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第38話 はじめてのキスと王子の帰還

♪ポエット(現在)♪


 やっと、城に辿り着いた。どうやら、山から裏門に出たようだ。


 ホログラムが青い空に写しだされている。ソネットお兄ちゃんと僕、つまりアレグロの激しい死闘だ。


 このままでは、お兄ちゃんが死んでしまう。一刻も早く止めなきゃ。


 兵士から襲われないか。恐怖を感じたが意を決して見張りから見える場所に姿を見れると高台の兵士は叫ぶ。


「ポエット様! 本物のポエット様が到着なされたぞー! 早く橋を降ろせ! メディア室へご案内するのだ!」


 良かった。歓迎されているようだ。


 橋が下されると狼族の男が、手招きをしながら自分も歩み寄る。


「メディア部のフェローチェといいます」


「道中で木こりの親父さんには世話になった。親父さんがいなければここに辿り着けなかったかもしれない。親父さんから伝言を預かっている。もし、死にそうだったら逃げろと」


「そうですか。親父のやつ、粋なことを。ですが、私はソネット様を放っておいては逃げられない。さあ、どうか中へ」


 立派なプロ意識だ。見習いたいくらいだよ。


 手早くメディア棟の建物に案内される。はっきり言ってあまり入ったことがない。


 フェローチェの導くまま、ついて行くしかない。


 螺旋階段を走りながら登る。登山の後にこれはつらいが贅沢は言っていられない。


 走るだけでも息が上がるのに、正装が体を締め付ける。


 しばらく走っていると、上の階から足音がする。上から降りてきた顔は見覚えがあった。この顛末の黒幕のひとりと言えるかもしれない。


「セルパン! 貴様!」


 胸ぐらを掴んだ僕をグロウルが止める。


「やめとけポエット! そんなやつに構っている時間はないはずだ!」


 グロウルの言う通りだ。こいつを処罰するのは後だ。


 当のセルパンは土気色の顔をしていた。声を絞り出すように訴えてきた。


「お願いです。ノアの会を止めてください」


「貴様がノアの会を招き入れたのだろう?」


 こんな会話している場合ではない。無視して先に行くか? 迷っていた、その時だった。


「ノアの会は堤防を決壊させる準備に入った。私も止めたのだが、振り切られて。ポエット様! お力を貸してください! やつらを止めてください!」


 悲痛に満ちた表情をしている。


 どうする? 罠じゃないのか? 時間稼ぎをしようとしているのではないか?こんな男を信用していいのか?


 落ち着け。落ち着くんだ。リスクマネジメントするんだ。


 メディアに顔を出して、停戦を訴えるのは僕ひとりで十分のはずだ。


「ここは二手に別れよう。アダージョさんとグロウルは、セルパンについて行ってくれ。僕はこのまま、メディア棟をのぼる」


「わざと戦力分散させる罠かもしれないぜ」とグロウル。


「その可能性は僕も少しは考えたけど、こんな時々刻々と状況が変化して、情報が錯綜している局面で、敵もそんな不確かな作戦にリソースを割くとは思えない。ひとまず、セルパンを信じよう!」


 僕たちは二手に分かれることにした。 


「ちょっと待って」と、アダージョさんの声がするので振り向く。


 すると、唇に温かくて柔らかい感触がする。


 キスされたことに気づくまでほんの少しの時間を要した。


「アダージョさん」


「死なないでね」


 竜族の大切な口づけを僕なんかに。いや、とっくの昔に相思相愛で、これは、最後の確認の儀式なのかもしれない。


 子どもの頃から見てきた夢を思い出す。もし、あれが正夢ならば、アダージョさんとの永遠の別れが目の前に。


「お熱いところを申し訳ないが時間がない。急ごうぜ」とグロウル。


「わかってるよ。そんなこと」


 僕たちは、二手に分かれた。


 この騒動が終わったら結婚しよう。そう言いたかったが言えなかった。彼女の死を予兆する言葉のように思えたから。


 そして、メディア棟を駆け上り、魔法カメラの前に立つ。走ってきて乱れた襟を整える。


 アナウンサーが叫ぶようにこちらを見る。


「ポエット王子が! 本物のポエット王子が到着しました! 兼ねてより魔法ニュースでお伝えしていた通り、今、ソネット王と戦っているのは、擬態魔法を使った偽物です! さあ、ポエット王子! こちらへ」


 ゆっくりと、だが、歩幅は広く進んだ。そして、魔法カメラに視線を向ける。


「僕はうさぎ王国第二王子のポエットだ。証拠をお見せしよう。王家にのみ伝わる身分証明魔法だ」

 

 男声魔法を唱えて、ホログラムの王家の紋章をカメラの前に見せる。


「今、兄のソネット王と戦っているのは僕の偽物だ。反乱軍の者たちよ。直ちに投降せよ。今、投降すれば、恩赦を王に働きかけることを約束しよう。繰り返す。投降せよ。そなたらの反逆行為には正統性はないはずだ」


 静寂が訪れた。城の内外で喧騒とした金属音と人の声が飛び交っていた。それが、今は僕の声に耳を傾けていた。


 僕が喋り終わってしばらくして、機械音声が流れる。


『マジじゃねぇか。本当に偽物だったんだ』


『反乱軍、マジでクズだな』


『言い訳放送まだ?』


 市民の声だ。王宮で検閲されてピックアップされたものではあるが、市民が魔法チャットに打ち込まれたものが届く。


 ひとつはっきりしたことがある。


 魔法チャットがこちらに届くということは、マジカルプライベートネットワークの一部が解禁されたということになる。


 どういう政治力学かはわからないが、遮断を続ける名目が、僕の登壇により、失われたということだろう。

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うさ耳王子といぬ王子がロックオン!本当は男の僕が二股悪女ムーブしないとみんなの命を救えないなんて
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