第30話 恥の多い快進撃
♪中隊長(現在)♪
軍用テントに斥候部隊の人間が報告に来る。
「大変です! ポエット王子が単騎で突撃してきます! 単騎です! 馬のおもちゃにまたがっています!」
言っている意味が何一つわからない。言葉の意味を頭の中で反芻する。が、やはり、意味がわからない。
「望遠鏡を高台に持ってきてくれ! 自分の目で見る!」
高台にのぼり、望遠鏡に目をやる。確かに、猛スピードで迫っていた。うさぎ王国次男のポエット王子で間違いない。遊園地の馬のおもちゃにまたがって。
「な、なんだあれは!?」
「どうしましょうか? さすがに、反乱軍の旗印とはいえ、我が国の第二王子に直接、魔法を浴びせるのはさすがに⋯⋯」
「そこは遠慮しなくていい。ソネット様の書状はある。だが、確かに士気には影響する。鼓舞してくるか」
作戦本部に戻り、司令官を集める。
「いいか! ポエット王子の首を取った者には、褒美をさずける! 首を取った兵士にはにんじん農場を10モフタール! 所属する小隊の兵士全員に、0.5モフタールの水菜畑だ!」
「おおお!」
うさぎ族のやる気を引き出すのは、野菜農場がいちばん良い。なにせ、食い意地の張ったやつらだからな。
これで、突撃させれば、単騎などすぐに討ち取れる⋯⋯はずだった。
「なぜだ! なぜ討ち取れない! うちの部隊が次々とやられてるだと? 500人はいる部隊だぞ! たったトランペット1本に!?」
ポエット王子は、飛び交う弓矢を軽快に交わし、たまに当たりそうになったら、バリアを貼る。それでいて、トランペットを一息吹けば、うちの部隊が次々と倒れていく。
「あ、悪夢だ⋯⋯。くそっ! 後ろの部隊に伝達しろ! 我が部隊の2割が壊滅! 至急援軍を送るようにと!」
「はっ! わかりました! ですが、間に合うのでしょうか?」
「それは、後ろの部隊が決めることだ。我々は少しでも食い止めるのみ」
♪ポエット(現在)♪
「魔法ニュースを今すぐ見ろ!」
公園の東屋で休憩していると、グロウルがユーフォニアムで軽快にメロディを奏でてホログラムを見せる。
ニュースの内容は、僕が、反乱軍で単騎突入している⋯⋯ということらしい。
だが、当然、本物の僕はここに居る。きっと、偽物に違いない。だが、誰が⋯⋯。
ただ、今、言えることは、非常にまずいことになっている。このまま快進撃が続いてお兄ちゃんがやられでもしたら⋯⋯。
それにしても、遊園地のおもちゃの馬にまたがるなんて……。なんで、自分の預かり知らぬところで、恥の多い人生が始まっているんだ。まるで、告白しようとも思っていない相手に振られたかのような気分だ。
「アレグロだわ⋯⋯」
声を発したのはアダージョさんだった。
「誰?」
その質問にアダージョさんは「しまった!」とでも言いたげに口を手で隠す。
「あ、竜族の知り合い⋯⋯かな? とにかく、知り合いがなりすましているのよ。体内から発しているオーラの形でわかる」
「なるほど、脱獄囚のアレグロか。ニュースで見たことがある。なかなか魔法警察が探しても見つからないと言っていたが、こんなとんでもないところにいたわけか」とグロウル。
「ひどいもんだよ。兵士が200人も負傷だってさ」と僕は返す。
「ふうん。死人は何人だ?」とグロウル。
「あ、聞きそびれたな。わかんないけど、負傷者の規模からみて、20人は死んでそうだよね。でも、うん? 死者の数、本当にはじめから放送していないんじゃ? いったい、どうなっているんだ?」と僕。
「アレグロは⋯⋯誰も殺していないのかもしれない」
アダージョさんはつぶやいた。
♪アダージョ(現在)♪
そう。アレグロが、脱獄して最初の被害者は、観察保護官のブオーンさん。死のプレリュードで昏睡状態に陥れた。効果は1か月後に死に至る。すぐに死ぬわけじゃない。
その後、派遣魔法エンジニアを脅す。ここでは命は取っていない。
中で、ロボット警備兵を破壊。だが、これは、修復が容易な壊し方をしている。その後、牛若と弁慶に模したガードマンに負傷させるが、一命はとりとめたと報じられている。
ゾフィさんやポエットくんの命を取ろうとするかのような振る舞いをするが、やはり、殺してはいない。
そして、大平原での死闘。負傷者や死のプレリュードによる意識混濁者はいるようだが、おそらくは誰も死んでいない。
偶然か? いや、ひょっとしたら、僕の目に見えてないところで、誰かの命を奪っているのかもしれない。
だが、一つの仮説は立つ。アレグロは、誰も殺す気はないのだとしたらどうだ? 戦争を過度に悲惨なものにしないようにコントロールしているのだとしたら⋯⋯。
死のプレリュードは、アレグロの死と共に解除されるはず。つまり、戦いの転びようによっては、アレグロは死人を一切出さずに、戦況だけをかき回す。そんなことが起きるかもしれない。
いや、考えすぎか。アレグロは怒りに囚われている。そこまで考えて行動しているはずがない。
「マサヒデ! 大丈夫か!」
遠くからポエットくんの悲痛な声が聞こえた。どうやら思索にふけっている場合じゃないらしい。




