第33話 桃園の誓い
♪ポエット(現在)♪
結局、僕たちは、街には寄らずに野宿をすることになった。
あたりには桃の花が咲いている。スズランの花が咲く頃には、大方散るはずだが、派手に咲いているということは、それだけ標高の高い場所に歩いて来たということだろう。
この国の地形は火山も多く、起伏に富んでいる。隠れ家になる穴も掘りやすい。アナウサギがご先祖様のうさぎ族にとって暮らしやすい地理条件だ。
グロウルのやつ、一人で焚き火に当たりたいだなんて言って、ちょっと離れたところに行っちゃった。声を合わせられなかったこと、怒っているのかな。
これから、三人の心と声を合わせないといけないのに。幸先が悪いなあ。
官吏から渡されたミラーコードを眺める。これが、もしかしたら、予言書に書いてある聖具かもしれない。
『うさぎの血を引く者、いぬの牙を宿す者、竜の魂を抱く者
三つが王宮に声を重ねる時、闇の時代は光の時代へと転じる
竜は冥の国を越え、三つの聖なる響具は、奇跡を呼ぶ』
3つか。もし、これが本当だとしたら、残り2つはなんだろう?
手元にダンシングラジオが転がっていた。まさかね。
電源を入れてチャンネルを回してみる。AMポルカにでもしてみるか。異世界チェコ、ポーランド方面の伝統音楽だっけ。
『うさぎ王国の反乱軍が一名、王都に迫っているようです。安全のため、城下町の住人に避難勧告が出ています。ただいま、通常放送を中断しております』
電源を切る。
どうやら、緊急放送が断続的に入っていて、いきなり、踊らされるというわけではないらしい。
偽物め。どうやら、まだ、討ち取られていないらしい。何を考えているんだ。脱獄囚だと話は聞くが、何の目的だ。
そっか。僕、その渦中の人物なんだなあ。
美しい夜景を見るのも、これで、最後かも知れない。
「隣いいかしら?」
「アダージョさん!」
長旅を共にしてきた竜族の女性が火をくべている僕の隣に座る。
「綺麗なお星様ね。桃の花も美しい」
「美しいのは君だよ」
「まあ、嬉しい」
もうすぐ、死ぬかも知れないと思うと、軽口を叩いてしまう。
このまま、旅を続けていたら、この女性を死なせてしまうかもしれない。でも、旅はやめるわけにはいかない。
「君だけ、旅から降りてくれないか。危険に晒したくない」
「どうして?」
「それは……」
もう、隠し続ける理由もないか。予言書の話をすることにした。
「そっか。やっぱり、私、死ぬ運命だったか」
あっけらかんとした顔をしている。
「どうして……」
「死の宣告を受けてるからね」
アダージョさんから、死神がやってきたことを聞かされる。
「そんな思いをしてまで、僕についてきてくれるなんて。僕はなんてひどいことを」
「気にしないで。愛する人のためですもの。夢にまで出てきた」
「夢!! やっぱり、アダージョさんも僕と同じ夢を見ていたんだ。でも、どうして」
「私の正体、アレグロなんだよ」
アダージョさんは教えてくれた。僕の子どもの頃に魔法省を案内してくれたのは自分であること。アダージョさんはアレグロさんの中から分裂した女性人格であること。ずっと、僕のことを心配してくれていたことを。
「アダージョさん。本当の君が誰だろうと僕は愛している」
「ありがと。私もあなたのことを愛してるわ」
緊張感のある沈黙。いい雰囲気かも。
これをチャンスにキスを待つように唇を尖らせてみる。ちょっとだけ瞳を閉じてみたりして。
だが、アダージョさんは意に返さないように立ち上がり、どこかに行ってしまった。
方角的にグロウルの焚き火だ。
♪グロウル(現在)♪
焚き火が消えかけていた。そろそろ木を焚べるか。そう思ったとき、アダージョがやってきた。
「元気なさそうね」
「別に」
「官吏のおじさんの言葉、気にしてるの? 顔色、悪かったよね」
「なっ」
昼間のやりとりを平然とした顔をして聞いていたつもりだったが、隣に居るこの女には全てがお見通しというわけか。少し焦っていたかもしれない。
「何があったか、聞かせて欲しいな」
「ちっ。噂話好きかよ」
「話したくなければいいよ。ただ、いつも強がっている君の背中が寂しそうだから。ちょっとだけ、君の秘密知りたいな」
長い髪をたなびかせて、俺の隣に座る。
しばしの沈黙。耐え切れなくなった俺は白状することにした。
「弟との政争でいぬ王国が取り潰しになったのは知っているな。弟がまさしく器楽派の傀儡だった。声楽派という名の外国勢力に担ぎ上げられた俺は、弟の部下と内戦をした。だが、俺も弟も追い出された。バベルの会の連中に国は乗っ取られた」
「そっか。今のうさぎ王国と同じことになっていたんだね」
「俺は、変わりゆく現実を受け入れられなかった。目の前の現実を守ろうとするあまり現実を壊してしまった愚かなリーダーだ。あの爺さんの言う通りさ」
「自分を卑下しないで」
「過去は変えられないさ」
「だからこそ、未来を変えようとして、私たちの旅に力添えしようと思った。違う? これは、あなたにとって、ただのお金のための仕事じゃない。いぬ王国と同じ失敗をうさぎ王国もしてほしくない。リベンジなのよ。あなたはポエットくん思いのとても優しい人なのよ」
何かこらえてきた感情が込み上げてきた。男らしくしなければならないのに。嗚咽が止まらない。
「無理しないでね。あなたにはお国再興の夢があるのだから。よしよし、いい子いい子。そんな、不器用だけど真面目なあなたが好きよ。愛してるわ」
やわらかい感触。俺を抱擁してくれているようだ。
♪アダージョ(現在)♪
僕、ナチュラルに二股しちゃってる。ポエットくんにもグロウルくんにも愛を囁いてしまった。
だけど、こうでもしなければ、僕が仲介役にならなければ、3人の合唱魔法は成功しない。魔法に失敗すれば、王都は水没するかもしれない。
本当は男の僕が二股悪女ムーブしないとみんなの命を救えないなんて!
しばらくすると、グロウルくんは泣き止み、ポエットくんの元へ向かって歩くので慌てて僕もついていく。
「ポエットよ。ここで音頭をとってくれ。ちょっと、ここで旅の目的を確認したい」
ポエットくんグロウルくんの提案に戸惑って目を泳がせていたが、意を決した顔になる。
3人の手が自然に重なる。
「僕たちは思想は違う。だが、同じ目的で結ばれた仲間だ! 同じ志は持てなくてもいい。同年同月同日に生まれずともいい。同じ時代を共に駆け抜けよう! うさぎ王国を救うために!」
「えいえいおーっ!」




