表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/38

第36話 王宮への道

♪ポエット(現在)♪


「起きな。よく晴れてるぜ」


 グロウルの声に導かれ、目を覚ます。鳥がさえずる声が聞こえる。


「どうやら、俺たちは二晩ここで足止めを食らったようだ。だが、安心しろ。足止めはアレグロのやつも同じだ。まだ、やつは、王宮にまでたどりついていない」


 出発してから、5日後。アダージョさんが死の宣告を受けた日が今日ということになる。


 アダージョさんは僕の心配とはよそにまだ眠っていた。胸の奥が痛む。


 体を揺さぶると、アダージョさんはまなこを擦った。


「おはよう」


「おはよう。アダージョさん。今日は最終決戦だ」


「そうね。頑張らなくっちゃ」


 太陽のように明るい笑顔。僕はこの笑顔を失いたくない。


 親父さんは朝一番で野良作業に出ていったらしく小屋にいない。娘さんに二人分の礼を言うと、王宮への道に戻った。


 王宮に近づくにつれ、道は太くなっていく。どうやら、これ以上、迷わずにすみそうだ。安堵のため息をつく。


 そして、大通りに合流する橋を渡ろうとしたが……。


「橋がない」


 人が1人ずつ辛うじて渡れたであろう木製の橋は陥落していた。


 王宮で公共事業の削減が検討されていたことを思い出す。コンパクトシティ構想とかで、不便な田舎のインフラ工事に対する予算を減らしたのだ。


 国土開発が国力の基盤となると反対派は主張したが、時代遅れと黙らされてしまっていた。


 このままでは王宮に辿り着かない。こんなところで、こんな理由で危機に陥るなんて! 


 外交や軍事だけでなくこういった問題も安全保障につながるのかもしれない。論争に無関心だった昔の自分の愚かさを悔いる。


「即席の橋は作れないものか……」


 土木に詳しいグロウルに相談するが首を横に振る。


「あまりに川幅が広すぎる。俺たちが効率よく作っても3日はかかる」


「それじゃあ、アレグロに先に到着される」


「そういうことだ。橋を作るのは諦めた方がいい」


「じゃ、じゃあ、空を浮遊する魔法なら」


「浮遊魔法の限界は、中学で習うはずよ。庶民の義務教育にせよ。王族の帝王学にせよ」


 アダージョさんの言う通りだ。浮遊魔法は地面が硬い場所か、水面だとしてもため池のような波が静かな場所しか無理だ。水流が激しい川や海で使えたものではない。


「わ、わかっている。他に手段がないから言ってみただけさ」


 流されたらと思うとゾッとするような断崖絶壁を眺めて武者震いする。


「山を降りて回り道するか? 無駄足してしまったことにはなるが、走れば1.5日程度で」


「おそらく、今日中でないと意味がない。アレグロに先を越される」


 議論は空転する。先に進みたくても進む道はない。目の前に大通りは見えているのに!


「川の流れを少しだけ止めたらいいのか?」


 その声の主の方に、僕たちは振り返った。ロッジに泊めてくれた親父さんがいた。


「ちょっと、離れてろよ。少し魔法を唱えるから」


 親父さんは聞いたことのない男声魔法を唱えた。すると、ほんの僅かだが、水流が止まっているゾーンができた。


「今のうちに渡ろう! たぶん、この魔法は長時間は無理だぜ」


 グロウルの声を合図に浮遊魔法で、清流の隙間をかいくぐるように飛び越え、そして、川を渡った。


「ありがとうございます!」と、3人、川越しにお礼を言った。


「あんたら若い人が忌み嫌っている新古典学派の連中いるだろ。やつらが30年前に編み出した新譜を土木現場でアレンジして使ってる魔法だ。まあ、なんて言うか、新しいとか古いとか、そんなことばかりにこだわって好き嫌いせず、良いものは良いんだ。色々覚えとくもんだせ」


「肝に銘じます!」


 時を超えて残る魔法というのは、超党派性があるのかもしれない。時代の徒花のように見えるテクノロジーであってもきっと何かの形で後世に足跡を残すのだ。


「それと、もし、王宮で、うちのバカ息子。フェローチェに会ったら言ってやってくれ。死ぬと思ったら国を放っておいても逃げろと。命があればまたチャンスはあると。まあ、王族っぽい風体のあんたらに頼むことじゃないかもしれんが……」


「伝えます! きっと!」

 

 急ぐので礼もほどほどに僕たちは王宮へと向かった。間に合ってくれ!


 息も絶え絶えに走る中、鳩がやってきた。紙を咥えている。伝書鳩だ。


 早歩きしながら、手紙を読む。


「マサヒデからだ!」


「なんて書いてあるの!?」


「ミラーコードの裏蓋を開けてくれって書いてある!」


「どれどれ。ねじ回し魔法なら任せて! 何か入っているわ! 小型のオルゴールみたい!」


 アダージョさんから渡された道具には見覚えがある。


「これは、声紋を記録する装置だ。ボイストレーサー。なんでこんなものが」


「記録されているものを聞けってことじゃない? 大事なことが記録されているのかも!」


 僕は、落ち着いて深呼吸すると、声紋を再生する男声魔法を唱えた。


『ソネット様。ガーネットプリンスの開発を再開されてはいかがですか? このままでは器楽派の勢いを止めることはできませぬ。王権が荒れると国は滅び、民は世界各地を彷徨うことでしょう』


『断る! 彼女を死に至らしめた悲劇をまた繰り返すというのか?』


『新技術の発展には常に痛みは伴います』


『器楽派の技術革新を否定するそなたがそれを言うのか』


『これも国体を守るためです。為政者たるもの、時には泥を飲まねばなりませぬ。ところで、ポエット様は被験体候補にいかがでしょうか? 彼女以外だと竜族やうさぎ族の王族など一握りの人物しか適格な人物はいません』


『お前は、また、僕から大事な人を取り上げようと言うのか』


 魔具から聞こえる声紋はここまでだ。ここから、先はマジカルプライベートネットワークのセキュリティレベル5の認証がいる。僕は元王族なのでアクセス権限はある。だが、現在は戒厳令中。まだネットワークが遮断されたままだ。


 片方の声は兄ソネットだ。もう片方は重臣セルパンの友人という名目で勝手に出入りしている得体の知れない船長という人物。世界組織のノアの会から派遣されているらしくなかなか拒絶できない。マサヒデが彼の出入りに常々苦言を呈していたことを思い出す。とにかく、彼は正規の手続きを経ずに出入りすることからして問題人物だ。下手したら、名前を借り出されているセルパン本人ですら、彼の頻繁な出入りをそこまで把握していないくらいではないか。


 それはともかく、話の中身は軍事兵器開発の話し合いのようだ。


 ガーネットプリンスは聞いたことがある。人間を改造し、人心を破壊し、生物兵器に作り変えるという。船長から僕の改造を持ちかけられ、お兄ちゃんが拒絶していたようだ。


 お兄ちゃん……。僕が改造されないように、守っていてくれていたんだ。最近、血の通った会話はなかったけれど、ちゃんと僕のこと、心配してくれていたんだ。ごめんね。気づいてあげられなくて。


 それにしても、この会話に出てくる彼女とはいったい何者だ。そして、今、マサヒデが、これを僕に聞かせようとする意図は?


 マサヒデは、王都を水没させる計画を耳にして命が狙われるようになった。そもそも、何でそんなことに深入りするような危険な諜報活動をただの執事が個人でするようになったんだ?


 おそらく、もっと重要な別の情報を耳にした。その調査の途中で、たまたま芋づる式に水没の話を知ったに違いない。


 その情報は何か? 誰かを新たにガーネットプリンスにしようとしていた。誰を? いや、そんなの自明ではないかっ!


「お兄ちゃんがガーネットプリンスに作り変えられようとしている! そんなことはさせない! あってはならない! 一刻も早く王都へ向かおう! まだ、間に合う! お兄ちゃんを救えるかもしれないっ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ