネット王の攻撃もひと段落して小休止になり睨み合いになっていたところだ。
カメラもこちらを向いているし、白状してやるか。モデュラートへの最低限の義理は果たしてやったわけだし。
変身を解いて元の姿に戻ることにした。特にソネット王のリアクションはない。
なるほどね。既にそんな反応もできないくらい心が蝕まれていたのか。
ノアの会の連中、無茶苦茶するよな。比較しちゃいけないかもしれないが、これだったら、モデュラートのやつの方がよっぽど、良心的だぜ。
たぶん、バベルの会の連中の倫理観も似たようなもんだろ。事前に潰しておいて良かったぜ。
「いかにも、俺はポエット王子ではない! 俺の名はアレグロ! 世間をお騒がせの脱獄囚だ。反乱軍に力添えしてやるのがここに来た理由だが、もうひとつ目的がある。ちょうど、カメラがあるんだ。全世界に配信してもらうぜ」
王がまだ攻撃する気がないことを確認すると、魔法を唱える。
声跡を復活させる魔法だ。戦いながらもちゃんと調査していたのよ。俺ってばクール。
玉座の前に遺された会話を再生する。
『セレナーデ嬢が死んでしまった!』
『やっぱり、女の体にガーネットプリンスは無理があったんだ!』
『どうする? ソネット様のご学友ですよ。いや、それどころか恋人だったとか』
『誰かに罪をなすりつけるんだ。なるべく、我々にとって都合の悪いやつがいい』
『ミラヴェニアの魔法省の入庁式見ました? 生意気な若造がいるんですよ』
『セルパン氏のメンツを潰した男か。ちょうどいい』
『ノアの会の邪魔になりそうな者は抹殺するのみ』
♪ソネット(学生時代)♪
広々としたビーチでの夕暮れ。僕は、愛しのセレナーデさんとデートしていた。
遠巻きにガードマンが立っている。こんなプライベートなことまで関与してくるんだから嫌だなあ。
だけど、僕は将来、王位につかなければならない身。ワガママは言っていられない。
「ねえ。セレナーデ。僕は、将来、王様になるかもしれない。できれば、君を王妃に迎えたいんだ」
「ごめんなさい。ソネット。あなたのこと、私は大好きだわ。だけど、私は夢があるのよ。王族になったら叶えられない夢が」
「そっか。魔法省で出世するんだっけか」
「そう。姻戚ルートではなく、実力で成り上がっていきたい。楽器魔法の時代ですもの。女だって、やれるんだというところを見せて世間をギャフンと言わせてやるのよ」
「君らしいなあ。応援してるよ」
「ありがと」
なんだか、権威でがんじがらめの自分自身がちっぽけな人間に見えた。広大な海原の中の砂粒のように。
「あのさ」
「なあに?」
「ううん。なんでもない」
ノアの会から良からぬ接触があるという噂について聞こうと思ったが、この場の空気にふさわしくないと思った。
♪ソネット(セレナーデの死体と面会)♪
「どうして! どうして、僕は助けてやれなかったんだ! チャンスはあったはずなのに! うわあああ!」
霊安室。セレナーデの遺体。行き場のない感情をぶつける。
「お疲れのところ申し訳ないのですがソネット様。このことはご内密に。世間に知れたら王権が揺らぎます」
重臣のひとりが話しかける。
「お前らが彼女を実験材料にしたんだろ! 未完成の技術だからといって!」
「これは彼女自身が望んだことでもあるのです。大きな力を手に入れて、自分自身の実力を知らしめたいと」
「死人に口無しだからって好き勝手いいやがって!」
「何にせよ。ここは忍耐です。あなた様の背中には、何百万の領民がかかっているのです。私情は捨てなければなりません」
何も言い返せなかった。それは、実質、僕自身が彼女を殺してしまったのと同じだということを意味していた。
♪ソネット(現在)♪
僕たちが通っていたアルスプリマ学園では古典魔法を習っていた。
古典魔法の素養がある者は、より一層、ガーネットプリンスと共鳴する。
僕もだしセレナーデもだ。だが、目の前にいるアレグロとやらは違うようだ。
だから、そこまで、徹底的には自我を失わないのだ。
つまり、僕の方に勝機はある。
いや、そもそも何のために戦っているんだ? セレナーデへの弔いを捨ててまで守ろうとした秘密はこうして暴かれてしまった。
彼女の思い出を捨ててまで過ごした王としての日々は偽りだったのか?
セレナーデ、僕は君を。君のことを。
うがあああああ!
「大変だ! ソネット様がご乱心だ!」
どうやら、僕は我を忘れて暴れているらしい。わずかな残存兵が僕の噂をする。
「攻撃のご命令を!」
「ダメだ! いくら、メッキが剥がれたと言えど王様に弓は引けない! しかも、まだ、偽物も倒していないのに!」
「だが、我々はこのままじゃ全滅ですよぉ!」
僕は、今まで何のために生きてきたのだろう。




